14 カツ丼食えよって言ってみたい
「早うゲロった方が楽なるで」
「……」
「言っとくけど、黙秘権無いかんな」
「何その理不尽」
清子に連行され、僕は部屋で尋問を受けていた。
ちなみに場所は鋼太郎の部屋、曰く、どうせほとんど使われてないんやからええやろ、との事。
それだけならまだまだマシだったのだが、どこから話を嗅ぎつけて来たのか、春信までやって来てちょっと面倒だ。
ちなみに都合よくカツ丼なんかある訳がなく、あるのは米だけだった。
「にしてもここ、本当に日本と似てるんだよなあ。文化といい、食生活といい……」
「いや、ほら。それは逆か、あるいは転生特典ってやつじゃねぇの?」
「ん?」
「前もここ日本人が来てるらしいじゃん。その日本人が敢えてここに国を作ったか、或いはその人の為にここが用意されたか、みたいな」
「あー……」
要するに考えるだけ無駄という事が理解できた。
「って、話逸らしてんじゃねぇよ。お前が振られた話だ」
「振られてない」
「いつから付き合ってたんだ?」
「多分まだ付き合ってない」
「……意味わかんねぇ」
ただ、嫌われていない事が発覚しただけだ。
思うに、お互いに嫌われていると思っていたから、今まで変な関係性になっていたんだ。
それ故の、距離を置こう。
マイナスからプラスではなく、マイナスからゼロに。
恐らくそういう事なのではなかろうか。
「とにかく、心配はいらないんじゃないかな。多分」
「多分って何やねんアホ。ほっとくとあの皇子サマに虎姫取られんで」
「そうだぞ全く……これだから選び放題の奴は……」
なんか今春信が聞き捨てならないことを言ったような。
そこまで女の子にチヤホヤされた事はないんだけど。
「……それに、結局虎姫自身が幸せになれるかどうかだよ」
「はぁ、そんなもんかねぇ」
「この意気地なしめ」
今度は清子の言葉が心に突き刺さる。
分かってる、分かってるんだよ、僕がチキン野郎なだけという事は。
「……もう一度、虎姫と話してみるよ」
「ま、それが一番やろなぁ」
「度が過ぎてストーカーになるなよ?」
「ならねぇよ!」
幸せどころか不幸にしてどうするのさ、春信は僕がどんな人間だと思っているのやら。
「そんな事よりさ、もっと重要な話があるだろ。邪神もか、魔物とか」
「あー、迷宮もどきの巣穴には火を放って壊したから、当分は大丈夫何じゃねぇの?」
「あの後魔物の方は?」
「統率が無くなったって聞いとるわ。ウチは最近まで痺れて寝とったかんなぁ」
残党討伐も楽にはなったのか。
とすると、後は時間の問題だな。
「……また湧いて来たりしないよね?」
「無限リスポーンとかだったら手が追えな過ぎて泣くぞ」
「この俺を倒しても第二第三のボスが……」
「縁起でもねえこと言うんじゃねぇ!」
まぁ確かに、現実にそんな事が起きたとして、この国にはそれを受け止める余力がない。
ボスこそなんとか倒せたが、兵士の人数はかなり減少した。
今すぐに次のエリアへと向かっても、この地域の復興には至らないだろう。
兎に角、もう少し残党を狩っておかないと話にならない。
「……ていうか、何で僕だけこんなに質問攻めに合わなければならないんだ?」
「ん、どう言う事だ?」
「……」
春信は分かっていないようだが、清子は目を逸らしている。
「鋼太郎とはどうなのよ、村上さん」
「あ、俺もそれ気になる」
「……ちょっと用事思い出したわ」
清子は席を立って逃げようとする。
だが、そうはさせん。
「さっき鋼太郎にウチの事好きって言えって――」
「アンタその一部始終見とったろ! あれはウチの負けや!」
「最終的に照れる鋼太郎を押し倒して――」
「ちょ、なんか捏造されてへんか? 分かった、全部自分で言うわアンタちょっと黙っとけ!」