第81話「旅立ちの日」
「……よし、終わりっと」
10秒後。
辺り一面に倒れ伏す騎士達の中心に立ちながら、僕は静かに息をつく。
そして、ゆっくりと周囲を見回してみた。
……よし。全員死んではいない。気絶していて、今は目を覚ます気配がないけど。
「ふう……。お待たせ、片付いたよ」
「まったく、忌々しい太陽が顔を出したかと思えばこの騒動だ。デント、こいつらは何だ?」
ヒルデが、倒れた騎士達を指差しながら尋ねてきた。
「どうやら、僕を国家反逆罪で逮捕しにきたそうなんだ」
「はあ? 一体どういう事だ?」
「それが分からないから困ってるんだよ」
僕が首を傾げていると、宿屋の店主が慌てた様子で駆け寄ってきた。
そして、僕の前にやって来て紙切れを見せる。
「こ、これを見てください! デント・アルフォートの指名手配書です!」
「え?」
僕はその紙を手に取って確認する。
そこには確かに僕の似顔絵と名前が書かれていた。
罪状は、国家反逆罪の容疑……。
「これはまさか……勇者達の陰謀なのか?」
「……よく分かりませんが、とにかく宿の中に避難しましょう」
「そうだね。ここにいても何も解決しないし、一旦宿の中へ戻ろう」
僕達は宿に戻ると、食堂のテーブルに座って話し始める。
「さて、これからどうしようか? ヒルデ」
「手配書まで出回っているとなれば、もうこの町に居続ける訳にもいかないだろうな。王国騎士兵だけではなく、賞金目当ての輩にも絡まれる恐れがある」
「やっぱり、ここから離れた方がいいってことか……。そうそう。実は今朝、師匠が夢に出てきてさ。なんか、北方の山岳地帯に行けってお告げがあったんだ」
「お告げ? ……北方か。ならば、旅支度を済ませて北に出向くか」
「おっけー。じゃあ荷物を取りに行ってくるよ」
僕は食堂を離れると、自分の部屋に向かった。
そして、鞄に必要な物を詰め込んでいく。といっても、あんまり持ち運ぶものはない。お金とか貴重品は、収納魔法の秘密空間に入れてあるからだ。
必要な物を全て入れ終わると、僕は宿を出て、広場へと向かう。
そこでは、エルドリッヒがやや眠そうに目を擦りながら立っていた。
「早いね、エルドリッヒ。おはよう」
「…………おはよう」
僕が声をかけると、彼女は無表情のまま小さく会釈する。
エルドリッヒ。この謎多き少女とは、何やかんや行動を共にするようになっていた。
彼女は寡黙で、あまり自分から話をする事は無い。偶に理由も話さず何処かへ行ったり、何を考えているのかもイマイチ分からないけど、不思議と一緒にいると落ち着く存在だった。
「今日はいい天気だね。絶好の旅日和だ」
「…………ん」
僕が話しかけると、エルドリッヒはこくりと首肯した。
出会ったばかりの頃は無言を貫くばかりで殆どノーリアクションだった彼女が、今はこうして返事をしてくれる。……うん。これは、良い傾向だよね。
僕はそんな彼女の変化に微笑みながら、二人が来るのを待った。
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