03 女の子とお食事デートに行ってみたい
春信と別れた後、僕は鍛冶場へと向かった。
ここでは友人が働いている。
信用ならない春信とは違って、真面目ないい奴だ。
時間を調整して行ったから、今は丁度休憩の時間の筈だ。
「こんにちはー、鋼太郎います?」
「……直衛か」
そんな当の本人は休憩中の筈なのに、黙々と刀の手入れをしていた。
「あれ、もしかして忙しかった?」
「いや、これは暇つぶしだ。気にするな」
暇つぶしに仕事って……どんだけワーカーホリックなのさ。
功刀鋼太郎、仲の良いクラスメイトの男子だ。
祖父が刀鍛冶をやっていた事もあり、こうして鍛冶場に入り浸っている。
ここの親方き弟子入りした訳では無いそうだが、すっかり気に入られて、仕事を手伝ったり、好きに何か作っていたりする工作マニアだ。
「その刀、自分で打ったの?」
「試しにな。欲しければくれてやる」
「いいのかい?」
「どうせ硬くて鋭いだけのなまくらだ。それでも良ければ」
鋼太郎の持つ刀は、美術品の様な日本刀というよりも、幅広の山刀と言った方がいい代物だった。
長さもやや短めだが、太い。
幅広で、刃が厚い。
暇つぶしと言っていたほどだし、そこまで丹念には作らなかったのだろう。
彼はこのような時に謙遜したりはしない。
きっと言う通り、ただ硬く、そして鋭いだけの代物なのだろう。
「……この程度でいいか。持ってけ」
「ありがとう、大事に使うよ」
「雑に使え。丈夫さだけがそいつの取り柄だ」
ちなみに刀にはご丁寧に銘が打ってあった。
刻まれた銘は、鈍。
成程、徹底している。
「そういえばご飯食べた? まだなら一緒に食べない?」
「いや、食った。悪いな、他を当たってくれ」
「そっか、どうしようかなぁ」
春信はもう捕まらないだろうし、どうやら今日は大人しく一人で食べるしかないらしい。
「折角だ、長尾でも誘って来たらどうだ。あいつにも気分転換が必要だろ」
「えぇ……僕嫌われてるから無理だよ」
「……そうか」
まぁ、確かに虎姫は最近働き詰めだし、色々と心配事や気苦労は尽きなそうだ。
多分その心配事に僕も含まれているのだろうと考えると、人ごとにいうのも悪い気がするが。
「――じゃまするでー!」
そんな話をしていると、軽快な挨拶と共に、二人分の人影が庵に入って来る。
村上清子、そしてそれに追従する大人しい女子は霧野夜宵だ。
「……邪魔すんなら帰れ」
「あいよー、って……夜宵本当に帰んな! 今のはコイツのしょーもない冗談や!」
「そのしょうもない冗談に毎度付き合わされているのは寧ろこちらなのだが」
鋼太郎は少しムスッとして言い返す。
「ははは硬い事言いなさんな鋼太郎。それに、満更でもなかろう?」
「お前本当に帰れ」
ちなみに清子の方言は適当だ。
彼女は関東圏の出身だし、親も関西とは縁も所縁も無い。
鋼太郎とは小学校からの腐れ縁らしく、鋼太郎が工業高校に通いたかったのを、無理を言って同じ学校に入ってもらったらしい。
まぁ、要するにぞっこんだ。
まだ付き合ってはいないと聞くが、傍から見れば微笑ましい男女のやり取りだ。
そんな二人のやりとりを眺めていると、横から夜宵が声を掛けてきた。
「な、直衛君。こんにちは」
「霧野ちゃんこんにちは。今日は何しにここへ?」
「新しい刀が欲しくて。今使ってるの……折れちゃったから。直衛君は非番?」
「そ、暇潰しに鋼太郎を冷やかしに来てる」
「えっと、あんまり邪魔しちゃダメだよ?」
……くぅ、可愛い。
流石は男子の守ってあげたくなる小動物系女子第一位。
日頃から虎姫にキツく当たられているからか、彼女の優しさが一層沁みる。
「……そこに並んでいるのから好きなのを持っ行くといい。あとコイツ連れて帰ってくれ」
「なんや、冷たいのう。折角可愛ええ幼馴染が会いにきてやったのに」
「俺は仕事に戻る」
「待てやコラちょっとくらい相手せい!」
……うん、煩くなってきたな。
邪魔しちゃ悪いし、僕はさっさとお暇するとしよう。
「近衛君、もう行くの?」
そう思って戸に手を掛けると、刀を選び終えた夜宵が聞いてきた。
「うん、昼ご飯もまだだし。そろそろ良いかなって……あ」
そう言えば、鋼太郎をご飯に誘いにここに来たんだよな。
このまま一人で食べるのも良いけど、折角だ。
この場に夜宵を一人にしておくのも何だし、誘ってしまおう。
「良かったら、一緒にご飯食べる?」
「行く!」
夜宵はやや食い気味に答えた。
にしてもそんなにお腹空いてたのか……よし、今日は奮発してしまおう。
今日は僕の奢りだ、日頃から頑張っている彼女には、沢山食べてもらおう。