05 攻略の糸口
……さて、少し話を移そう。
この世界の戦況の話だ。
邪神の勢力と、こちら側の勢力。
正直に言って、かなり分が悪い。
魔物の巣穴である迷宮があちこちに構築されて、世界の大半は魔物の勢力圏となっている。
人の生存圏は年々縮小傾向にあり、この国だって僕達が送り込まれるまで、滅亡の危機に瀕していた。
恐らく、邪神は人を滅ぼすつもりなのだ。
それを回避するには、各地に構築された迷宮を残さず潰し、女神の眷属である僕達と対となる、邪神の眷属を倒す他ない。
虎姫達女子は日々奔走している。
位置も分からぬ迷宮の場所を探し回りつつ、湧き出した魔物を倒している。
男子は相変わらずそれを待つだけだ。
彼女達が扱う武器を作る鋼太郎の他、作戦や戦略の方向で支援する者達もいるが、結局矢面に立たされるのは彼女達だ。
「――彼女達がもし失敗したら、俺達は一体どうすればいいんだろうな?」
「……春信か」
街を歩いていると、背後から唐突に声を掛けられた。
今までどこに行っていたのやら。
彼が何か思惑ありきで動いているのは薄々勘付いている。
だが、その思惑そのものは未だ見当も付かない。
「それが僕たちとは別の行動を取る理由なのか?」
「理由も何もねぇよ愛徒。そもそも、俺達の目的は一つだろう?」
「邪神の討伐か」
だが、それは虎姫を中心にして行なっている。
この地域の奪還も、少しずつではあるが進んでいる。
「今のやり方では駄目だ、俺達は何か見落としている」
「……みんな分かってるさ、そんな事」
分かっている。
進んではいる。
でも、少しずつじゃ駄目なんだ。
未だ影も掴めぬ邪神の眷属。
迷宮攻略にも時間がかかり過ぎだ。
これでは、俺達が消耗するのが先だ。
虎姫達の刃は、邪神までには届かない。
「そういえば、ようやく他国と連絡が着いたらしい」
「他国?」
「そうだ。こことは別の、魔物達に抗う別の国。ここに俺たちがいると知って、共同作戦を申し出ているらしい」
「いい事じゃないか。停滞したこの状況を打開する鍵になるかもしれない」
しかし、春信の顔は相変わらず険しかった。
「それは違う」
「……何が?」
「打開の鍵は他にある、俺達の手の中にな」
「何を言って――」
そう言いかけてハッとした。
女神の刻印。
俺達男子が受け取った、女子のものと違う加護の証。
「俺達も戦うべきだと?」
「そうだ、お前なら分かるだろ。まだ長尾達と肩を並べる事を諦めていない、お前なら」
「それはそうだが……」
この加護は、未だその力を見せていない。
そんな状態で戦うことは出来ないし、直感だが、恐らくこの力は戦うための力ではない。
だから、肩を並べる事は出来ない。
虎姫の言う通り、今のところ足手纏いにしかならないのだ。
「虎姫は明日にも迷宮の攻略を始めるつもりだ」
「見つかったのか?」
「ああ、親玉を倒せばこの一帯は解放される。その後は例のコンタクトが取れた別の国という事になるだろう。本当に倒せれば、だが」
「倒せないと?」
「倒せると思うのか? 通常の魔物にも手間取る今の状況で」
春信の言い分は尤もだ。
だが、今は女子を信じる他ない。
少なくとも、前線に出ていない俺たちがどうこう言える問題ではない。
でも――。
「やっぱり、信じるのと押し付けるのとでは、意味が違うよな」
「俺達も攻略の糸口を探さなきゃならない。そして俺が思うに、それを最初に見つけるのはお前か、鋼太郎あたりだと思う」
「僕と、鋼太郎?」
「あいつもあいつなりに糸口を探しているよ。その為に色々試行錯誤もしているみたいだ」
鋼太郎が?
好きにモノを作ってる訳じゃなかったのか?
僕は鋼太郎から受け取った刀を見る。
彼曰く、失敗作だと言っていたが……。
彼なりに加護の使い方を探しているのだろうか。
「もし長尾達が負けたら、愛徒はどうする?」
「僕は……」
想像もつかない。
虎姫達が負けたら。
否、死んだら僕達はどうするか。
想像もつかない……いや違うな。
きっと僕は、それを想像したくないのだ。
「……邪神を倒せ。愛を以て、この世界の守護者となれ、だったか」
春信がそう呟く。
あの女神が何を思ってそう言ったのか、その全てを理解することは出来ない。
本当に単なる男嫌いでこの状況を生み出したというのなら、俺達がこの正体不明加護の証を持つ理由としては矛盾している。
ただ嫌いなだけならば、加護など最初から渡さない。
だから、理解出来る事はひとつだけ。
鍵は、この手中にある。
「今日、長尾達の会合がある。お前も同席しろ、愛徒」
「分かった、行こう」
思い出せ、これは決して他人事ではない。
僕達の問題だ。