02 でもいつかは刀で銃弾を斬ってみたい
翌日、非番で暇になったので、外を出歩く事にした。
どうもこの辺りの地域は、中世の日本に近い文化体系を持っている。
時代で言うなら、戦国かそれ以前と言ったところだろう。
家屋も木製で、日本人の僕らには気分的にも馴染みやすかった。
どうやら昔僕達と同様にやって来た者の影響を受けているらしい。
恐らく同じ日本人だったのだろう。
木簡だが手記も残っていて、僕達がこの世界の言語を覚えるのに、そう時間はかからなかった。
まぁ、生活の為に死ぬ気で覚えたのも原因の一つなのではあろうが、先達には素直に感謝しておくとする。
「おはよう愛徒、昨日また長尾を怒らせたんだって?」
「……なんだ春信か」
僕は少しがっかりとした口調で答える。
目の前から可愛らしい女の子が来たと思ったら、可愛いだけのただの男だった。
武田春信、クラスメイトの男子だ。
仲はいいが、関係性は親友というより悪友と言った方が近い。
前々から女の子と見紛う様な顔つきはしていたが、この世界に来てから髪型の制限がなくなって、今や見た目はただの女の子と化している。
「残念そうに言うなよ、こんなに可愛い子に声かけてもらってさ」
「……でも、男なんだよなぁ。髪切れば?」
「一番伸ばしてるお前が言うか? あと切らねえ」
「油断してると迂闊にもドキッとしちゃうから切って欲しいんだけど……」
「馬鹿だなお前。折角合法的に可愛くなれるのに、切る訳ねえだろ。木下もだいぶ乗り気だぞ」
何やってんだ木下ァ……。
木下とは、クラスメイトの女子の一人である。
母が理容師だったらしく、髪を切るのが得意で、クラス全員の散髪を請け負っている。
そんな強力な協力者の存在も相まって、目の前の女男、春信の可愛い化計画は着々と進んでいるのである。
「お前も伸ばすならいい加減頼めよ。可愛くしてもらえるぞ」
「僕はいい。何があるか分からないし、できる限り自分でやりたいんだ」
「ふうん、髪型だけでも漫画のキャラになりきりたいって言うのが恥ずかしいだけじゃねぇの?」
「何言ってんだこの野郎」
「大丈夫、木下もとっくに気付いてるから」
「……」
「そのうち刃が逆の刀とか持ちそうだな、お前」
「流石にそこまでは……しない」
……何だ、この辱めは。
それに、自分の命も守れないのに、不殺の精神は自殺行為だ。
いくらかっこいいからと、銃弾を斬りに戦場に出る事はないのと同じだ。
そこら辺は割と現実的にものを考えている。
「で、長尾怒らせたって聞いたけど」
「またその話? いつも通り、危ない仕事はやめろって言われただけだよ」
「ふうん、仕事ねぇ……」
「ところで春信は何を――」
「おっと、用事思い出したからもう行くわ!」
春信はどこかへ行ってしまった。
にしても長尾さん、他のみんなが仕事を見つけてるって言ってたけど、しっかりプー太郎が一人いるじゃないか。
次見た時にやーい、ニートとか言ってあげようか。
……いや、やめよう。
腕っ節は向こうが上だ、死にたくない。