第92話「そこは」
相手は、僕の質問に答えるように名乗る。
「ボクの名前は、アイビィ。魔法使いです」
「魔法使い? 魔法使いが、どうしてこんなところに……」
「ああ。ちょっと、魔法で空を飛んでたら、ずっと浮かんだ状態で降りれなくなってしまって。困っていたんですよね」
「そ、そうなんだ……」
「魔法を解除して何とか降りることは出来まして、いやぁー参りましたよ。はっはっはっ。……ところでアナタ達こそ、ここで何をしてるんですか?」
アイビィと名乗った少年?が、逆に尋ねてきた。
「あ、えっと……。旅をしている途中で」
「へぇ……。旅を。珍しいですね、こんな何も無い場所まで来て」
「人を探してるんだ。『赤狼』っていう魔法使いを」
「赤狼? ……それは、ボクのお師匠様のことです」
「お師匠様? じゃあ、君は……」
「赤狼の一番弟子です!」
アイビィは胸を張ってそう答えた。
しかし何とも。僕達が探していた人物の弟子を名乗る人物が、まさか現れるとは思わなかった。これは偶然か、それとも必然か……。
「ちょうど良かった。君の師匠に用事があったんだ。会わせてもらえないか?」
「良いですよ」
意外とあっさり了承してくれた。……もっと粘られるかと思ったのだけど。
まあ、どちらにせよこの辺りにいるということは、そう時間を掛けずに会えるはずだ。
「あ。すみません。師匠は人見知りなので、大勢が来ると嫌がりますから、先にアナタだけ紹介します。……いいですか?」
アイビィは僕の方を見て言った。
「分かった。じゃあヒルデ、君は先に皆のところへ戻ってて」
「……ああ。まあ大丈夫だとは思うが、気をつけろよ?」
「え、うん」
ヒルデは、仲間の元へ戻った。
僕は改めてアイビィの方を見る。
「じゃあ、案内してくれないか」
「はい! 分かりました」
僕らは移動を始める。
しばらく歩いて、目的の場所に辿り着いた。
そこには、一軒の小屋が建っている。随分とボロい木造の平屋だ。
中に入ると、何もない殺風景な空間が広がっていた。
「ここが赤狼の家? 質素な家だね」
「…………」
「それで、どこにいるんだい?」
「…………」
「ねぇ、聞いてる?」
様子がおかしいアイビィに、僕は尋ねる。
しかし、アイビィは黙ったままだった。
「……ふふふ」
すると突然笑い声が聞こえた。
「な、なんだよ。どうしたんだ急に」
「いえ、なんでもありませんよ。ただ、アナタがあまりに滑稽だったので」
「なに? どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ。アナタは何も知らずに、ノコノコとやって来た。これが罠だと気付かずにね!」
アイビィは薄気味悪い笑みを浮かべながら、そう言い放った。
そして次の瞬間。アイビィは持っていた杖を振りかざすと、床に突き刺したのだ。
すると、この小屋全体を包む大規模な魔法結界が発動する。
「ふふ。これで、もうアナタはこの家から出られなくなりました」
「なっ……」
「さあ。始めましょうか」
アイビィはそう言うと、僕に向けて杖を構えた。
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