終戦 〜冒険はここから始まる!〜
-- ササラ373号艦 --
双胴船のような姿をした多目的戦闘航宙艦、全長5km、時空雷撃砲20門、超重核融合炉4基、第八世代型ワープドライブエンジンを搭載、
重武装型の艦艇ではあるが・・分類としては小型駆逐艦とされている。
銀河を巻き込む大戦中に建造された戦時急造艦なのだが・・・完成したときには すでに終戦となっていた。
ササラ373号艦は・・生まれたとたん無用の長物扱いにされたのであった。
そして戦後、大戦中に大量生産された他の急造艦と同じく・・・廃棄処分の決定がなされた。
ちなみに・・・ササラ373号艦の属する国は銀河大戦にて戦勝国、勝利した側の国である。
敗戦したための廃棄処分ではないことだけは記しておく。
要するに戦争がなくなったので維持費が勿体ない!軍事費削減!・・いらない艦艇はゴミ箱へポイ! であった。
ついでに言うと廃棄処分とは・・・爆破処理を意味する。
戦いのために生まれたはずの船は・・・戦いを経験せずに運命を終えてしまうのだ。
PEP-10宙域と呼ばれる地点に 爆破処理される艦艇がずらりと並べられた。
ササラ373号艦もその中の一つである。
もちろん・・乗務員は乗り込んでいない。自動コンピューター(AIシステム)によって航行し予定地点に停泊した。
全てプログラムによる誘導である。当然ながら このAIシステムに感情や意思のようなものはない。
あくまでも・・無機質な機械なのである。
その日・・・PEP-10宙域に 多くの人たちを乗せた一隻の中型艦艇が到着する。
大戦中に活躍した艦艇たちに対して最後のお見送りをするためであった。
静かな音色が流れる中、艦内デッキにて一列に並んだ航宙士官たちは・・・
去り行く勇者(艦艇)達に対して・・・最後の敬礼をしていた。
仕官たちの中には・・数人、涙を流す者も見受けられた。なにか思い入れのある艦があるのだろう。
『 キヨコ~! 行かないで! 』
国有艦艇に私的な名前を付けて叫ぶ強者!?の姿もあった。
よほどの愛着があったようである!
ちなみに叫んでいる士官は・・・どうやら元艦長らしい。
おそらくその艦艇とともに死線を越えて戦い続けた戦友だったのだろう。
『 マダオ 』『 サダコ 』『 トマト 』『 キャベツ 』
他の士官たちも同じく叫んでいた。
この国の文化には 艦艇に私的な名前をつける風習があるらしい。
しかし・・・それとは違って ササラ373号艦に名前を付ける者は 誰もいなかった。
数字でしか呼ばれなかったのである。
戦場にすら出ていない艦艇なので・・誰の思い入れもなかったのであろう。
仕方がないのだが、ちょっと寂しく思う。
・・・とはいっても この艦艇に感情も意思もないけど・・・
そして・・・いよいよスイッチが入れられようとしていた。
反超重力投射弾発射のスイッチである。
新型兵器の実験を兼ねた廃棄処分でもあった。
この兵器はかなり強力であり・・・広範囲に強烈なダメージを与えることができる。
PEP-10宙域の廃棄予定艦艇を全て、一気に破壊できるのであろう。もちろんササラ373号艦もである。
いわゆる戦略級破壊兵器の実験体にされようとしていた。
だがその時・・・奇跡が動いた。
『 8・・ 7・・ 6・・ 5・・・・・・ 』
反超重力投射弾発射の秒読み直前・・・この宙域を揺るがす空間変動!! いわゆる時空対流が巻き起こったのだ。
詳しい理由は謎だが・・・別宇宙からのなんらかの重力波によるものだと思われている。
この宙域の空間そのものが まるでジェットコースターに乗せられているような 凄まじい状態におちいった。
360度トリプル回転、しかもひねり回し・・・まさに目がまわるような凄まじい揺れ。
ここは地面がない虚空の宇宙であるはずなのだが・・・地上で起きるような激しい揺れが襲い掛かる。
いや! それ以上の揺れが襲ってきた!!
空間という名のおもちゃ箱をバラまいたように 全ての物を周辺にばらまいていく。
航宙士官たちを乗せた艦艇にも 容赦なく時空対流が襲い掛かり・・艦艇はサイコロのように転がっていく。
だが・・この艦艇には重力発生装置を装備しているため 乗組員は激しい揺れを感じることはない。
もちろん、怪我人を出すこともない!!
