第7話「トゥルー・ヴァンパイア」
魔界の王都でローブを手に入れた。
これでヒルデは太陽の光で焼かれることなく、人間界で行動出来るようになる。
そして、サッサと王都を離れた僕達は、空を飛んでショートカットをしながら人間界と魔界を繋ぐゲートがある場所を目指していた。
「ところで、デントよ。貴様は、どうして魔王を倒そうと思った。名声を得るためか? それとも、魔族に大切な人を殺されたからか?」
「そりゃ、何となくだよ」
「世の中舐めとるのか?」
「僕、小さい頃から師匠に剣術を教わっててさ。そのおかげで剣に関しては負け知らずだったんだよ」
「ほう」
「で、ある日師匠から『お前は免許皆伝だ』って言われて独り立ちすることになったの。でも、田舎じゃあ剣を活かせる仕事になかなか就けなくて。だから、思い切って上京したんだよ。そこで勇者ランドと出会って、何やかんやで魔王を倒すパーティーに参加したって訳」
「はぁー、何というか。適当な奴だなあ、貴様。しかしそれでも、先程の戦いぶりといい、貴様が魔王と戦えるだけの技量は持ち合わせているということは、確かに感じたぞ?」
「認めてくれて嬉しいよ」
僕は、朗らかに笑った。
よし。こちらが質問に答えたので、今度は僕からヒルデに質問を投げかけてみよう。
「ヒルデって何者なの?」
「谷底でも言ったと思うが、私は吸血鬼。それもただの吸血鬼ではないぞ? 数千年の時を生きる吸血鬼の真祖『トゥルー・ヴァンパイア』の子孫なのだ」
「それって、凄いの?」
「吸血鬼には、二種類ある。数百年単位で超自然的に生まれる『トゥルー』。そのトゥルーが人間を吸血することで生み出されるのが『ノーマル』。ノーマルは、吸血したトゥルーを主人とし、絶対服従する。つまり、最初から主従関係にある訳だ」
「主従関係、ねえ。血を吸っただけで従者を作れるなんてお手軽だな。じゃあトゥルーは、ノーマルを沢山引き連れているのかな? ヒルデも昔はそうだったの?」
「私の軍は、凄かったぞ! 何せ、数千体の吸血鬼が配下にいたからな。当時の戦況バランスを考えれば、間違いなく魔界トップの勢力だった」
「数千体!? はぁ〜、ひとりでそんなに沢山の人間を吸血したのか〜」
「戯け。最初に数体だけ従者にすれば事足りる。その従者がまた数体ずつ吸血していけば、後はねずみ算式に増えていく」
なるほど。ねずみ算式か。
そう聞くと、トゥルーというのは恐ろしい吸血鬼だな。放っておいても、何でも言うことを聞いてくれる配下が増えるんだから。
おまけに、ヒルデみたいに強いなら、本当に魔界を支配していても不思議じゃない。
「今の……いや、勇者が殺した魔王は吸血鬼ではなかったのか?」
「うーん、どうだったかな? なんか牛みたいな角を生やしてたよ。あ、羊の角だったかも」
少なくとも、吸血鬼には見えなかったな。
「以前は、魔界最強と言えば吸血鬼。そう呼ばれる程、吸血鬼の力は絶対視されていた。事実、私を魔王候補の座から引き摺り下ろして成り上がった奴も、吸血鬼だったしなあ」
「ああ、そう言えば言ってたね。『魔王になるはずだった』って」
「まあ、話せば長くなる」
「じゃあ、今度聞こう。もうすぐ、人間界へ行けるゲートの場所に辿り着けるしさ」
僕は、地上を指差す。
魔界のとある森林。そこの隠しスポットにホワイトがゲートを作ってくれた。
「あそこを潜り抜ければ人間界へ行けるはずだ。……あれ?」
「どうした、デント」
「ゲートが無い」
改めて確認してみる。
しかし、やはり無い。
設置されていたはずの人間界を繋ぐゲートが、どこにも見当たらなかった。
「確かにここなのか?」
「うん。万が一の時、いつでも戻ってこれるよう場所はしっかり覚えさせられたから」
「ふむ」
ヒルデは、ゲートがあった場所をじっと見つめる。
「……そうだな。僅かながら魔力の残滓が漂っているようだ。ここに、何らかの魔法は使われていたのは間違いない」
「そんなのがわかるの?」
「吸血鬼には、幾つもの特殊な能力が備わっている。そのひとつ、『魔眼』は通常では見えないものを認識する効果があるのだ」
「すげー」
「貴様の言う通り、ここにはゲートがあった。しかし今は無い。となれば、魔力切れでゲートを維持出来なくなったか。或いは、何者かが意図的にゲートを破壊したかだな」
「いずれにしても、ゲートは使えず、人間界へ戻れないってことでしょう? はぁ〜困ったなぁ〜」
「諦めるのは、まだ早いぞ」
「んっ?」
「確かにゲートは閉じてしまった。だが、まだ完全に人間界を繋ぐ道が消えた訳ではない。ゲートの入り口を力尽く破壊すれば、そこから先へ進めるかもしれん」
「力尽くって、具体的にどうするの?」
「簡単だ。貴様が使える最強の魔法をここに叩き込め。そうすれば、道は開けるだろう」
本当かなぁ?
そもそも異空間を繋ぐ道って、そんな適当な感じで開くものなの?
まあ、他に方法は思いつかないし、やるだけやってみようかな。
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