第82話「そして新たな仲間」
「……よし。貴様ら、準備は出来たか?」
「うん」
「大丈夫です」
「…………ん」
「では、出発だ!」
ヒルデとリディアも合流し、僕達は広場を出ると、町外れへと向かって歩き出した。
この港町ラクルスともお別れか……。良い町だったから、いざ離れるとなると少し寂しい気持ちになるな。
僕は後ろ髪を引かれるような思いで、振り返って町の景色を目に焼き付けるように眺めていた。
「ここでも色んなことがあったね……。最後に、仲良くなった人達にお別れの挨拶が出来なかったのが心残りだけど……」
「まあ、いずれまた会う機会もあるだろう。それよりも、今は早く旅立つぞ」
「そうだね。それじゃあ……あれ?」
その時、向こうの方からこちらに向かって走ってくる人影に気付いた。
僕はその人物を見て、思わず目を見開く。
「あれって、ユミルさん?」
そう。それは、『黒鞭使い』の異名で名高い冒険者ユミル・パーネスさん。前にギルドのクエストで一緒になった事があり、その後も何度か会合をした仲だ。
そんな彼女だが、何故か必死の形相を浮かべながら、僕達の方へ向かって走って来ている。
一体どうしたというのだろうか?
「ど、どうしたんですか!?」
僕は慌てて彼女に駆け寄ると、肩で息をする彼女を気遣いながら尋ねる。
「ぜぇ、はぁ……。た、大変だよ少年! さっきギルドで手配書を見て……」
「ああ。実は僕、国家反逆罪で指名手配されたみたいなんですよ。だから、この町から出ようと思って」
「そ、そうなのかい? いや、細かい事情はどうでもいい! 少年が窮地に立たされているなら、私が力になろうじゃないか!」
「え?」
「……少年。どうか私を連れて行ってくれないか? 君のために、私は何でもしよう」
僕の手を握り締めてそう宣言するユミルさんの瞳には、強い決意の炎が灯っていた。
これだけ熱い眼差しで見つめられると、断るのは難しいな……。
「わ、分かりました……」
「おい。また勝手に仲間を増やすつもりか? 貴様はもう少し慎重に行動しろ」
ヒルデはそう言うと、不満げに眉根を寄せて腕を組んだ。
「でもさ、ヒルデ。こんなに真剣に頼んでくれるんだし、協力してもらうべきじゃない?」
「……ふん。面倒事にはするなよ」
「という訳で、これからよろしくお願いしますね、ユミルさん」
「ありがとう、少年達」
ユミルさんは嬉しそうに微笑むと、深々と頭を下げた。
それからすぐに顔を上げると、ふと思い出したかのように口を開く。
「ところで、君達はこれから何処へ向かおうとしているんだ?」
「北方の山岳地帯に行こうかなって思ってますけど」
「北方か……。そういえば、私の実家があるのもその辺りだったな。ならば、案内役を務める事も出来るだろう」
「本当ですか!?」
「ああ。是非任せてくれ」
ユミルさんの言葉に、僕は目を輝かせる。
これで目的地に向かうまでの道程がかなり楽になりそうだ。
僕達は彼女の提案に甘える事にした。
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