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12 NTRされるのは絶対に嫌だ

 夢を見た。

 何故夢かと分かったかというと、見た光景が死ぬ前に通っていた高校だったからだ。

 夢の中で僕は虎姫と一緒にいた。

 放課後の誰もいない教室で、二人で机を挟んで向かい合っていた。

 だが夢だと分かったところで、明晰夢のように好きに動き回れるわけでもない。

 僕はぼんやりとした意識の中で、彼女の顔をずっと眺めていた。


「私達、別れましょう」

「……え?」


 唐突に、虎姫がそんな事を言った。

 何故?

 というか、そもそも付き合っていたんだっけ?

 大蜘蛛と戦った時に、互いの気持ちは確かめ合ったけど、正式に付き合うとは決めていない。

 いや、そんなことよりも何故、別れる事になったんだ?

 一瞬でも裸を見てしまったから?

 それとも、また何か怒らせた?

 分からない、全くもって理由がわからない。


「それじゃ、私もう行くから」

「待って……!」


 しかし必死の呼び止めも虚しく、彼女は教室を出て行ってしまう。

 教室の外には真田が立っていて、かつての高校生活のように、二人は仲良く話しながら行ってしまう。


「待って、待ってくれッ――!」


 そこで目が覚めた。


「……何なんだ」


 頭を抱えた。

 これは何かの予兆なのだろうか。

 油断していると本当に嫌われるぞという。


「……誰か、相談できそうな人は」


 春信はダメだ。

 あいつは絶対大爆笑して、まともに取り合わない気がする。

 となると、自ずと答えは一つ。


「鋼太郎のところに行こう……」


 鋼太郎は彼の部屋にはいなかった。

 どうやらまだ朝も早いというのに、鍛冶場にいるらしい。

 その内鍛冶場で寝泊まりしそうだな、あいつ。

 僕は鋼太郎がいるであろう鍛冶場へと向かう事にした。

 そしてそこには、予想外の光景が広がっていた。


「――なぁ、ウチの事好きって言え」

「……」

「おい、聞こてんやろ。無視すんなコラ」

「……」


 早朝なのに清子がいた。

 迷宮の攻略から早くも一週間。

 清子の身体を蝕んでいた麻痺毒も抜け、すっかり元の調子に戻っている。

 しかも、その会話の内容がこれだ。

 清子が鋼太郎に迫っている。

 距離は誰より近いものの付き合っていない筈の二人が、恋人のような会話をしている。

 ……いや、片方何も喋ってないけど。


「いいから、ウチの事好きって言え」

「……」


 にしてもこれ、もしかしなくても見ちゃいけない光景だったりしないか?

 このまま過激な方向に状況が進んで行ったり、はないよな?


「……客が来たようなのだが」

「っ!? ちぇっ、なんと間の悪い……」


 ……バレてる。

 僕は降参して中に入る事にした。


「あ、おはようございますー……」


 何事も無いように挨拶をする。


「愛徒か、どうした。なまくらが折れたか?」

「いや、随分と丈夫だからそれは問題ないよ」

「見せてみろ、念のため様子を見る」


 僕は言われるがままに鋼太郎に貰った刀を見せる。


「……強い衝撃にでも当てられたか?」

「分かるのか?」

「ああ、面構えが違う」

「つら、がまえ……?」


 刀に面構えがあると言うのか、彼には何か職人特有の別の世界が見えているのかもしれない。

 まぁ、鋼太郎の意味の分からない言動はいつもの事として、強い衝撃とは恐らく遠征前に受けた虎姫の一撃の事だろう。

 前使ってた剣が折れるほどの威力だったが、この刀はそれを受け切って、先に虎姫の刀の方が折れた。


「……存外失敗作ではなかったのかもな」

「どう言う事?」

「気にするな、切れ味はどうだ」

「結構スパスパ切れてるよ、むしろ前の武器よりもいい」

「念の為研いでおこう。恐らく、まだ本調子ではない」


 そんな事も分かるのか。

 にしても、硬いだけのなまくらと言っていた刀を、随分と高く評価しているようだ。

 武器に魂が宿るなんてのを漫画でよく見たりするが、これにもそれが起きているとでも言うのだろうか?

