第89話「一方その頃、勇者ランドと魔神達①」
勇者ランド・エルティネス。
人類の脅威である魔王を討伐し、世界に安寧をもたらした存在……。それが、この俺だ。
「いやはや、先日のパレードは盛り上がったにゃ〜。勇者、人気者!」
俺は隣にいる猫耳姿の女……魔神バズズがそう言ったのを聞き流す。
ここは、王城のとある一室。
第三者の邪魔が入らない立ち入り禁止の区画として用意したこの部屋は、現在バズズ達『魔神』との話し合いの場として利用している。
「当然だ。勇者である俺が活躍すれば、人々は盛大に喜ぶ。これが世間の流れというものだ」
「にゃはは。流石は勇者様。民衆の人気は絶大にゃ〜」
バズズが愉快そうに笑う。……まったく。こいつは、いつもこうやってヘラヘラと笑ってばかりいる。
しかし、これでもかつて魔界を混沌と破滅に導いた凶悪な魔神の一人なのだ。……油断ならない奴なのは違いない。
「それで、お前の方は何か進展があったのか?」
「にゃんのことかにゃ?」
「惚けるな。『デント』についての情報を集めているんだろ?」
「……まあ、ぼちぼちかにゃ。色々と調べている最中だにゃ。ただ、まあ奇妙な人間にゃ。デント・アルフォートは……」
バズズの声音から笑みが消える。
「どういうことだ?」
「どの情報を洗っても、デントくんの素性が全く出てこない。戸籍や出生の記録も無いし、出身地も不明。……まるで、誰かが意図的に情報を隠してるみたいに」
「……」
「あれだけの力を持つ彼が、今まで誰の目にも触れられなかったなんて考えられない。一体、何処から来た何者なのか……謎が多いにゃ」
そう言えばデントは、勇者パーティーにいた頃も、自分の出生を明かさなかった。
たまたま語らなかっただけか、或いは意図的に隠していたか……。
「まあ、でも、それはいいさ。今となっては些細な問題に過ぎない」
「ほう?」
「俺の目的は、デントの排除。その為にここ二週間、色々と根回しをしてきた」
俺はニヤリと笑いながら、対面に座る人物を見つめる。
目の前にいるのは、この王国の姫君セレスティナ……の皮をかぶった魔神アスタロト。彼奴は、セレスティナ姫に憑依し、その身体を自由に操っているのだ。
「キヒヒッ! ……計画は順調〜。私を本物のセレスティナ姫だと勘違いしている愚かな国王を惑わせて、デント・アルフォートを王国にとっての『敵』だと認識させた。国家反逆罪で王国中に指名手配書が貼られたし、既に騎士団も動き出している」
「ああ。これで彼奴の知名度は下がる一方だろう」
命を刈り取れないなら、社会的に殺す。
所詮は世間知らずの13歳のガキ。どんなに強い力を持っていても、世間から隔離された状態では身を守ることすらままなるまい。
「それにしても、まさか勇者ともあろう人が、こんな外道な手段を取るとは思わなかったよ。キヒヒッ!」
「外道だろうが何だろうが、効果があるなら使うのが俺のやり方だ。……勿論、世間の視界に入らない場所でな」
「流石は勇者様。素晴らしい考えだねぇ〜。惚れちゃうにゃ〜」
「ふんっ」
俺を煽るような物言いのバズズに対し、鼻で笑って返す。
すると、部屋の一角から黒いモヤが生じると、中から白髪の少女が姿を現した。
エルドリッヒ。幼い容姿だが、彼女も魔神の一人だ。
「おかえり。どうだった?」
「…………」
エルドリッヒは無言で首を横に振る。
「そっか。じゃあ、やっぱり無理かな」
「何の話だ?」
「エルドリッヒに、デントくんの弱点を探ってもらっていたんだにゃ。でも、見つからなかったみたいにゃ」
「……成程」
俺がバズズの言葉を聞いて納得すると同時に、バズズは更に言葉を続ける。
「でも、収穫はあったみたい。7人いる魔神の1人、バロムと接触できたそうにゃ」
「……何だと?」
「これで発見出来た魔神は、4人……。残りの3人は、未だに所在が掴めないけど……」
バズズの言葉に俺は目を細める。
4人の魔神の内、3人を味方に引き入れている。これは大きい。
バロムという魔神がこちら側に付いてくれるかは分からないが、味方に引き入れることが出来れば、更なる戦力アップに繋がる筈だ。
「エルドリッヒ。バロムは何処にいる? 直ぐに会いたい」
「…………」
エルドリッヒは、無言のまま明後日の方向を向く。
「おい」
「あーダメダメ。エルドリッヒと通じ合うには根気が大事。焦ってるといつまで経ってもそっぽを向かれるだけにゃ」
「しかし、どうしたら……」
「にゃはは。仕方ないにゃあ……」
バズズが不敵に笑う。
そして、エルドリッヒの側へ歩み寄ると、何やらヒソヒソと耳打ちを始めた。
一体何を話しているのか……。気になったが、俺は敢えて聞かないことにした。
やがて、数分後……。バズズは戻ってきた。
「……」
「お。どうだった?」
「なんか、バロムの奴。デントくんのことが好きになったみたいにゃ」
「はぁ!?」
思いがけない報告に、俺は思わず声を上げた。
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