13 NTR間男滅ぶべし
カンカンカン、とけたましく鐘が鳴る。
一瞬魔物の襲撃か、と身構えてしまったが、これは違う。
遠征後に辞めたが、見張りの時に自分で打った事もあるから分かる。
これは人が来た時の合図だ。
そして、程なくしてその来訪者は門の内側に姿を現した。
「……竜?」
思わずそんな言葉が零れた。
彼らが騎乗している生き物だ。
だが翼はないし、大きさも馬と同じくらいだ。
どちらかと言うと蜥蜴……いや、小型の恐竜と言った方が良いだろうか。
次に、先頭に乗っている者の姿を見た。
同じ歳くらいの少年だった。
服装はこの周辺で見られるものとは違う。
ギリシャやローマなどを思わせる、ヨーロッパ風の服装だ。
あ、目が合った。
こっちに来る。
「――その加護の証、愛の女神エルジュの使徒とお見受けする!」
エルジュ?
あの女神様そんな名前だったのか。
まぁ、僕が知らないのも当然か。
何一つ名乗らなかったし、碌な説明もしなかったもんなぁ。
「我はベルガ帝国第二皇子にして、運命神アルゴスが使徒、ラルガスである!」
「これはこれはご丁寧に、直衛愛徒です」
「アイトか、この国にいる使徒は貴殿だけか?」
「いいえ、他にもいます。代表者は別の者です」
「そうか、では案内せよ!」
……今幸也や虎姫にとんでもない役を押し付けた気がする。
とりあえず、領主の館に連れて行けば良いか。
誰かに悩み事を相談するつもりが、なんだかとんでも無いのに巻き込まれたなぁ。
「……」
領主の館に着くと、既に虎姫が待ち構えていた。
「おはよう、直衛君」
……あれ?
呼び方が元に戻ってる。
あの後は話す機会に恵まれなかったが、やはりあの時のことは無かった事になっているのだろうか。
「愛の女神の使徒代表、長尾虎姫です」
「……な」
理由は分からないが、ラルガス皇子は彼女を見て、一瞬言葉を失っているようだった。
理由は分からない、一体何故――。
「美しい……」
……は?
何だか少しイラッと来た。
しかし、彼はすぐさま落ち着きを取り戻して、先ほどと同じような名乗りを挙げる。
「ベルガ帝国第二皇子にして、運命神アルゴスが使徒、ラルガスである!」
そして竜からひらりと飛び降りて、虎姫に向けて膝をつく。
「お美しい姫君よ! 是非とも我が妻となり、共に世界を救済致しましょう!」
……は?
こいつ出会って一分足らずで求婚しやがった。
王族だからか?
いやそれにしたって限度はあるだろう。
「お気持ちは嬉しいのですが、お断りさせていただきたく……」
「そうだな、まだ早いか! では、少しずつ交友を深めるとしよう!」
前向きに捉えるラルガス皇子。
彼はカイエンさんの案内のもと、屋敷の中へと入って行った。
「虎姫――」
「直衛君」
僕がそう呼ぶのを遮るように、虎姫が言う。
「思えば、これは丁度いい機会かもしれないわね。私達、距離を置きましょう。それと、あの日の事は忘れて」
「え……?」
頭の中が真っ白になった。
もしかして、俺今振られた?
虎姫も皇子を追うように、屋敷の中に入って行った。
僕は玄関先に立ち尽くしたまま、暫く動けなくなっていた。
「……何や、やっぱり振られとるやん」
背後からそんなことを言われた。
いつからそこにいたのか、清子が背後に立っていた。
「ふ、振られてなんかないやい!」
「いやしっかり距離を置こうと言われとるやんけ」
「……」
「後、あの日の事は忘れて、だっけか?」
「……くっ」
僕は膝から地面に崩れ落ちた。
「虎姫、どうして……」
「まぁまぁ落ち着けや。ほなカツ丼食いに行こか」
「何その事情聴取みたいなの、悪いことした覚えはないんだけど?」
しかし抵抗虚しく、僕は清子に連行された。