九話 リオン 修正済み
水浴びをしたことをいたたまれなくなって謝ってから若干気まずくなってしまい、沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは俺だ。
微妙な空気に耐えられそうになかった。
『そういえば名前はなんて言うんだ?』
「...覚えてない」
『...そうか』
記憶がないのか......。
まあ何か訳ありなのは最初の状態で分かってたが。
「あなたは?」
『え?佐藤だ』
「サトゥ...」
なんか微妙に違う発音で覚えられたような気がするが...まあいいか。
些細なことだ。
「助けてくれてありがとう」
『まあ、たまたまなんとかできただけだから』
実際、本当に偶然なんとかなっただけなので少し照れくさい。
小規模な爆発の連続で川から引き上げるパワープランもあったのだが、結構な確率でとどめを刺していただろうし、憑依してドレインで回復できたのは本当に偶然だった。
ただ女の子の方は現在名前がない状態か...呼ぶのに困るな。
『名前がないのは不便だな』
「じゃあサトゥがつけて」
『いいのか?』
「いい」
『うーん...ちょっと考えるか』
とは言ったはいいが、名前を付ける経験がゲームか実家で飼ってたペットしかない。
まあゲームの名づけでは結構凝ったりもしていたので、全くセンスがないわけではないと思いたいが、人の名前だ。
責任重大である。
灰色の髪に赤い瞳。
うーん...。
灰色...灰被り。
『リオンはどうだ?』
「リオン...」
『ああ、リオンだ...気に入らなかったか?』
「ううん...いい名前、ありがとうサトゥ」
少しうれしそうに答えるリオン。
様子からしてどうやら気に入って貰えたようだ。
『そういえばリオンは何か覚えてることとかあるか?』
「覚えてること?」
『ああ、結構酷い怪我してたし、その鎖も気になるしな...まあ話したくなかったら話さなくてもいいけど』
もしかしなくても普通の状態ではなかったリオンのことだ。
相当につらい思いをしているだろうからな。
リオンに無理をさせないように、火を起こして落ち着いて話せる環境を整えて返答を待つ。
「ん...大丈夫、ただ、あんまり覚えてない」
『まあ覚えてることだけでいいさ、勿論いやだったら構わないからな』
そういうとリオンは少しずつ話し出してくれた。
リオンの記憶は断片的で。
多分奴隷商人に捕まっていたであろうこと。
何かに襲われて逃げたということ。
最後は川に落ちて流されたということ。
くらいしか分からなかった。
まあおおむね予想通りだった。
『そりゃあ辛かったな』
「覚えてないから...そうでもないかも」
覚えてないからノーダメか。
いい性格してるぜ。
俺がそんなことを考えていると。
ぐう~~~。
とお腹のなる音が会話の一瞬の沈黙をぶち破って響き渡った。
『とりあえず飯でも食うか?』
「......」
真っ赤になってうなずくリオンに年相応な部分を感じつつ、俺は近寄ってきていた小型の動物を狩るために火の槍を構えるのだった。
俺の二の舞にはさせねえよ!飯になりなヒャッハー!!!
リオンの名前は灰被り姫。
サンドリヨンから訛らせてリオンになりました。