 ……いや、無いな。

 流石に漫画の読み過ぎだ。 

 そんな事を考えていると、いつの間にか鋼太郎は黙々と研ぎの作業を始めていた。

 

「……ところで、結局お前は何しに来たんだ?」


 鋼太郎が作業をしながら聞いてくる。

 

「ん?」

「これが本来の目的では無いのだろう」

「あー……ちょっと相談事があってさ」

「なんだ、言ってみろ」


 横に清子もいるんだけど、大丈夫かな?

 清子は先程からずっとこちらを睨みつけている。

 早くどっか行け、と言いたげな顔だ。

 まぁいいか、どうにでもなれだ。

  

「これはもしもの話なんだけどさ。付き合って間もないのに別れようって言われたらどうする?」

「……は?」

「……あ?」


 鋼太郎と清子、二人の声が重なった。

 鋼太郎に関しては、いつもなら少しの会話にも動じず作業を続けているというのに、今回は動きがすっかり固まってしまっている。


「……お前、彼女いたのか?」

「とらに振られたんかお前!?」

「いねぇよ! ……多分。あと振られてねぇし!」

「多分とは何だ」

「もしもの話だから気にするな!」


 ていうか何で清子は虎姫と知っているんだ?

 あの場には意識があるのは虎姫だけで、あとは倒れているのが四人……あれ、もしかして痺れて動けないだけで意識あった!?


「あんた、とらに何かしたんか?」

「いや、何もしてないよ!?」

「そうかー、そりゃいけんなぁ……」

「いやだから何もしてないって!」

「本当かぁ?」


 清子は訝しむようにこちらを覗き込んでいる。


「まぁ、ええわ。でも何もしないのも度がすぎるとあかんから気ぃつけな。やないと愛想尽かされんで」

「……」


 鋼太郎は沈黙している。

 どうやら部が悪いと踏んだようだ。


「ていうかアンタ、もしかしてさっきの聞いて……」

「何も聞いてません! 何も!」

「……聞いとったんやな」


 不味い、バレた。

 嘘をつくのが下手すぎた。


「まぁ、ええわ。今更隠すことでもないやろし」

「二人は付き合ってるの?」

「いや? だからさっきからアタックかけてんねん」


 随分と直線的だなオイ。


「なのにコイツきたらずっとダンマリ決めとんねん。ホント、頭くるわぁ」

「……」


 鋼太郎は作業に戻り出した。

 自分の世界に入って逃げ切るつもりだ。


「作業してても聞こえとんの分かってんやけどなぁ! お前一応マルチタスク出来るもんなぁ!」

「……基本は一つしか出来ないが。慣れた作業だとする事はあるが」

「ほら聞こえとんやろアホ、ダラ!」


 清子は諦めたように溜息をつく。


「愛想尽かされても知らへんで、カタブツ」

「……別に、理由も無しに答えなかったわけではない」

「おー理由あんのか、言ってみろやコラ」

「違う気がしたからだ」

「は……?」


 鋼太郎の答えは予想外のものだった。

 二人は両思いだと誰もが認めていた筈だったが……。


「好き、は違う。そもそも、理解できん」

「そ、そか……」


 清子の声は震えている。

 人が振られるところを初めて見た。

 他人が見てもこんなに辛く、苦しいものなのか。


「……ごめんな、迷惑だったやろ。ウチ、コレでもアンタとは愛し合ってると勘違いしとったんねん」 

「……? いや愛してはいると思うのだが」

「何やねん訳わからんわ、アホ! 帰る!」


 清子は怒ってピシャリと戸を閉めて出て行った。


「――コータローのアホォォォォォォ!!」


 外からそんな叫び声が聞こえて来た。


「……鋼太郎」

「何だ愛徒」

「君、さっきの本気?」

「俺はいつでも真面目だが」

「アホ」


 それだけ言って僕も庵を出た。

 刀は後で取りに来よう。

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