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第12話 魔都東側の戦い 後編

魔都の南側に迫る人類軍を全滅させた裏切り勇者

一方で魔都の東側では魔族と人類の戦いが激しさを増していた

東側の戦いに乱入していく勇者が取った行動は…

魔都東側の戦い後編



七回目の突撃に失敗した人類軍首脳部は焦りの色を顔に浮かべていた

特に焦りの表情を色濃く浮かべていたのは、

東側の人類軍の総司令ガイナック、オルシュタットだった


金髪に白い鎧を身に纏った人物が偉そうに物申す



「何故だ!?何故これだけの大軍を要して城壁一つ突破出来ない!?」



人類側でも大国の部類に属する三十一歳の王子が部下達を怒鳴りあげる

高々と掲げられたオルシュタット王国の旗が彼の誇りに拍車を掛けている

怒る王子に戦々恐々とする人類側の首脳部達


首脳部と言っても東側に陣取っていた彼らも寄せ集めだった


戦い方を熟知している正規軍の司令官や隊長達では無く、

各国の貴族や冒険者ギルドの役人で構成されていた

彼らは自分達が陽動部隊だと知っていたから士気も低かった


その中でオルシュタット王子だけが手柄を焦っている状況だ


こげ茶髪の中年の副官らしき人物が発言する



「オルシュタット様、魔族側に増援が現れた様です…」


「魔族に増援だと!?」


「やはり先程のペガサス騎士の報告は真実で、南の聖教軍が全滅したと考えるのが妥当かと…」


「はん!聖教軍が全滅する筈が無い!!」


「魔族のぎまん情報に踊らされやがって!!」


「世界ギルド連盟のオルルド会長も盲目したなあ!?」


「あのペガサス騎士みたいに弓で射殺すぞ!?」


「すみません…オルシュタット王子……」



魔都の東側に陣取った人類軍五万人の司令官は、

オルシュタット王国の第一王子だった

金髪で標準体型の小柄な男で野心が強く性格は傲慢だった


そんな司令官に神経をすり減らしていたのが副司令官の、

オルルド、メイアーツ、四十二歳

こげ茶色の髪色で背の高い男性

彼は世界ギルド連盟の会長を務めていた


首脳部の下にはペガサス騎士から各地の戦況が逐一伝えられていたが、

聖教軍が全滅したと言う報告は受け入れられず、

その報告を持って来たペガサス騎士は味方に弓矢で射殺されていた


だから東側だけは戦いを続けていたのだ


自分の都合の良い情報しか受け付けない司令官に困り果てる首脳部達

首脳部の中にはオルシュタットに取り入ろうとする者も居る

そんな輩のせいで東側の首脳部の指令形態は一つに纏まる事は無く、

東側の戦場全体に悪影響を出していた


頭を悩ませる首脳部の下に新たな情報が前線の兵士からもたらされる



「申し上げます!!我が軍先鋒が魔族の少女三人に押されています!!」


「はあ!?」


「一人は黒髪の魔剣持ち、一人は黄色髪の手品師、もう一人は…」


「手品師だと!?」 


「もう一人はピンク髪!大鎌を振りかざして…吸血鬼姫です!!」


「吸血鬼姫ピリカが帰ってきました!!」


「な!?なんだと!?」



前線の兵士から報告を受けた人類軍の首脳部は自分の耳を疑った

ここまで魔族軍と互角に戦っていたのに、

魔族の少女三人の参戦で一気に押され出したのだ

しかも初戦で苦戦を強いられた吸血鬼姫までが戦場に帰って来た


前線に視線を移す


すると黒髪の魔剣持ちが前線の兵士を薄紙を切るように倒していた



「やっぱり弱い」



ピンク髪の吸血鬼姫は大鎌を振り回し次々に兵士達を切り裂いている



「ははは!!お前ら二人、あたし並に強いな!!」



黄色髪の魔族の少女は腕の動きと同時に兵士達を細切れにしていた



「はわわ!!私に近づかないでくださーい!!」



人類側の首脳部はエレキの攻撃方法を見抜けずにいた

だから手品師等と呼ばれていた

三人の魔族の少女が五万人に及ぶ人類軍の先鋒を壊滅に追い込んでいく


もちろん首脳部は撃退の指示を出す



「たかだか三人を相手に何をしている!?」


「数で押せ!!」


「たたみかけろ!!押し潰せ!!」



人類側の兵士達は魔族の少女に果敢にも挑んで行くが手も足も出ない状態だ

吸血鬼姫のピリカの大鎌が兵士達を薙ぎ払い続けている

黄色髪の手品師エレキが目に見えない細い鉄線で近づく敵を切り刻む

黒髪に変装している勇者のシャルルは聖剣で人類軍の先鋒を切り崩していた


段々とシャルル達が人類側の首脳部陣地に迫っていく


迫ったと言ってもシャルル達から首脳部陣地までの距離は、

まだ一キロ以上離れていた

しかし刻一刻と距離が縮まっていく…


自軍に迫る魔族の少女を見てギルド連盟会長が自慢気に発言する



「諸侯の皆様!大丈夫です!!」


「この様な時の為にギルド連盟から最強の冒険者、ガルを呼んでいます!」


「おお!かの有名なガル・シムス殿か?」


「はい!ガル率いる白狼の刃が、必ずや、あの魔族を討ち取るでしょう!」


「それは頼もしい!!」



ギルド連盟の会長が最強の冒険者チー厶を呼んでいると諸侯に紹介した

『白狼の刃』有名な冒険者チー厶なのだろう

彼らが自軍に居る事を知った人間の首脳部達は安堵の表情を浮かべた


タイミングよく前線から報告が入る



「申し上げます!白狼の刃!!瞬殺されました!!」


「はい!?」



ギルド連盟の会長が頼りにしていた最強の冒険者チー厶は、

シャルル達を相手に既に敗北していた

最強と讃えられていたが一般の兵士共々平等に切り倒され、

紹介されていた頃には全員が絶命していた

 

