01 男なら誰だって侍を夢見る
僕、直衛愛徒は死亡した。
体育の時間中に校庭に隕石が落ちてくるという、運命としか言いようがない避けようがない事故によって。
ひとクラス総勢40人の高校生達がその儚い一生を終えた。
「――邪神を倒せ。愛を以て、世界の守護者となれ」
それを憐れんだ異世界の女神によって、僕達は異世界へと送り出された。
女神から賜った加護と共に、邪神を倒すというとんでもなく大仰な使命を負って。
◇
ところで話は変わるが、男児なら誰もが侍を夢見るものだ。
少年時代に読んだ漫画の登場人物の様に敵を斬り、無双したい。
カッコよく牙突も打ちたいし、沢山の女の子にも好かれたい。
当たり前の事だ。
例えそれが、女子達から白い目で見られそうな子供じみた夢だとしても。
この夢は、何一つとして間違っちゃぁいない。
だから僕は、夢焦がれるのを決して諦めない。
この先何があっても、絶対にだ。
だからこの世界にやって来た時、心の底から歓喜した。
夢にまで見た剣と魔法の世界。
まるでゲームの世界にでも飛び込んでしまったかのようで、心躍った。
漫画の侍の主人公の様に髪を伸ばして結え、剣を執った。
あの日夢見た光景を叶える時が来たのだと。
決して、何があっても、このきっかけを手放してなるものかと、心に誓った。
「……諦めなさい、貴方達には戦う力はないのだから」
彼女は僕を見下ろしてそう言った。
言うのは長尾虎姫、同じクラスメイトの女の子だ。
文武両道の上、才色兼備の美少女で、学校では誰もが彼女に憧れていた。
この世界では魔物討伐班のリーダーとして、共に転生したクラスメイトを取り纏めている。
もうふた月も前のこと、僕達は死んで、この世界に新たな肉体を得た。
新たな肉体とは言っても、容姿や年齢は前の世界と同じだ。
体育の授業中、隕石が校庭に落ちて来たという何とも不運な死因の僕達だが、なんとか人生の続きを得ることができたようだ。
対価として邪神討伐の使命を女神様より賜う事にはなったが、これを幸運と言わずして何と言おう。
ただ一点、問題があった。
僕達のクラス40人を転生させたあの女神様は、どうやら大層な男嫌いだったらしい。
邪神討伐の為と全員に加護を授けたが、その内で戦う力が発現したのは女子だけだった。
女子と同じく、証として体に神語の刻印が刻まれているというのに、男子にはこれといった特別な力は未だ発現していない。
まあ、だから虎姫の言う事もご尤もな話な訳で。
俗に言う戦力外通告、というやつだ。
「他の男子は皆自分の仕事を見つけてるわ。なのに貴方は――」
「ちゃんと見つけてるよ、だからこうして現地の人に混じって戦いに出ている訳だけど」
「それを諦めなさいと言っているの。貴方がやっているのは、とても危険な行為なのよ」
「分かってるさ。でもそれは君達も同じ事だろう?」
女子達は邪神の眷属である魔物の討伐で、日々戦っている。
戦って、いつも怪我して帰ってくる。
なのに自分だけ悠々と安全地帯で待っているだなんて、どうしても許せなかったのだ。
それ故に僕は衛士として、現地の人に混ざって魔物と戦うことにした。
この地域は慢性的に人手不足、それになる事自体はそう難しくは無かった。
一人の男として、そしてかつて夢見た侍としての、ちょっとした意地の様なものだ。
「だから少しでもその負担を軽減したいと思ったんだよ」
「……余計なお世話よ。それに、足手纏いだから」
そう言い捨てて、虎姫はひとまず去って行った。
この世界にくる前からからそうだったが、僕は彼女から目の敵にされている。
特に何か無礼を働いた覚えは無いのだけれど、どうやら嫌われてしまっている。
多分根本的に僕の性質が彼女の性に合わないのだろう。
僕の方は彼女を嫌いでは無いのだけれど、どうも人間関係というものは複雑で、そして世知辛い。
まあ、彼女の言い分は分かる。
命の危険を冒すつもりは無い。
仕事の内容も主に見張りと偵察だ。
かっかよく剣を振りたいとは思うけれど、身の丈に合わない事はしない。
程々だ、どんなに僕が鍛えたって、戦神の様な強さを持つ彼女らには遠く及ばないのだから。
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