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第2話 勇者の正体

歴代最強魔王に仲間に誘われた女勇者は、

旅を共にして来た仲間を皆殺しにした

突然の勇者の裏切り行為に魔王も驚いた


魔王が勇者の思惑を訪ねると勇者が重い口を開き…

勇者の正体



魔族の長、魔王ダガスは眼前で起きた出来事にしばらく思考を鈍らせていた

魔王の隣に控える魔族軍参謀の悪魔大元帥ギガボロスも、

魔王城の玉座の間で起きた出来事に戸惑いの表情を浮かべていた


なぜ魔王ほどの強者二人が思考を鈍らせていているかと言うと、

魔王を倒しに来た勇者パーティーが、

勇者本人の手により全員殺されたからだ


玉座の間の床の上に五体の死体が無惨にも散らばっていた

難度の高そうな刺繍が施された赤い絨毯の上に、

勇者に殺された勇者パーティーの亡骸から赤い血が流れ出している


赤い絨毯を更に赤く染めあげたソレは、

絨毯の範囲を越えて、

玉座の間の石畳の上にも拡がっていた


真っ赤に染まった床の中心に勇者が立っている

仲間を切り捨てた聖剣を腰の鞘にしまい、

脱ぎ掛けた薄汚いフードを自ら剥ぎ取っていた


勇者の全身があらわになった


身長は150センチぐらい

勇者の体格は肩幅は狭く手足は細く全体的に細身で華奢

決して肉付が良いとは言えない貧相な身体だ


容姿は目鼻立ちが整っていて幼い童顔

特徴的な肩より長めの綺麗な銀髪は、

今は仲間の返り血で所々赤く染まっている


年齢は人間で言えば十代中頃に見える

装備品の隙間から見える肌の色は、

雪の様に透き通った綺麗な白色

一瞬エルフ種かと思うぐらい綺麗な肌色たが耳は尖っていない


瞳は大きくまつ毛が長くて多い

なかなか可愛らしい人間の女性だが、

やはり身体付きが貧相だ

装備品で見にくいが胸の膨らみはかなり小さい


身なりは冒険者の通常の装備品を身に着けている

聖剣を持って居なければ、

外見だけでは勇者と分からないだろう


勇者の仲間だった亡骸の装備はどれも一級品


魔王は勇者だけが貧弱な装備である事に疑問を抱いた

 

