10 虎姫、孤軍奮闘
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい、限界が近い、全身が悲鳴を上げている。
加護ももう力を失いかけている。
相変わらず扱い難い、短期決戦向けの燃費の悪い能力だ。
火力は強いが、武器の方が保たない。
「らあぁぁぁぁぁ!!」
私は雄叫びを上げて巨大蜘蛛に斬りかかる。
しかし、効かない。
武器の方も砕けていないが、それは逆に言うと、私の攻撃の火力が下がったことを意味している。
しかし、それでも負けるわけにはいかない。
私は後ろに目を見やる。
そこには助けた四人の仲間が倒れていた。
どうやら、糸には毒があったらしい。
戦闘中、体の痺れを訴え出して倒れてしまった。
「……せめて、救援が来るまでは」
……本当に来るのか?
そもそも、私は先に脱した皆が逃げる時間を稼ぐため、こうして戦っているのではなかっただろうか?
暗い考えを振り払うようにして、突撃する。
しかしあっさりと攻撃は防がれて、私は横凪に振るわれた脚に飛ばされてしまう。
硬い岩の上をゴロゴロと転がる。
体のあちこちをぶつけて、激痛が走った。
「ぐっ……ああああ!」
二人腹から声を絞り出し、立ち上がる。
眩暈がする、剣を握る手に力が入らない。
だとしても、まだ折れるわけにはいかない。
私が下がれば、みんな死ぬ。
だから、まだ諦めるわけにはいかないのだ。
私は、命をかけて仲間を守る。
それが、力を持って生まれた私の宿命であり、責任なのだから。
その為なら何時間、何日だって戦える。
何回だって剣を振れる。
例えこの命燃え尽きようと、私は私の責務を全うするのみだ。
「はぁ……はぁ……やぁぁぁぁあ!」
蜘蛛が前へと踏み出す前に、私は再び突進する。
限界なら越えればいい。
体が痛いなら耐えればいい。
力が出ないなら振り絞ればいい。
私にはそれが出来る、やる。
絶対に、負ける訳にはいかないのだ。
「……あ、れ?」
だが次に剣を振り下ろした時、それは手の中から消えていた。
ガラン、と音を立てて剣が落ちる。
もう、握る握力は残っていなかった。
蜘蛛の刃のような脚が振り下ろされる。
服が裂かれ、その下から血が滲む。
「あ、あ……」
私は地面に崩れ落ちた。
もう、立ち上がる力もない。
直衛は、無事に逃げ切っただろうか。
逃げ切ったよね、じゃないと、こんなに頑張った意味がない。
彼の事は、霧野さんに託そう。
危なっかしいけど、後は彼女が守ってくれる筈だ。
にしても、最後に思い浮かべるのがあいつの事か。
本当に私は救えないな。
今まであんなに邪険にしたのに、出立前には大怪我をさせようとしたのに。
心の奥底ではそんな彼のことを好いているのだ。
嫌われても仕方がない、嫌な女だ。
けど、それでいい。
私が死んでも、彼は大して傷付かないだろう。
無機質な八つの複眼が私を覗いている。
頭上では、鋭い脚が私に狙いを定めていた。
今度こそ、確実に命を絶つために。
「愛徒……」
最後に、名前を呼んだ。
そのくらいは許される筈だ。
そして、蜘蛛の脚が振り下ろされた。
私はぎゅっと目を閉じて、その瞬間を受け入れた。
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申し訳ございません。