第77話「これからの冒険」
……勝った。今度こそ、本当に終わったんだ。
僕は、ランドの元に歩み寄った。……意識は無い。しかし、まだ生きているようだ。
「さて、これからどうしようかなぁ……」
勇者ランドが、かつての仲間を亡き者にしようとした……。
これは大きなスキャンダルになるだろう。……そうなると、ランドはまず間違いなく、勇者として相応しくないと判断される筈だ。
しかし、僕は知っている。ランドはこれまで、勇者として様々な戦いに参加して、功績を上げてきたことを。だから、魔王討伐という偉業も成し遂げられた訳で……それを思えば、とても告発する気にはなれない。
そんな風に考えていると、後ろから誰かがこちらへ近づいてきた。
ヒルデとリディアとエルドリッヒだ。
「みんな、どうしてここに?」
「冷やかしに来ただけだ。現代の勇者が如何程のものか、この目で確かめてみようと思ってな」
「それに、デントさんのことが心配でしたから」
「…………うん」
「そっか……」
僕は、苦笑いを浮かべて言った。
「見ての通りだよ。何も心配することなんてなかったよ?」
「ああ……。それにしても、まさか魔神と融合するとはな……。ふん、腐っても勇者という訳か」
ヒルデは、倒れ伏すランドを睨むようにして言う。
その口ぶりから察するに、どうやらずっと前から僕らの様子を観察していたみたいだ。
「まあ、そうかもね」
「……それで、これからどうするのですか? ……そこに居られる勇者様を、このままにしておくつもりはないですよね?」
「うーん。……正直、僕がランドに対して、これ以上何かしようって気はないんだよね」
「えっ!? で、でも、勇者様は、デントさんを殺そうと……」
「そうなんだけど……。なんと言うか、もういいやって感じなんだ。理由はよく分からないけど、ランドには嫌われちゃったみたいだし、だったらもうお互いに関わらない方がいいのかなって。……だから、これからは新しい人生を歩もうと思う」
元々、勇者パーティーの加入というのは、僕にとって選択肢の一つに過ぎなかった。
僕は、冒険者。……この世界をもっと知るためにも、新天地で新しい発見をしたい。
それに、今は新しい仲間たちがいる。皆となら、勇者パーティーとは違った形で、楽しい冒険が出来るだろう。
……僕は、新たな決意を胸に秘めながら、皆に言った。
「僕は、みんなと一緒に旅がしたいよ」
「……ふん。当たり前だ。まだ世界観光は、始まったばかりだぞ? 家来として、貴様にはまだまだ働いてもらうぞ。デント」
「その、家来云々に関しても、改めてちゃんと話がしたいよね……。大体、給料は出るのかい?」
「出世払いだ!」
ヒルデは、胸を張って言い切った。
「いや、それ意味分かんないし……」
「……腹が空いた。早く血が吸いたい」
「そういえばもうお昼か。……じゃあ、ご飯食べに行く?」
「行きましょう。私もお腹ぺこぺこです」
リディアが微笑んで言う。
よし。今日は高級レストランで食事と行こうじゃないか。あ、お金があんまり無いんだった。
仕方ない、クエストを受注して稼ぐしかないな。
……そして僕は、勇者ランドに最後の挨拶をしようと後ろを振り返った。
「あれ?」
しかし、そこに倒れていたはずのランドの姿が無くなっていたのだ。
「あ! 勇者様が……」
「……逃げたか?」
「いや、意識は完全に奪った。……一人では、動けないはずだよ」
「お二人共!! エルドリッヒちゃんの姿もありません!!」
「な、なんだって!?」
僕は慌てて周囲を見回す。
だが、どこにもエルドリッヒの姿は無かった。
僕たちは、必死になって探した。しかし結局、その後エルドリッヒを見つけることは出来なかったのだ。
(……あの子まで居なくなるなんてこと。一体何処へ行ったんだ?)
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