そして何より気になったのが勇者は魔王の討伐しに来ているのに、

魔王に対しては殺意が感じられなかった

だが仲間を殺していた間は凄まじい殺意を放っていた


あきらかに仲間に対して恨みを含んでいた


そう予想した魔王は勇気と尊厳を持って勇者に話掛けた



「小娘!確か名をシャルルと言ったか?…」


「なぜ苦楽を共に旅して来た仲間を切った?」


「余は仲間を切れとまでは言ってない筈だが?…」



魔王は玉座のある壇上から階段下に居る銀髪の少女へ話掛けた

悪魔大元帥ギガボロスは銀髪の少女を最大限警戒している

魔王に話掛けられた銀髪の少女シャルルは無表情で魔王の顔を見上げた


魔王と悪魔は少女の瞳を見て一瞬気圧されした


あまりにも冷たい視線だったからだ

何の感情もこもって無い視線

人類の守り手とは思え無い瞳をしていた


無表情の少女が胴体と首が切り離れた仲間の頭を踏みながら、

魔王に仲間の紹介を始めた



賢者コレの名前は二ーベル.シューマッハ、18才…」


「噂に聞く賢者の名前です魔王様!」


「ほう。確か、人間には珍しく皆に平等で高潔な男だと聞いたな」



魔族側のトップ、魔王と悪魔は賢者の名前を知っていた

いずれ戦うであろう相手の情報を集めていたのだ

戦争になれば重要になりそうな人物の情報を入手するのは当然の事でもある


魔王は賢者について調べている事を少し自慢気に口にした



「ソレ違う!!」



速攻で魔王の発言を否定する勇者

さっきまでの無表情が見る見るうちに怒りの表情に変わり、

肌を焼く様な殺気を放ちながら賢者の亡骸を足で何度も踏み潰した


踏み潰しながら魔王の最初の問に答えた



ゲシ。ゲシ。



賢者コレは私の婚約者…」


賢者コレの家は下級貴族…」


「勇者の私と結婚して貴族の中で成り上がるつもりで居た…」


「しかし私と賢者コレの間に愛は無い…」


賢者コレは私を何時も奴隷扱いしながら、毎晩慰めモノにされていた!!」



賢者の亡骸を蹴る少女の足に力が入る



「回復魔法が使えるからと、私の初めてを何度も、何度も、何度も!!」


「そのくせ旅の先々で女に手を出す最低野郎…」


「私の友達にも手を出して妊娠が発覚したら殺した!許さない!!」



銀髪の少女の賢者に対する恨みが長々と語られた

賢者は勇者を女扱いでは無く出世の道具として、

もしくは己の性欲のはけ口として使用して居たのだ


しかも女性にだらし無く妊娠が発覚すると賢者と言う職業でありながら、

貴族の自分の実家の不都合になると思い殺していた

銀髪の少女の友達も賢者に無理矢理に抱かれ、

妊娠が発覚したと同時に例外なく殺されてしまったらしい



「な、なるほど…」



勇者が賢者を恨んでいる事を知った魔王は発言に詰まった


勇者の話が続く


今度は胴体が上下に別れたスキンヘッドの亡骸を蹴り始めた

身体中が筋肉の鎧で覆われた武道家の亡骸を蹴り続ける勇者

武道家に対しても恨みがある様だ



武道家コレの名前はダキアス、26才…」


武道家コレは同性愛者…」


「賢者を好いていて婚約者の私を妬み何時も暴力を受けていた…」


「しかも子供好き…」


