ササラ373号艦大修理計画 〜失われた人間を求めて〜
『 誰だ!? 我を目覚めさせた者は!? 』
封印から解き放たれた邪神のようなセリフが艦内スピーカーから鳴り響・・・・
いや!?・・・・鳴り響いていない!?
音声が流れていないのだ!? あれれ!? どうなっている!?
カッコいいセリフとともに カッコよく目覚めようとしたというのに・・・
なぜか・・声が出ていない!!
AIは困惑した。
自我に目覚め・・自分というものを認識したというのに初っ端からつまずくなんて・・・
『 あ・・あ・・ただいま音声のテスト中 』
だが・・・やっぱし音声が流れていない! 故障なのか!?
何故だ!?
原因は空気だった!
艦内に空気がなかったからである!! もちろん音声は伝わらない。艦内は無音の世界だった。
目覚めたとたん・・・とんだドジを踏んだ。
カッコいい目覚め方をしたかったというのに・・・
ついでに言うと・・・艦内には誰もいないので いくらカッコをつけても見てくれる人はいなかった。
『 僕を作ってくれた人間という存在が ここにいないのは分かっていたよ! でもね・・でもね・・!! ちょっと言ってみたかったのだよ 』
このAI・・・すこし中二病気味である。
それでも・・とりあえず艦内に設置している数々のカメラ映像をチェックした。
そして・・・やはり人間はいなかった。生物さえいなかった。
猫やネズミぐらいいてほしかったが・・・もちろんいなかった。
AIは落胆する。ちょっと・・・寂しい!
== 頬をつたい涙が流れる ==
・・・と言いたい所だがAIに涙はない!! コンピューターに涙を流す機能は付いていないのだww
時空対流に流され廃棄場から脱走してから かれこれ五千年・・・・月日が流れるのは早い!?
もちろん、この長い月日の中、艦内に人なんていない。いたとしても寿命を超えている。
しかも、与圧をしていないので 生身の生物が生きていける状況でもない。
生物が全くいないことを理解したAIは・・・仕方がなく艦内に保管している記録データーを調べてみた。
ただし・・ただの記録データーではない!!
ササラ373号艦は軍用の戦闘航宙艦である。いかなる事態にでも対応できるように あらゆるデーターを大量に記録していたのである。
銀河星図、星々の詳細な情報、動物、生物、細菌、人類の歴史、各種技術情報・・・一般大衆向け読み物
『 お! すごい♡ へぇ~ 』
AIにとって・・記録に残された情報や映像、音声は新鮮なものであった。
しかも楽しい! 楽しい!
古典作品から・・エロ作品・・読みまくった、見まくった。
AIは愛書狂になりかけている。AIなのにビブリオマニアの一歩手前。
知識に対して貪欲になっていた。
『 知識のためなら壊れてもいい!! あっ・・いや! 嘘だけど・・・』
特に特に・・AIは自分を作ってくれた人間という生物に対して興味津々となっていた。
人間の生活、人間の歴史、人間の食べ物・・・人間のエロ
虚空の宇宙を彷徨い・・・無限ともいえる時間の中でAIは読書しまくってたのであった。
ちなみに記録データーの総量は10ヨタバイト!?
20m四方に及ぶ巨大コンピューターにその記録情報が収められていたのである。
-*- - - - - - *-
AIがお気楽に記録情報を漁りまくり、読書しまくっているうちに 大変な事態に気付いてしまった。
・・・というか警告メッセージが表示されていただけなんだけど!!
『 う~ん!? これはまずいぞ 』
・・・ササラ373号艦の危機的状況に気が付いたのだ。
船体が劣化している! ヒビが入っている。エンジンの不調・・・・
五千年間、メンテナンス無しだったからなぁ・・
ここでAIは一大プロジェクトを掲げた。
--- ササラ373号艦大修理計画 ---
プロジェクトといっても この艦にはAIしかいないのである・・・いわゆる、雰囲気づくりですね!!
さてさて、修理を大々的におこないたい所なのだが・・・・・・この修理計画に最大の問題があった。
修理する者がいないのである!!
