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第10話 隠密娘の苦労事

魔王が北の戦場で勝利を収めていた頃、

南の戦場では聖教軍を全滅させた勇者と隠密娘が、

南の魔族軍残党と合流する事になって…

隠密娘の苦労事



私の名前はエレキ

金髪ドリルツインテールが特徴の魔族軍隠密部隊の兵士の一人

主に情報収集や要人の暗殺をしています

隠密部隊の中でも結構重宝されていた筈です…


ですがなにの因果か、私は現在、魔力を使い果たした勇者様を背負い、

真っ赤に染まった平原を、

魔族の首都に向かい歩いて帰っている所です



「はわわわわ!足の裏が気持ち悪い!!」



隠密部隊の私の靴は動きやすく音をたてない為に靴底が薄いのです

靴底が薄いから足の裏に嫌な感触を覚えます

真っ赤に染まった平原の原因は私が背負っている勇者様

勇者様が大魔法を行使して、

人類側の聖教軍、約一万七千人を潰してしまったから


靴底からグチャグチャ音がしてもの凄く気持ち悪い

軽く心にトラウマが残る光景が拡がっていますよ?

隠密部隊でも今まで見た事が無い景色の中を歩いていますよ?


勇者様が使われた魔法を見ていた私は、

恐怖のあまりお漏らしてしまいました

早く下着を着替えに家に帰りたいです


魔力を使い果たした勇者様は私の背中でウトウト眠そうにしています

勇者様の身体は身長が低く華奢で体重が軽く、

肌は綺麗な色白肌で同性の私から見ても可愛い系です


私の身長が157センチで勇者様は150センチぐらい

身体が小さく可愛い容姿なのに、

人を殺す事になんの躊躇いもありませんでした


はっきり言って怖いです


勇者様の僅かに膨らんだ胸の感触が私の背中に服越しで密着していて、

布越しでも伝わって来る体温が心地良いな…

なんて言ってられないぐらいの恐怖でした


あの魔法を私たち魔族側に使われていたら…


生き残れるのは双子の姉や魔王様や八魔将の方々ぐらい、

私は致命傷間違いなしです

もしかしたら死んでいます!!

壁に投げつけられたトマトみたいに潰れちゃいます!!


そんな訳で勇者様にお願いしました

機嫌を損ね無い様に慎重に声を掛けます

もし機嫌を損ねたら、潰れたトマト確定です



「絶対にさっきの魔法を魔族側に使わないで下さいね!!」


「大丈夫、約束する」


「私、黄色から赤色になりたくないですからね!」


「エレキ、私少し眠る…」



勇者様は私に虐殺魔法を使わない約束をしたら眠ってしまいました

魔力切れを起こした者は睡魔に襲われちゃいます

魔力切れを起こして眠るのはこの世界の常識です

種族に関係なく魔力切れを起こすと眠るか意識を失います


普通なら少なくても丸一日は寝てしまいます

魔力が生まれつき少ない私も経験があるから詳しいのです



「勇者様、寝てしまったなぁ~…」


「わはは!寝顔可愛いのです!」


「しかし本当に勇者様って軽いですね…」


「華奢で軽いけど、強かったなぁ~」



完全に寝入った勇者様を背負い魔都の南門へ向かっていきました

隠密として勇者様を処分するチャンス?

冗談じゃありません!!

勇者様に手を出そうモノなら私なんて瞬殺ですよ?


一殺いちコロ、間違い無いですよ?


それに、背負っている少女の容姿と体型、

実は私のドストライクなんです!!

妹みたいで可愛くてたまりません!!

家にお持ち帰りしてゆっくり愛でたいです!!