最強の冒険者チー厶の敗北の報告を受けた人類側の首脳部は震え上がった

人類軍全体にも動揺が駆け巡る



「あの最強冒険者チー厶が敗北した?…」


「瞬殺だと!?…」


「まさか…勇者パーティーに入っていてもおかしくない連中だぞ?」



勇者のパーティーのメンバーに匹敵すると言う、

実力を有していた冒険者チー厶が、

シャルルとエレキと吸血鬼姫ピリカの前に惨殺された


オルシュタット達首脳部は部下達に徹底抗戦の指示を出し、

自分達は馬に跨り逃げる準備を始めていた


寄せ集めの人類軍もシャルル達の異常な強さを前に逃走者が続出した



「ひいいいいいーーー!!やってられるか!!」


「割に合わねー!!」


「吸血鬼姫だけでも手一杯なのに、同格が二人も現れた!!」


「逃げるが勝ちだぜ!!」


「こんなの戦いじゃ無い!!一方的な虐殺だ!!」



数は減らしていたが約五万人に近い人類軍の大半が逃走を開始した

未だ魔族軍に数で勝っていた人類軍が一目散に戦場から離れていく

彼らは自軍が何人残っているか把握出来ていなかった

確かに万人単位の集計なんて混乱著しい戦場で出来る訳が無い


逃走を始めた兵士達にオルシュタット王子が馬上から指示を出す



「貴様らあーーー!!敵前逃亡は死罪だぞ!!」



オルシュタットの警告を聞いて足を止める兵士達

逃げても死罪になるならと、

再び魔族に戦いを挑もうと振り向く者も現れた



「ぐくぅ…逃げても処刑か……」


「俺だけならまだいいが家族にまで罪が及ぶかも…」


「それならば戦って生き残る道を…」



冒険者達は恐怖で震える手に武器を持って魔族側に身体の向きを戻した


だが振り向いた先には禍々しい魔力を身に纏った魔族の増援が現れていた

人類軍の全員が空から飛んで現れた魔族の増援部隊に視線を奪われた

魔族の増援部隊を指揮している人物を指差し大きな声で叫ぶ者が続出する



「長身…切れ長の赤目…羊角……」


「ま、ま、魔王だ!!」


「魔王が現れたぞーーー!!!!」


「さ、最悪だ…………」


「詰んだ………」


「俺の人生はここまでだったか…………」



魔王の登場に人類軍は全員が絶望を感じていた

人類軍の首脳部も魔王を見上げ真っ青な表情になっている

青ざめた表情で空を飛んで来る魔王の姿を視線の中央で追っていた


魔王が東の戦場に現れたと言う事は魔王が自由に動ける事を意味していた

つまり勇者パーティーが魔王に敗北し、

囮ではない南と北の人類軍も魔族軍に敗北、

残った東の囮部隊の掃討に現れたと人類側首脳部は瞬時に悟った



「バカな!?魔王が現れただと!?」


「それでは勇者パーティーはどうなった!?」


「負けたのでしょう……」


「ならば北の正規軍と南の聖教軍は!?」


「共に敗北したのでありましょう……」


「では、あのペガサス騎士の報告は真実だったのか!?」



実際に現在進行形で戦いを継続しているのは、

戦況報告を信じなかった東側の部隊だけ

真実の報告を持ち込んだペガサス騎士は殺害されている…

オルシュタットは今になってペガサス騎士を殺した事を後悔していた


ここまでの戦いで数は減らしているが五万近い自軍の先鋒が、

三人の魔族の少女に蹴散らされていく

少女達の後背には首都防衛の魔族軍が控えている