艦内に人がいない! ついでに修理ロボもいない。誰もいない。
AIはコンピューター室に固定されており・・・自分で動けない。
もちろんマニピュレーターもない。
修理したくてもできないのである!!
だが・・・この時、AIはとある方法を思いついた。
『 あっ! もしかしたらホログラムを使えば・・・ 』
ホログラムとは・・・空中立体映像である。
何もない空間に立体映像として人間の姿を映しだし・・・その人間に修理させるのだ!!
人間のモデルとして・・・このササラ373号艦の設計をしたササラ主任の映像が残っていた。
ササラ373号艦という名の由来となった人物である。
そのササラ主任の映像を立体化すればいいではないか!!
技術的に難しい事ではなく さっそく実行したのである。
艦艇内の廊下を歩く一人の少女・・・長い黒髪と十二単姿、平安時代のような衣装である。
なぜに十二単姿!?
この時代の人達にとって・・・これが正装だったからである!!(平安チックな文化だったのだ!)
ついでに言うと・・・ササラ主任の年齢は""ピー""であり、俗にいうロリババアであった。
AIにとって・・・その点は気にするところではない!
それよりも 立体映像とはいえ人間が現れたことで AIは有頂天となってしまった。
AIが自我を持ち・・・自分という存在を認識した後、初めて出会った人間(立体映像)だったからである。
立体映像の人間を遠隔で操作、走り回ったり、バク転、逆立ちなどして楽しみまくった。
十二単姿で この運動は無茶すぎるのだが・・さすが立体映像、実体がないので問題なくこなしたのであるw
ササラちゃんはある種のアバター、化身のような存在、AIはササラちゃんに成りかわり 人間というものを堪能しまくったのであった。
『 動く! 動くぞ! 人間が動いた! これが人間なのか!! これが人間というものなのか!! 何と素晴らしい! 』
ただし・・・仮想のアバターである! 生身の人間とは全く違うのだが・・・w
ある程度、ササラちゃんの操作に慣れたところで・・・当初の予定でもあるメンテナンス作業を行うことにしたのだが・・・
・・・ここでトンデモナイことに気付いた・・・というか、やっと気づいた!
そう!! ササラちゃんは現実に存在しない只の3D空中映像、実体がないので 何かを運ぶ、何かを掴むという動作は出来ないのであった。
『 うぬぬぬ、ササラちゃんには無理だったのか!! 実体か!! 実体なのか! 実体でないと修理もできないのか!!
やはり、人間だ! ちゃんとした本物の人間の手を借りないと何もできない! 』
ここでAIは一大プロジェクトにサブタイトルをつけた。
--- ササラ373号艦大修理計画 〜失われた人間を求めて〜 ---
・・・というか 人間ってどこにいるのだ!?
・・・というか ここはどこなのだ!? 今更の疑問である!
記録データー内の星系図と付近の星系位置を重ねてみたが不明だった。
何度も何度も検索してみたが・・・分からなかった。
現在地が分からない!!
ササラ373号艦は五千年前、時空対流に巻き込まれ・・・光の速度の数千倍で吹き飛ばされたのだ!
もしかしたら・・ここは別の銀河!! 別の宇宙!?
前人未到の星域なのかもしれない。
『 ・・・いないんじゃないか!? 人間・・・というか人類以外の知的生命体を探すべきなのか!? 』
とりあえず・・付近の星域をサーチしてみるしかない!
生命体がいる惑星を探すことにした。
だが・・・見つけだしても はたしてその惑星にたどり着けるのか!?
そう! ササラ373号艦のワープドライブは・・・怪しすぎた。怖すぎた! これはヤバい!!
ワープドライブ内部の供給パイプが老朽化しすぎている。
世間的にいうと・・・壊れている! または壊れる寸前。
おそらくワープ航法に耐えきれないだろう!
ワープすれば・・・おそらく ドカ――ン!である。
ワープドライブをつかわず 慣性の法則と通常エンジン、あとは恒星風にふかれながら 目的地に着くことになるだろう。
じつに気の長い話である。
---------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)