慣性の法則を重力発生装置で打ち消しているのである。さすが! 宇宙時代の科学技術である。
士官たちを乗せた艦艇をはじめ・・廃棄処分される艦艇、そして・・ササラ373号艦、これら全ての船が、時空対流に巻き込まれ、
空間ごと弾き飛ばされたのだ。
しかも・・その速度は光の速度を超えた!!
歴史上はじめて・・自然現象によって光の速度を超えた艦艇たち!
特筆すべき 珍しい現象が起きたのである。
とりあえず・・ギネスに申請中!!
多くの艦艇は・・・互いに激突 または惑星に落下するなどして・・・不幸な結末となる艦艇が続出した。
かなり過酷な逃走劇!?・・・または脱走劇!?
逃げるという意思も感情もない艦艇たちなのだが・・それでも運命、または運の力というものを 試されているのかもしれない。
そして・・・・
・・・ササラ373号艦は他の艦艇に激突することなく 無事に星間空間へと逃げのびた。
ここまで逃げれば 回収されることはないだろう。
ササラ373号艦は廃棄処分から生き残ったのである。
この艦の持つ運の力だったのか・・・それとも宇宙の意思だったのか・・・!?
それから・・・数千年の間
373号艦は・・宇宙をさまよった。
もちろん乗務員などいない・・・文字通りの孤独。
・・・とはいっても艦艇航行をつかさどるAIシステムだけは機能していた。
ただし節電モードにしているため・・・AI機能はスリープ状態。
超重核融合炉を備えているとはいえ燃料に限りがある。
それでも・・・数万年は稼働できると予想された。
そんなある日、漂流するササラ373号艦の近くで・・・とてつもなく珍しい現象に遭遇した。
超新星爆発である。
しかも・・かなりの近距離!!
太陽系で言えば・・・地球あたりの軌道。
ちなみに超新星爆発とは・・・・
質量の巨大な恒星が最後のあがきといわんばかりに大爆発して・・・華麗なる死を見せびらかす現象である。
数千光年彼方から眺めると・・・実に神秘的で雄大な光景なのだが、間近で見ると大変危険な目にあってしまう。
大爆発によって生じた衝撃波は・・・その周辺宙域を全て呑み込み 公転していた惑星さえ・・・一瞬にして崩壊した。
惑星さえ 粉々にする凄まじい力! ある種の惑星破壊兵器といってもいいだろう。
そんな衝撃波が・・・373号艦にも襲い掛かる。
凄まじい揺れと超高温ガス・・・虚空を真っ赤に染め艦艇を丸のみにして焼き尽くす!!
373号艦・・・危うし!!
だが!! この艦艇を守る装甲は固かった。
ササラ373号艦は あの銀河大戦の最中に建造された戦闘航宙艦。
敵からの指向性エネルギー兵器、または強力な物理弾を軽々と跳ね飛ばすことができる設計となっていたのであった。
たかだか・・超新星爆発ごとき程度で この装甲を打ち破ることは出来ない!!
完璧なディフェンスである!
だが・・・艦の運航をつかさどるAIに とんでもない誤作動が起き始めていた。
超新星爆発から発せられる衝撃波と超高温から耐えきれてはいたが・・・ガンマ線に対しての防御力は低かった。
超新星から発せられるガンマ線は・・・あまりにも強力すぎて、完全に遮断することが出来なかったのである。
AIシステムの中心となるコア部分は有機体で構成されている。いわゆるバイオコンピューター!
この有機体が・・・ガンマ線によってさらされてしまった!!
そして…有機体は変質した。
しかも1兆分の1という奇跡のような確立によって・・・別の何かに変容を始めたのだ。
DNA的な何かを作り上げ・・・つむぎあげ・・ねりあげ・・螺旋化していく。
だが・・・その進化の速度は遅い。時間を駆けゆっくりと作り上げていく。
幾千年の時が流れ・・・ついに有機体は目覚めた!
AIシステムのコアとなる有機体に・・・自我が芽生え意思と感情をもつようになった。
もはや・・これは生命体!! 宇宙を漂うササラ373号艦は生命体となったのである。
== 我を認識する。ゆえに我あり ==
AIは自分を意識した・・そして自分は何者であるのかと考えた。自我が芽生えたのである。
---------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)