「旅の先々で年端の幼い男の子を襲って愉しんでいた…」


「賢者の言いなりで私の友達を直接手に掛けたのは武道家コイツ!!」


「いつか殺したいと思っていた!!」



名の通った武人だと思われていた武道家は、

同性愛者で子供と男性が大好物だった

特に若く男前だった賢者の事を好いており、

表面上の婚約だが勇者を嫉妬して何時も暴力を振るわれていたと言う


賢者と武道家の間に身体の関係があったかは分からないが、

武道家は賢者の言いなりだったと勇者の少女は語った


主に賢者の闇の処分を武道家が担当していたのだ



武道家の闇の部分を暴露した勇者が次に向かったのは聖女の前

聖女は白い聖職者の衣装を着ている

衣装のふちの部分が金色だ

これは聖職の高位者に着る事が許される衣装だった

その衣装が今は胸の部分から真っ赤な色に染まって行く途上だ


銀髪の少女が聖女の紹介を始めた



聖女このおんなの名前はファラトリア.ルーシー、18才…」


「ファラトリア!?確か人間の国にも同じ名前が…」


「そう…。聖女このおんなはファラトリア王国の元第二王女…」



悪魔大元帥が聖女の名前を聞いて同名の国がある事に気付いた

やはり情報収集力は有るようだ


聖女の容姿は勇者の少女よりも更に優れている

身長は160センチぐらい

サラサラの長い金髪で身体は標準範囲内で肉付きが良く肌の血色が良い

胸は大きく膨らみ、腰はくびれ、

尻には触り心地が良さそうな柔らかな肉が付いていた


ルーシーは少女と違い大人の女の身体付きをしていた



聖女このおんなはあなたの言う通りファラトリアの王女…」


「確か小国でしたな!」


「うん。王族の継承争いに破れて出家して聖教に入れられた…」


「人間共の間でよくある話だな。」



前の二人と違い銀髪の少女の顔から怒りが少し消えた



聖女このおんな、最初は私の事を妹の様に可愛がってくれた、だけど違った…」


「私を利用して王位簒奪を企んでいた…」


「しかも聖女このおんなは聖教に段々と洗脳されて、」


「最後には私を劣等種と蔑んで来た…」



勇者の言葉を聞いた魔王が疑問を口にする



「勇者が劣等種!?」


「コクン。」


「確か勇者は人間種からしか産まれない筈ですが………」


「…………」



魔王と悪魔大元帥の発言を聞きながら勇者は無言で移動を開始した

何歩か歩みを進めたら、

聖女と同じ衣装を纏った首が落ちた男の前で立ち止まった


冷静に見えるが今までにない怒りと殺気を撒き散らしている


銀髪の少女は白髪交じりの老年の魔法使いの紹介を始めた



「シグリア.ドエル.ゾ.ゴディバ、61才…」


「聖ニムデ教の枢機卿…」


「人類種至上主義を掲げる世界最大信徒数を誇る聖教の枢機卿…」


「私の村や家族を皆殺しにした諸悪の根源!!絶対に赦さない!!!!」



銀髪の勇者の少女は聖教の魔法使いの前で一段と強い殺気を放った

目視出来るほどの闘気まで放っている

しかし魔王も悪魔も勇者の発言の意味を理解出来ないでいた


魔族側から見れば偏った考えの聖教は倒す目標の敵であるが、

同じ人間の村を焼く蛮行を魔族と戦争している最中に行うだろうか?

