第90話「マイペースに」
新たな仲間バロムと共に旅をする僕らは、目的地を目指して馬を走らせた。
途中、村を幾つか経由して、食料や物資を買い込み。それから村で手に入れた地図を見ながら、旅すること数時間後……。
「見えたぞ、ここが例の山岳地帯。『ルート山岳』だ」
「おぉ……」
思わず感嘆のため息が出る。
目の前に広がるのは広大な山々。そして、それを彩る緑と青。……とても綺麗だった。
「へぇ〜。いい場所じゃないか。……ところで、何故君たちはここへ来たんだい?」
「実は、この辺りに魔神討伐の手がかりがあると聞いて、やって来たんだ。……何か、問題があるかい?」
「いや、無いね」
バロムはあっさりと言った。
魔神である彼女が、魔神を倒すためにここへ来たと知っても特に気にしていないらしい。余程、負けない自信があるのか……。
「一応話しておこう。変なことを言うようだけど、僕自身は魔神討伐に関心は無いんだ。ただ、君達魔神を消したいと思う人は多いようでさ」
「そっか……。まあ、好きにして構わないよ。バロムは別に、君達が何をしようと危害を加えるつもりはないからね」
「分かった」
僕は、バロムに向かって素直に答える。……それにしても、バロムは魔神なのに随分とフランクだ。師匠は、魔神を危険視していたけど、案外話せば分かる存在なんじゃないか?
「さて、これから『赤狼』という魔法使いを探すんだけど……」
「待て、デント」
「どうしたヒルデ」
「そのナントカという魔法使いを探すのは、あくまで貴様の都合だ。少なくとも私は、面倒事に協力する気はない」
ヒルデは、僕の言葉に対してそう返した。
まあでも、ヒルデの言い分はもっともだ。そもそも僕だってやる気は無いし、長旅で他の皆も疲れていることだろう。
「よし。じゃあ、魔法使い探しは後回しにして、軽くこの辺を散歩しよう。幸いにも良い天気だし、景色もいい。きっと気分転換になるよ」
「ふむ。それもそうだな」
僕の提案を聞いたヒルデは、すぐに賛同する。
他のメンバーも同意してくれたので、僕らはハイキングをすることにした。
ちょうど良く、キャンプ地に適した場所を見つけたので、馬を繋げてテントを張っていると、ユミルが声を掛ける。
「少年。どこまで歩く?」
「そうだなぁ……。折角だし、山の頂上まで行ってみようか」
「今からか? かなり時間が掛かるぞ」
「大丈夫大丈夫。空を飛べばあっと言う間さ」
そう言って僕は、風魔法を発動させる。
「風魔法ウインドフライ」
僕の身体は空高く舞い上がった。それに驚くユミル。
「おおっ。凄いな……」
「ユミルも飛ばせるよ。おいで」
僕は手招きをして、彼女を呼び寄せた。すると彼女は、恐る恐るといった様子でこちらにやって来る。
そして僕は、彼女にも風魔法の力を貸し与えた。
「うわっ!」
ユミルが声を上げる。彼女の長い髪が風に靡いた。
僕は彼女を抱き抱えながら、ゆっくりと上昇していく。
「おぉ……。これは快適だな」
「うん。空を飛ぶのは気持ち良いだろ?」
「ああ」
「おい。何を遊んでいる」
そうやって二人で楽しんでいると、地上からヒルデの声が聞こえてきた。
ヒルデは、蝙蝠のような翼を生やして、空を飛んでいた。……ちょっと格好いいな。
「ヒルデ。皆で空の散歩をしないか? 一緒に風を楽しもう」
「好きにしろ。……それより、デント。後で顔を貸せ。話がしたい」
そう言ったヒルデの表情は真剣だった。
僕は、何の話だろうかと疑問に思いながらも、とりあえず了承しておいた。
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