そんな妄想を膨らませていたら南門に着いちゃいました

門の前には仲間の魔族軍が待機しています

勇者様の魔法を見て私と同じ様にチビっている魔族も居ました


皆が勇者様に恐怖を感じていると予想していたら、

ライオンの獣人のライオネスさんが、

勇者様と私に近付いて来て感謝の言葉を掛けて来ました



「嬢ちゃん達、特に黒髪の、めちゃくちゃ強いな!!」


「いやぁ~、俺もまさか聖教軍を一魔法で片付けると思わなかったぜ!!」


「とにかく助けられた!礼を言う!ありかとう!!」



ライオネスさんが御礼を言ってくると、

魔族の残党達も勇者様と私を称賛してくれました

頭を撫でられ褒められています

隠密部隊の私がもの凄く目立っている気がします



「ありがとう!嬢ちゃん達のおかげで助かった!!」


「あの残虐魔法凄かったな!!」


「見た事無い魔法だったぜ!!」


「まるで八魔将軍…いや、魔王様クラスだ!!」


「はわわ…遠からず当たっている……」


「何か言ったか?」


「はわわわ!な、なんでも無いですぅ~」



ここまでの戦いで傷だらけの魔族達が勇者様を褒めています

魔族は来るもの拒まずな輩が多い

しかも魔族の風潮として強者を尊敬する傾向があるから、

強い勇者様を快く受け入れていました

今は私の変装魔法で勇者様は黒髪に化けています

黒髪の魔族風の少女を魔族軍は大絶賛していました


勇者様に続いて私にも注目が集まります



「黄色髪の姉ちゃんも強かったぜ!!」


「見えない鉄線攻撃の使い手とはな!」


「いやぁ~、それほどでもありませんが!!」



隠密部隊なのに攻撃方法を見られてしまいました

亡き者にした方が後の為になりますが、

褒められると嬉しいので今日は許してあげましょう


私は南門をくぐる前に聖教軍が陣を敷いて居た南の平原を見ました


馬ぐらいしか生きていません…


生命完治の能力を使っても聖教軍に生き残りは居ない様です

聖教軍の全滅を確認してから南門をくぐりました

城壁をくぐり抜けた先でも仲間の兵士達が駆け寄って来て、

私と勇者様に頭を下げてお礼を言ってきました


称賛の嵐です!



「嬢ちゃん達、二人だけで敵を全滅させたのか!?」


「凄かったなぁ~」


「黄色髪の君も鉄線攻撃!切れ味抜群だったよ!!」



私、超目立ってます!!


今後の仕事に支障が出そうです

やはり縛り殺しましょうか?

いやいや、ここは冷静に称賛を受け入れましょう


兵士達の称賛が落ち着いて来た所で街の広場に視線を向けました

敵に集められていた魔族の住人が居ません

魔族の女子供が集められていた場所はすっからかんです

今は魔族の兵士が建物の瓦礫を撤去していました

勇者様が使用した大魔法の威力で地揺れが起こったようです


住民はどうなったのでしょう?


仲間の魔族の住民の安否を気にしていたら、

ライオネスさんの部下が住民達がどうなったか報告してきました



「捕まっていた住民達なら、みんな無事だぜ!!」


「嬢ちゃん達が戦っている間に避難を完了させたんだ!!」


「なんと御礼を言えば良いか……」



聖教軍に集められていた住民達の保護も無事に終わっていた様です

勇者様の魔法による地揺れで建物の崩壊は著しかったけど、

広場に住民達が集められていた事が結果的に人的被害をなくしていました


不幸中の幸いです


勇者様が聖教軍と戦っているうちに住民の避難も完了した様です

ここに残っているのは怪我をしているが血の気の多い戦闘員

勝利の熱が冷めず、まだ戦いたいみたいです


( 傷だらけの人も居るのなあ~… )


ライオネスさんが勇む兵士達を代表し提案をしてきました



「南の戦いは済んだが東と北の戦いはまだ続いている…」 


「北は魔王様が向かったから大丈夫でしょう!」


「なんと!?魔王様の行動を知っている!?」


「やはり貴女方は魔王様のお知り合いでいらっしゃる?」


「はわわ!!……」



隠密部隊の私とした事が迂闊な発言をしてしまいました

魔王様と親しい関係者だと思われた様です

ライオネスさんを始め、その場に居た魔族兵全員が私に膝を付きました


目立っては駄目な隠密部隊の私、目立ち過ぎです!!


