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第85話「何も問題ない」

 ……状況を整理しよう。

 今、目の前にいる少年は、確かに僕の事を好きだと言った。

 しかも、告白までされたのだ。……いきなりの展開に頭がついていかない。


「……ダメかい?」


 バロムは悲しそうに俯く。

 僕は慌てて首を振った。


「あの、ごめん。何というか……ちょっと、状況がよく分からないんだけど」

「そうだね。バロムとしたことが順序を間違えてしまった」


 バロムは立ち上がると、服についた草を払い落とす。

 そして、僕の方へと歩み寄ってきた。


「バロムと君は、今日出会ったばかりだ。お互いに知らない事も多いし、もう少し時間をかけるべきだったね」

「そ、そういうことじゃなくて……」

「バロムは、君と出会えてとても幸運だと思う。……君のことをもっと知りたいんだ」

「ちょ、ちょっと待って! 近い!」


 僕は慌ててバロムを押し退けると、少し距離を取る。

 彼は不思議そうな顔で首を傾げた。


「どうしたの?」

「ど、どうしたのじゃないでしょ……。いきなり、何を言ってるんだよ」

「何を? ……ああ、なるほど。つまり、こういうことだね」


 バロムはポンと手を叩くと、おもむろにマントを脱ぎ捨てた。

 それから、腰のベルトを外すとズボンに手をかけ……。


「ストーップ!! それ以上は止めてくれ!!」


 僕は大声で叫ぶと、慌てて彼の元へと向かう。

 そして、脱ごうとしていたズボンを無理やり履かせてあげた。


「……ふぅ」


 僕は安堵の息を吐きながら、額の汗を拭う。

 危ないところだった。まさか、いきなり服を脱ぐとは思わなかったぞ。一体何を考えているのやら……。


「どうかした?」


 バロムがキョトンとした様子で尋ねてくる。


「どうかしたはこっちの台詞だよ……。一体、どういうつもりなんだ?」

「どうもこうも、まずは体の関係から築いていこうと思って」

「か、体の関係? ……よく分からないけど、そこはかとなく間違っている気がする」

「そうかい? 人間の男女は、お互いの気持ちが通じ合ったらすぐに体を繋げるものだと思っていたけれど」

「つ、つなげる?」


 ……イマイチ、理解が追いつかない。

 いや、でも、まあ……とりあえず、僕が言いたいことは一つだけだ。


「バロム。君と恋人になる気はないよ」

「どうしてだい? バロムはこんなにも君を愛していると言うのに……」


 バロムは悲しそうな表情を浮かべる。……まるで、捨てられた子犬のような目だ。

 そんな目をされると、罪悪感が湧いてきてしまう。

 だが、ここで甘やかすわけにはいかない。はっきりさせておこう。


「あのね、バロム。僕は女の人が好きなんだ。だから男の子である君と付き合うことはできないよ」

「……ん? バロムは、女だけど」


 ………………あれ?


「よし。ならば何も問題ないな」

「えっ、いや、あえっ?」


 脳みその処理が追いつかず混乱していると、バロムが僕の手を取ってきた。

 そして、そのまま抱き締められる。


「バ、バロム!?」

「大丈夫。何も心配はいらないよ。これからは、ずっと一緒に居よう」


 バロムは優しく微笑む。

 その笑顔は、とても可愛らしくて魅力的だった。

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