第8話「最強魔法」
「要するに、全力を出せばいいんだね。了解したよ」
僕は、魔法の準備に取り掛かる。
僕が扱える最強の魔法。それは、五つの属性魔法を掛け合わせた『融合魔法』である。
やることは、簡単。ただ、異なる魔法を同時に発動するだけ。
それだけで魔法の威力は、格段に上がるんだ。融合魔法は、ここぞという時の切り札として大いに役立つ。
……なのに、何故か他の魔法使い達は融合魔法を使わないんだよなぁ。何でだろう?
「炎&風&水&雷&土」
次々に魔法を発動する。
周囲には、それぞれの属性が込められた魔力の塊が揺蕩っている。
そして僕は、五つの魔法を一点に合わせた。
完成だ。これが融合魔法。
一撃必殺。一騎当千。それこそあの魔王すらも傷を付ける最強魔法。
「行くぞ!! 五重融合魔法エレメントセイカーッッ!!」
爆音が鳴り響く。
人間界を繋ぐゲートがあった場所に融合魔法を叩きつけた。その衝撃で、森林の木々はもちろん、遥か上空に漂う雲までもが消し飛んだ。
そして、変化は起きた。
着弾した場所に、空間の亀裂が走ったのだ。空間は、どんどん大きく割れていき、やがて人が通れるくらいの大穴を開けた。
「いいぞ。ゲートが開いた。これで、人間界へ行けるはずだ」
「大成功って訳か! やったね!」
「さて、強引に道を開けたので、このゲートは長くは保たんだろうなあ」
「じゃあ、サッサと行こうか」
僕とヒルデは、ゲートを潜り抜ける。
ゲートの先。異空間の道は、不可思議なところだ。壁と床の境目がないのはもちろん、距離感も掴みづらい。
しかし、言ってしまえばそれだけだ。ゲートは、魔界への行きでも潜ったし、足元さえ注意すれば問題なく移動が出来る。
「ほう。異空間を移動するのに慣れているようだな」
「んっ、どういう意味?」
「本来ここは、生物が存在できない場所。下等な人間は、この異空間に立ち入っただけで精神を乱し、或いは発狂することもある。それをこれだけ冷静な顔でいられるのは、ひとえに貴様が特別だからか?」
「そんな大袈裟な。ただ、変わった道を歩くだけだよ?」
全くヒルデは、おかしな話をするものだ。子供のハイキングじゃあるまいし、ちょっと慣れれば誰だって歩けるよ、こんな道。
と、思い返してみれば。勇者パーティーの仲間達は、ゲートを潜る時、少し辛そうな表情をしていたような気がするな。
ああでも、ランドは「ただの寝不足だ」って、言ってたし。それとは関係ないかな。
幾らなんでも、世界を救う勇者がただ道を歩いただけでギブアップするはずがない。
そして、そうこう話しているうちに出口が見えてきた。意外と近かったな。
僕らが異空間を出ると、出口のゲートはすぐに閉じてしまった。
ヒルデの言った通り、本当に長くは保たなかったらしい。
「わーい久しぶり……という程ではないけど、戻ってこれたよ。人間界」
「ちっ、忌々しい太陽め。いつか完膚なきまでに破壊してやるからな」
ヒルデは、空に視線を送りながら、そんな物騒な悪態をついた。
「で、太陽があるということは人間界へ無事に来れたはずなのだが……。ここは、どこなんだ?」
「あれー、おかしいな? ここ、僕が入ってきた場所と違うぞ。こんな鬱蒼とした森の中じゃなかったもん」
「ふむ。無茶な方法でゲートを開いたせいで、出口が少しズレたのかしれんなあ」
辺りを見渡すと、そこにあるのは草草草。あと、樹。
人間の影も形も無し。獣くらいしか棲んでないであろう秘境に僕らはやってきていた。
「ランド達は、王様に報告しに城へ向かったはず。まずは、そっちに向かわないと」
「まあ、私は別にどっちでもいいんだがな」
ならば、やはり目指すのは人間界の王都。
そこにランドは、居るはずだ。
「止まりなさい!!」
と、その時だった。
何処からか、僕達のものではない声が聞こえてきたのだ。
その方を見てみると、そこには金色の長髪で尖った耳をした美女が立っていた。……あと、おっぱいが大きかった。
『エルフ』である。
森の守護者。精霊の使い。
そんな風に呼ばれている神秘の生き物が、僕達の前に現れたのだ。
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