みんなが私の発言に注目しています

私としては早く家に帰りたい…

一刻も早く家に帰り水浴びをして下着を替えたいです


ところが南の魔族残党軍を再編したライオネスさん達は、

私にとんでも無い提案をしてきました

膝を付き頭を下げたままの格好で援軍に向かうと言い出しました



「魔都の東側から攻めて来ている人間軍、相当な数だと言う話だが…」  


「寄せ集めの陽動部隊の事ですね!」


「ワイバーン騎士の話だと三万は居るとか…」


「惜しい!三万では無く、五万ですぅ~!」


「八魔将のピリカ様が向かわれた筈だから大丈夫だと思いますが…」 


「ピリカ様は北に向かわれましたよ?」



ライオネスさんと魔族側の雑な情報に、

つい本当の事を言ってしまった私

魔族軍のみなさんの私を見る目が変わっていきます


目立っています!絶賛注目の的です!!


ライオネスさんが部下を一通り見た後に質問してきました



「そのツインテール………やっぱり、あんたは……」


「ソレ以上言うと、口を封じちゃいますよ?」


「むぐう!?すまない!!」  



自分の手で自分の口を塞ぐ立派なたてがみを生やしたライオネスさん

強そうなライオンの獣人が慌てて口を塞いでいます

少し可愛く感じられるけど、ライオネスさんの部下たちは戦々恐々

部下の方々も余計な詮索をやめてくれました

ライオネスさんは口を塞ぎながら私の髪型に注目しています

私のツインテールに見覚えでもあるのでしょうか?


お姉ちゃんとお揃いで気に入っているんですけど…


髪型を気にしていたら本題に話が戻りました



「ピリカ様が北に移動したなら尚更東に向かうべきだ!!」


「ええ~…東には魔都防衛の本隊も居るから大丈夫ですよ?」


「いえ!敵との兵士数が違い過ぎます!!東に行くべきです!!」



魔都の東側から攻めて来ている人類軍に対して、

魔族軍は首都防衛の本隊が撃退に向かいました

まんまと人類側の陽動に乗せられた格好ですが、

しかし勇者様の情報によれば東側の人類軍は数だけの寄せ集め


脅威の聖教軍は勇者様が倒してしまったし、

北から攻めてくる諸国連合の正規軍には、

魔王様が自ら戦いに出向いて行かれました


もはや大勢は決した様なモノでしょう

とにかく私は早く家に帰りたい

水浴びと着換えがしたくて仕方ありません


そこで私はライオネスさん達に、

東へは行かず南の治安維持を頼もうとしました



「はわわ!取り敢えずライオネスさん達は街の南側の防衛を…」



私が喋り出すと同時に思わぬ提案が背後から出てきます

聞き覚えのある女性の声です

女性の発言はライオネスさんと一緒でした



「東の戦いに参加する」


「勇者…シャル様!?」



魔力切れを起こして寝ていた筈の勇者様が目を覚まし発言しています

魔力切れの程度によりますが、

普通はこんなに早く目を覚ましません


目を覚ました勇者様は私の背中から元気良く地面に飛び降りました


勇者様に質問します



「はわわ!えっと…シャル様!もう動けるのですか?」


「うん。十五分は寝たから平気。」


「普通は丸一日ぐらい寝込みますよ?」


「魔力は戻って無いけど身体は元気。」



勇者様は身体を体操の様に動かして元気アピールしています

いやいやいや、あの大魔法を行使したのに、

十五分の睡眠で回復とか規格外過ぎて驚きが隠せません


実は魔王様から勇者様の弱点を探る密命を受けていた私は、

勇者様に弱点が無い事を悟りました

寝ていた十五分の僅かな時間にも隙なんてありませんでした


( はわわ!さすが勇者様!!魔力切れの睡眠時間が短ッ!! )


私が不必要な筋肉を動かしていたら、

勇者様は私の変化に気付き、

きっと今頃、私の魂はあの世の大河を渡って居る頃です


勇者様に尊敬と畏怖の念を抱く私

一方で勇者様は私に対してまったく別の感情を抱いていました


( エレキの背中、気持ち良く寝れた )


( 凄く久しぶりに他人を信頼出来た… )


( 魔族側について良かったな。 )


勇者様は私を信じ切って本気で寝ていたみたいです

他人に命を預けて眠る事に感動していたらしいです

寝顔は可愛らしかったのに起きた後は、ほぼ無表情ですけど…


( もっと寝顔を見て居たかった… )


当然私は勇者様に手を出すつもりはありません

だって私なんて簡単に死んじゃいますよ?

勇者様が居なければ聖教の大司祭が唱えた爆発魔法で致命傷でしたよ?