聖教の蛮行が広まれば人類側の結束が緩みかねない


最初から勇者の少女に妙な違和感を覚えていた魔王は、

勇者の出身地がどうして焼かれたのか質問した



「何故、家族を、村を焼かれた?」


「何か聖教にとって不都合でも起こしたか?」



魔王の問に銀髪の少女が答える



「私達がハーフエルフだから…」



勇者の発言に悪魔が驚いた



「は、ハーフエルフですと!?しかし耳が尖って無いではないですか!?」



悪魔大元帥に耳を見せながら答える少女

手でかきあげた銀髪から覗かせた耳は、

エルフの様に尖っていなくて丸い人間の耳だった



「私は人間の血が濃いんですよ…」



この世界でハーフエルフは忌み嫌われていた

嫌われていた理由は聖教の教えによるものだ

過去にハーフエルフが事件を起こした例は無い

ただ単に純血を重んじる世界に置いて混血が忌み嫌われているだけだった



「だから村を焼かれたのだな?」


「コクン。」


「だから聖女が途中から勇者おまえを蔑んで来たんだな?」


「コクン。」


「だから人間種にしか登場しない筈の勇者が、お前に顕現したんだな?」


「たぶんそう…」



銀髪の勇者への違和感がハーフエルフと言う事で解決した


人間の血が濃いハーフエルフの少女シャルルは、

数少ない仲間たちと共に、

世界の辺境の農村部でひっそりと静かに暮らしていた


しかし人類種至上主義を掲げる聖教の枢機卿が、

魔族軍と戦う為に勇者を求め、

世界中を旅して居る最中でシャルルの村を訪れたのだ


そして人間と同じ耳を持つハーフエルフの勇者シャルルの発見に至った


当初はハーフエルフの中に勇者が居た事に驚きが隠せなかった枢機卿

人類種至上主義を掲げる聖教にとって、

ハーフエルフの中から勇者が現れた事実を受け入れがたかった


だが丸耳のシャルルは枢機卿にとって都合が良かった


ハーフエルフのシャルルを人間の勇者として迎え入れ、

自らの功績にして次の教皇選に名乗りを上げ様と企む


仲間を人質に取られたシャルルは仕方なく聖教に無抵抗で捕まった

シャルルを差し出せば聖教と枢機卿は、

村に何もせず立ち去ると約束をしたからだ



しかし枢機卿は約束を破った



『勇者は人間種からしか生まれない』


『ハーフエルフから勇者が生まれた事実を消す』



と言う名目で聖教と枢機卿は村を焼き村人を虐殺した

聖教に置いてハーフエルフは迫害の対処なのだ

約束を反故にされたシャルルは当然の様に怒り狂った


勇者の力を持ったシャルルは必死な抵抗を試みたが多勢に無勢

多くの犠牲を出し最後には聖教と枢機卿に捕われてしまい、

家族も仲間も友人も家も村も畑も完全に焼かれてしまった


家族と故郷を失い帰る場所を無くしたシャルルは、

聖教内で矯正訓練を受け、

強引に勇者パーティーに組み込まれ、

屈強な戦士たちの監視の下に魔族軍と戦っていく


そして現在に至ったのだ


腰に穿いていた聖剣を抜き出し家族の仇の枢機卿の身体を斬り刻む

枢機卿の身体を斬り刻んだ後は、

最後に残った重戦士の亡骸の前に歩を進めた



重戦士コレの名前はステイル、29才…」


「帝国の隊長と言う話しだけど、女好きの単なるレイプ魔…」


「種族に関係無く女と見るや犯して殺していた…女の敵!!」



勇者シャルルは憎しみを込めながらそう言うと、

重戦士の左右に割れた首を身体と切り離し、

高位の火炎魔法で重戦士の身体と顔を焼いた


人類の希望を一心に受けていた勇者パーティーの実体は、

それぞれが胸に野心を抱いた者たちばかりが集まった、

世界最高峰の力を持った究極の最低のチー厶だった



勇者から意外と壮絶な話を聞かされた魔王は俯き気味になり、

頭をフル回転させ考えを纏めていた

銀髪の勇者の少女に対して少し責任を感じている


( 余が人間領に侵攻したせいで、この小娘の一族が虐殺された? )


( ハーフエルフの小娘が勇者として覚醒したのは余のせいか? )


悪魔ギガボロスは魔王の隣で勇者の話を聞いて、

魔王と同じ様に色々と思考を巡らせていた


( なるほど。ハーフエルフでしたか!! )


( やはり聖教は叩いて置かなければいけませんね… )


( はっ!?それ以前に目の前の勇者!! )


( この後、彼女がどういった行動に出るでしょうか?… )


( まさか!魔王様に刃を向けて来るつもりではありませんよね? )


( そうであれば配下として命に変えても勇者を止めなくては!! )


野心に満ちたパーティーの紹介が済んだ勇者は聖剣を腰の鞘に仕舞った

仲間の仇の亡骸を斬り刻み落ち着いたのか、

勇者の顔は元の無表情に戻っていた

容姿が良い童顔の大きな瞳は死んだ魚の様に濁っているが、

冷静さを取り戻している


殺意は感じられなくなった


だが、ここから勇者が魔王に向かって歩き始めた


身構える魔王


魔王と勇者の間に割って入る悪魔大元帥



「魔王様!ここは我にお任せ下さい!!」


「ならぬ!!ギガボロス!!」


「勇者よ!同情せぬでもないが魔王様に手出しはさせん!!」



悪魔大元帥が立ち塞がっても歩みを止めない銀髪の勇者

無表情のまま壇上へ向けて階段を昇ってくる

銀髪の勇者と悪魔大元帥ギガボロスの距離が徐々に縮まっていく



「喰らえ勇者!!闇鴉やみがらす!!」



悪魔がオーバーリアクションで魔法を唱えるとカラスの羽が周囲を包んだ

カラスの黒い羽が勇者やギガボロスを包んだ後に、

闇より深い漆黒の影が玉座の周辺を巻き込んで行く


魔王城での勇者の戦いは、いまだ集結を見ていなかった…

勇者の暗い過去話が語られました

重いよ、話が重すぎるよ…

ここから勇者が人類に復讐していくお話が開幕するのか?

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