更に魔都の上空には魔王一派が何時でも攻撃を出来る体勢を布いていた


人類軍は数は多いが練度の低い寄せ集め部隊


一報で魔族側は魔王や魔族の強者が揃って居る状態だ

数で押し切れる状況では無くなった

制空権も魔族側にいつの間にか取られている


もはや東側の人類軍に勝ち目は無かった



「じょ、冗談じゃ無い!!逃げるぞ!!」


「俺達だけで相手出来るか!!」


「お、お待ち下さい!オルシュタット王子!!」



人類側の首脳部は未だ戦っている自軍を放置して馬を走らせ始めた

首脳部に続いて人類軍も逃走を開始する

今度の逃走は先程とは違い皆生き延びる為に一生懸命だ


人類側は首脳部を先頭に全軍の全面撤退を開始した


戦っても無駄だと生物の本能で理解しているからだ


馬に乗って逃げ始めた人類側の首脳部を見ていたシャルルが、

無表情のまま聖剣を大きく振りかぶった



「逃さない」



シャルルが魔剣に偽装した聖剣を人類側に向けて投げた

物凄い速さで聖剣が一直線に飛んでいく

衝撃波に近い空気の振動をあげながら剣が兵士たちの間を飛んでいく


シャルルの投げた剣は馬に乗り戦場から背を向けて逃げ出していた、

人類側の司令官オルシュタットの腹に見事に命中した

剣は束の部分までオルシュタットの身体に突き刺さっていた



「がはあ!?ば、ばかな!?」


「こ、この距離を……ぐがはあ!!………」


どさっ。ごろごろ……



オルシュタットは腹に剣が突き刺さったまま馬から落ちた

魔都を東側から攻めていた人類軍の司令官が死亡した

オルシュタット王子の死に驚く首脳部達

司令官を死に追いやった剣を見て恐れを抱いて後方を振り返る



「どこから剣が投げられてきた!?」


「魔族の先鋒は、だいぶ後方です!!」


「まさか、あの場所から剣を投げて来たと言うのか!?」



人類側首脳部は司令官が倒された原因に納得できずにいた

なぜなら彼らに剣を投げつけてきたシャルルの位置が問題だった

人類側首脳部が逃げている場所とシャルルの居る位置が離れすぎている


シャルルは一キロ以上の離れた場所にいる人物に的確に剣を投げつけていた



「オルシュタット王子!?」


「…………」


「ぐくう!せめて、この剣だけでも持ち帰ってやる!!」



ギルド連盟会長のオルルドがシャルルの魔剣に偽装された聖剣を、

オルシュタットの身体から引き抜こうとした

せめて剣だけでも持ち帰りたかった様子だ

オルシュタットの身体に突き刺さった剣の柄を掴んだ


シャルルがエレキに合図の言葉を発した



「エレキ、いま!!」


「はわわわ!!いきますよ!ソレ!!」



エレキが腕を大きく動かした時と同じくして、

オルシュタットの身体に突き刺さっていた聖剣が勝手に動きだした

聖剣が自由気ままに暴れ出す

暴れ出した聖剣を躱す事に必死になるオルルド



「なんだ!?急に剣が暴れだした!?」


「ま、まさか剣自体が魔物なのか!?」



暴れ回る剣を必死に躱していたら、

急にオルルドの片腕と片足が切断された

切れた手足が地面に落ちて転がる



「ぐああ!!どこからの攻撃だ!?」


「オルルド殿!!今は引きましょう!!」


「うぐう…仕方ない………」



副官のオルルドと人類側首脳部達を攻撃したのはエレキだった

エレキはシャルルの提案で聖剣に鉄線を括り付けていた