魔王様のお城から飛び降りた時も、

勇者様が受け止めてくれなければ自殺体でしたよ?


まあ、どれも勇者様のせいでもありますが…


元をたどれば魔王様が私に勇者様の監視を命じたせいでもありますが…


どちらにせよ私は勇者様を売ったりしません!!

なぜなら力の差が有り過ぎるからです

決して勇者様の容姿が私の好みのド真ん中だからではありません!!


魔王様へは「脅威無し」と報告する事に決めました


元気をアピールする体操を終わらせた勇者様は、

今度は両手を胸の前に構えて、

この後も戦いを頑張る仕草をしていました


勇者様がスッキリした顔で元気一杯に口を開きます



「よし!東の戦いに参加してくる。」



私達の同意を得ずに街の東へ向かおうとしています

勇者様を一人にはさせたくありません

もちろん私も勇者様と行動を共にします



「はわわ!待って下さい!!シャル様!!私も付いて行きます!!」


「良いの?」


「むしろ勇…シャル様こそ良いのですか?」


「なにが?」


「変装していると言っても人間相手ですよ?」


「東は傭兵と冒険者が中心だから、私の顔をみんな知らない。」


「いえ、そう言う事では無く、人間の一般人もいるんですよ?」


「うん。頑張る!!」



魔都の東側で繰り広げられている魔族と人類の戦いには、

人間の一般人が多く含まれているみたいです

傭兵や冒険者や一般人を徴兵した寄せ集めの混成部隊


果たして人類側だった勇者様が人間の一般人を相手に、

戦闘行為が出来るのでしょうか?

私の質問に勇者様はやる気を出していました


無表情に近い笑顔で胸の前で頑張る仕草を続けています


ハーフエルフの勇者様は人間がよほど嫌いな様でした



「あっ…大丈夫そうですね!」


「頑張る」



勇者様と話をしていたらライオネスさんが、

真剣な顔で話に入って来ました

先程と同じ様に街の東側の戦いに参加するつもりです



「嬢ちゃん達が行くなら俺らも行くぜ!!」


「ライオネス様!南の敗残兵は片付けました!!」


「よし!念の為に小隊を残し、動ける者は俺に続け!!」


「了解であります!!ライオネス様に続きます!!」


「人間共を魔都から追い出してやるぜ!!」 


「うおおおおおおおおおおーーーーー!!!!」



魔都の南側の戦いは完全に決着がついていました

街の中に入り込んで居た敵部隊も、

ライオネスさんの部下が排除したみたいです


街の南には念の為に治安維持の小隊を残し、

再編した魔族の残党全軍で東へ向けて移動開始です


兵士の士気が無駄に高いです


勇者様と私を筆頭に南の魔族残党軍は街の東へ移動していきます

魔都の外周部は比較的に新しい街並と大きな道路が敷かれていました

街が外へ成長を続けているから道路が広いのです


ところどころ勇者様の大魔法で発生した地揺れで崩れていますけど…

瓦礫をよけながら広く大きな道路を全力疾走していきました



「はあはあ、嬢ちゃん達、足が速いな…」


「ライオネス様!あの二人に追いつけません!!はあはあ…」


「は、早すぎです!!ひいひい…」



隠密部隊の私、勇者様に出逢ってから、もの凄く目立っています


しかし勇者様の走る速度が本当にめちゃくちゃ早い

走る速度には自信あったのですが、

付いて行くのがやっとでした


しばらく走ると東側の戦場に到着しました


土埃が舞う中で冒険者が剣を構えています

人間が街に入り込んできています

私は数歩先を先行する勇者様に敵が居る事を知らせました



「冒険者ですよ!!シャル様!!」


「任せて。ぜつ真空斬しんくうざん。」


「ぐずはああ!!」



戦場に着くなり冒険者一組を斬り倒す勇者様

魔剣に見立てた聖剣を振り、

ベテラン風の冒険者三人を一瞬の内に倒しちゃいました


躊躇が無い!!


こうして私と勇者様は東の戦場でも目立つ事になりました…

この物語を読みに来てくれている読者の皆様、ありがとうございます!

こんな感じで勇者が人間相手に大暴れしていきます


今話は勇者の相棒になりつつある隠密娘視点の物語でした

隠密娘が目立ちすぎです…汗

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