表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

01 男なら誰だって侍を夢見る

 僕、直衛(なおえ)愛徒(あいと)は死亡した。

 体育の時間中に校庭に隕石が落ちてくるという、運命としか言いようがない避けようがない事故によって。

 ひとクラス総勢40人の高校生達がその儚い一生を終えた。


 「――邪神を倒せ。愛を以て、世界の守護者となれ」

 

 それを憐れんだ異世界の女神によって、僕達は異世界へと送り出された。

 女神から賜った加護と共に、邪神を倒すというとんでもなく大仰な使命を負って。


 ◇

   

 ところで話は変わるが、男児なら誰もが侍を夢見るものだ。

 少年時代に読んだ漫画の登場人物の様に敵を斬り、無双したい。

 カッコよく牙突も打ちたいし、沢山の女の子にも好かれたい。

 

 当たり前の事だ。

 例えそれが、女子達から白い目で見られそうな子供じみた夢だとしても。

 この夢は、何一つとして間違っちゃぁいない。

 だから僕は、夢焦がれるのを決して諦めない。

 この先何があっても、絶対にだ。


 だからこの世界にやって来た時、心の底から歓喜した。

 夢にまで見た剣と魔法の世界。

 まるでゲームの世界にでも飛び込んでしまったかのようで、心躍った。


 漫画の侍の主人公の様に髪を伸ばして結え、剣を執った。

 あの日夢見た光景を叶える時が来たのだと。 

 決して、何があっても、このきっかけを手放してなるものかと、心に誓った。


「……諦めなさい、貴方達には戦う力はないのだから」


 彼女は僕を見下ろしてそう言った。

 言うのは長尾(ながお)虎姫(とらひめ)、同じクラスメイトの女の子だ。

 文武両道の上、才色兼備の美少女で、学校では誰もが彼女に憧れていた。

 この世界では魔物討伐班のリーダーとして、共に転生したクラスメイトを取り纏めている。

 

 もうふた月も前のこと、僕達は死んで、この世界に新たな肉体を得た。

 新たな肉体とは言っても、容姿や年齢は前の世界と同じだ。

 

 体育の授業中、隕石が校庭に落ちて来たという何とも不運な死因の僕達だが、なんとか人生の続きを得ることができたようだ。

 対価として邪神討伐の使命を女神様より賜う事にはなったが、これを幸運と言わずして何と言おう。

 

 ただ一点、問題があった。

 僕達のクラス40人を転生させたあの女神様は、どうやら大層な男嫌いだったらしい。

 邪神討伐の為と全員に加護を授けたが、その内で戦う力が発現したのは女子だけだった。

 女子と同じく、証として体に神語の刻印が刻まれているというのに、男子にはこれといった特別な力は未だ発現していない。

 まあ、だから虎姫の言う事もご尤もな話な訳で。

 俗に言う戦力外通告、というやつだ。

  

「他の男子は皆自分の仕事を見つけてるわ。なのに貴方は――」

「ちゃんと見つけてるよ、だからこうして現地の人に混じって戦いに出ている訳だけど」

「それを諦めなさいと言っているの。貴方がやっているのは、とても危険な行為なのよ」

「分かってるさ。でもそれは君達も同じ事だろう?」


 女子達は邪神の眷属である魔物の討伐で、日々戦っている。

 戦って、いつも怪我して帰ってくる。

 なのに自分だけ悠々と安全地帯で待っているだなんて、どうしても許せなかったのだ。

 それ故に僕は衛士として、現地の人に混ざって魔物と戦うことにした。

 この地域は慢性的に人手不足、それになる事自体はそう難しくは無かった。

 一人の男として、そしてかつて夢見た侍としての、ちょっとした意地の様なものだ。

 

「だから少しでもその負担を軽減したいと思ったんだよ」

「……余計なお世話よ。それに、足手纏いだから」


 そう言い捨てて、虎姫はひとまず去って行った。

 この世界にくる前からからそうだったが、僕は彼女から目の敵にされている。

 特に何か無礼を働いた覚えは無いのだけれど、どうやら嫌われてしまっている。

 多分根本的に僕の性質が彼女の性に合わないのだろう。 

 僕の方は彼女を嫌いでは無いのだけれど、どうも人間関係というものは複雑で、そして世知辛い。


 まあ、彼女の言い分は分かる。

 命の危険を冒すつもりは無い。

 仕事の内容も主に見張りと偵察だ。

 かっかよく剣を振りたいとは思うけれど、身の丈に合わない事はしない。

 程々だ、どんなに僕が鍛えたって、戦神の様な強さを持つ彼女らには遠く及ばないのだから。

評価、ブックマーク等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