聖剣が暴れ出したのはエレキが鉄線を操ったから

オルルドの手足が切れたのはエレキの鉄線に触れたからだ


エレキが鉄線を引き戻すとシャルルの手元に聖剣が帰って来る


手元に帰って来た剣を再び人類側の首脳部に目掛けて投げつけるシャルル



「えい!」



シャルルが剣を投げつけた



「ぐはあ!!俺の足が!?」



シャルルの投げた剣が人類側の首脳部の人物の足に見事命中した

そしてエレキが鉄線を引くと剣がシャルルの下に帰って来る

帰って来た聖剣を再度、首脳部目掛けて投げつけていくシャルル


その繰り返し


シャルルとエレキの連携の取れた超長距離攻撃で、

魔都の東側を襲っていた人類軍の首脳部は壊滅していった

気が付けば副官のオルルドも逃走途中で出血により命を落としていた


魔族軍の攻撃から必死に逃げ出した人類軍

重い武器や装備を捨て身軽になり走って逃げている

ここまでくれば人類軍は全軍が瓦解したと言っていいだろう


そんな人類軍に容赦なく攻撃を加えるシャルルとエレキ



「今度はあの男」


「はわわ!わかりました!!」


「今度はあの女」


「はわわわ!!さすがシャル様!!すべて命中してますね!!」



シャルルとエレキの攻撃方法を見ていた魔族軍もドン引きだ

魔族軍のほとんどが口を開けて呆けた顔になっていた

魔王は可愛らしい羊角が生えた頭を両手で抱え険しい表情をしていた


( あんな攻撃方法があるか!! )


吸血鬼姫は腹を抱えて笑っていた


「ははは!!やはりあの二人、強いな!!」


こうして魔族軍は魔都を包囲し攻め込んで来ていた、

人類種諸国連合軍を全て退ける事に成功した

人類側の侵攻を食い止めて魔族側が勝利を宣言する


魔王が魔族軍が集まる地上に降り立ち片手を上げて勝どきをあげた



「みなの者!!余の軍の勝利ぞ!!」


「おおおおおおおおおおーーーー!!!!」


「魔王様ああああーーー!!魔王様ーーー万歳!!」



魔族軍に喝采の声が上がった


自軍の勝利の声を聞いていた魔族の住民達も喝采の声をあげた

避難民たちも歓喜の声をあげる

あの者は戦いの勝利に喜び、あの者は生き残った事に安堵した

勝利した事に涙を流している者もいる

感極まった魔族の兵士達がお互いに鎧装備を着けたまま抱き合っている

胴上げをされている者も居た

装備を着けたままだから重そうだ

魔族の兵士達は人類軍に勝利して個々が感情表現を豊かにしていた


そんな勝利の喜びの中で魔王は一人頭を悩ませていた

人類側を裏切った勇者シャルルと、

隠密のエレキが戦いの中で目立ち過ぎていたからだ


( さて、エレキは誤魔化せるとして、問題はシャルルだな… )


( どう説明すればいいものか… )


( 先程の攻撃と言い、この小娘、余より強くないか? )


( う~~む、余の姪と言う事にするか?… )


( どうしたものかな?……… )


魔王はシャルルをどういう風に魔族軍に紹介するか真剣に悩んでいた

連日の更新です!読みに来てくれた読者の皆様ありがとう!!

話の終盤、シャルルとエレキの反則的な攻撃が行われました

動く者に遠距離から剣を投げさす…そんな事出来ませんって…

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