第76話「勇者ランド・エルティネス戦 後編」
バズズとランドが融合した事で、二つの膨大な魔力が混ざり合っているようだ。
僕は魔力を高めて、臨戦態勢に入る。
すると、ランドがニヤリと笑う。
「……素晴らしいな、これは。体の奥底から力が溢れてくるぜ」
「へえ……。どんな感じだい?」
「そうだな。……試しにやってみるか」
直後、僕の目の前に一瞬で移動したランドが、拳を振り下ろす。
僕はそれを魔剣で受け止める。
……重い。さっきとは比べ物にならないパワーだ。
「おらっ!!」
僕が押し返そうとすると、ランドは強引に腕を押し込んでくる。
「炎魔法インフェルノレーザー!」
僕は、ランドの顔面に魔法を放つ。
しかし、ランドは避けずに、そのまま受けた。
直後、爆発が起きる。周囲に激しい爆風が吹き荒れた。
……ところが、ランドにダメージは無い。
「効かねえよ」
ランドはそう言って、再び攻撃してくる。
今度は、回し蹴りだ。僕はそれを避けず、ガードした。
衝撃が殺し切れず、地面にラインを引きながら後方に押し込まれる。
なんとか踏み止まるも、かなりの威力だ。優れた冒険者や騎士でも、今の一撃を受けたらひとたまりもなかっただろう。
「……すごいね」
「どうした? ……もう終わりか?」
ランドが余裕たっぷりに言う。
実際、それが虚勢ではない事は、攻撃を受けた僕が一番よく分かっている。
魔神バズズとの融合によって強化されたランドは、今や一騎当千の存在となっていた。
……この世界最強と謳われた勇者と、かつて魔界を混乱に陥れた魔神。
二人が合わさった時点で、それは最早人智を超えた存在なのだ。
『にゃはははっ!! 勇者とボクの力は、こんなものじゃないよ!!』
バズズの言葉通り、二人は更に力を増していく。……まだまだ、これでは終わらないって訳か。
こうなったら、やるしかなさそうだ。
僕は、全身に魔力を巡らせる。
「今から本気を出すけど、いいよね?」
「……お前は俺に殺されるんだよ。どう足掻こうとな」
「そっか……。じゃあ、行くよ」
僕は、ランドに向かって駆け出す。
「……無駄だっての」
ランドは呟くと、聖剣を横薙ぎに振る。
その瞬間、斬撃波が発生して、僕の方に飛んできた。
「おっと」
僕はジャンプして、避ける。すると、さっきまで立っていた場所に斬撃波が突き刺さって、地面を砕いた。
「やるじゃないか」
僕はそう言いつつ、空中で体勢を整える。……五属性の魔法を混ぜ合わせ、最強の魔法を発動させる。
「五重融合魔法エレメントセイカーッッ!!」
刹那、僕の手から放たれたのは、巨大な光の奔流だった。
それは、ランドを飲み込むように襲いかかる。光に触れただけで、あらゆるものを消滅させてしまう、究極の破壊魔法だ。
……すると、ランドの全身が一瞬光り輝いたかと思った時、その姿が掻き消えた。
「!?」
そして、次の瞬間には、僕の背後からランドが斬りかかって来ていた。
……速い! 速すぎる!!
僕は、ランドの聖剣を、咄嵯に振り上げた魔剣で受ける。
凄まじい衝撃が走り、僕の身体が吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
……危なかった。反応が遅れていたら、流石に痛かったかもしれない。
それにしても今の動き……。僕の雷魔法ライトニングステップよりも速かった。
まるで、ランドが光そのものになったかのようなスピードだ。……バズズと融合した事で得た能力だろうか?
僕は、地面に着地すると同時に振り返り、ランドの追撃に備える。
すると、ランドはニヤリと笑って言った。
「今のは効いたらしいな」
「おかげさまでね」
「次でトドメだ。俺の聖剣で、お前の首を斬り飛ばす。……覚悟しろ」
ランドは、姿勢を正して、剣を構える。そして、彼の魔力が更に高まっていき、聖剣が、黒く輝き出した。
……どうやら、本気みたいだ。ランドは、確実に僕を殺そうとしている。
僕は魔剣を構えたまま、神経を集中させて、ランドの攻撃に備えた。
(…………)
静寂が訪れる……。この空間にある全てが、無と化すような感覚……。
やがて、ゆっくりと、ランドが動き出す。
(……来るっ)
僕は身構える……。しかしその瞬間、ランドの姿が光となり消えた。
先程と同じ技だ。音速より、雷速より、圧倒的な速度で僕との距離を詰める。
(やっぱり見えない……。でもッ!!)
僕は既に、未来予知を発動していた。
ランドが攻撃する角度とタイミングを予測し、それに合わせて魔剣を振る。
「ァ……!!」
ランドの掠れた声が聞こえる。
直後、聖剣を振り上げたままの状態で、ランドが姿を現した。
ランドの胸部からは、鮮血が流れ出している。……僕の攻撃が命中したのだ。
「……ごめん。手加減出来なかった」
「で、ん……と……」
ドサっと音を立てて、ランドが倒れる。
同時に、彼の姿が元の人間の姿に戻った。……魔神バズズが、ランドの中から居なくなったのだ。
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