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第74話「勇者ランド・エルティネス戦 前編」

 怒り、憎しみ、妬み、悲しみ。

 様々な負の感情が混ざり合った、どす黒い濁流のようだ。

 その感情は、力となって僕を襲う。聖剣を握る手に力がこもる。

 僕たちは、至近距離で見つめ合う。

 ランドが歯を食いしばりながら言った。


「俺には、才能があった」

「え?」

「それだけじゃない。貴族の家に生まれ、地位も金もあった。俺は選ばれた人間だったんだ。そう信じていた」

「……」

「なのに、お前が現れた。お前のせいで、全部が狂っちまった!」


 瞬間、眩い魔力の光がランドから発せられた。

 僕は、聖剣を放し、距離を取る。

 ……光魔法。王国内でもごく限られ者にしか使えないとされる魔法だ。


「この力は、俺の象徴だ! 勇者の力だ! それを今、ここで証明してやる! お前を殺してな! さあ、かかってこいよ、デント!!」

「……仕方ないな」


 僕は、収納魔法を発動する。

 腹から魔剣イザナギを取り出し、ランドに剣先を向けた。


「大丈夫、殺しはしないさ。ちょっと痛い目にあってもらうだけだよ」

「やってみろよ」

「ああ」


 僕は、ランドに向かって駆け出す。

 僕の魔剣と、ランドの聖剣がぶつかり合い火花が散った。立て続けに、二合、三合打ち合って、互いに飛び退く。

 ランドは、舌打ちをした。


「……くそ。やっぱり強いな、お前は」

「そりゃあどうも」


 ランドは、光魔法の効力で身体能力を向上させているようだ。それにより、彼の動きは素早かった。

 だが、それでも僕の方が上だ。

 僕は、ランドの攻撃を弾き返し、返す刃で斬りかかる。

 ランドはそれをなんとか防いだ。


「ぐ、ぅ」

「ほら、頑張ってよ。君の強さはこんなものじゃないだろう?」

「……調子に乗るんじゃねえ!!」


 ランドは、僕を押し返した後、素早く後退する。そして、聖剣を振りかざした。


「イザナギ!!」

「っ!?」


 ランドの呼びかけに応じ、聖剣がまばゆい光を放つ。

 次の瞬間、強烈な斬撃波が、僕の体を吹き飛ばした。

 僕は地面に転がる。土煙が立ち込めた。


「けほっけほっ」


 咳き込みながら起き上がると、ランドがこちらに歩いてくるのが見えた。


「はあっ、はあっ、……どうだ? 少しは、効いただろう?」

「……うん、そうだね。ビックリした」


 正直に答える。……聖剣は、本当にすごい武器だと思う。

 特に、光の魔力を込めた飛ぶ斬撃は、勇者が使うからこそ、その威力を発揮すると言っても過言ではない。

 僕は、服に付いた汚れを払い落とす。


「ランド。君は強いね」

「なんだ、嫌味か?」

「いやいや、本音で言ってるんだよ。……でも、もう終わりにしよう」


 僕は、魔法を発動する。

 それにより、身体能力を強化。ランドに肉薄した。


「はやッ!?」


 ランドが驚愕の声を上げる。

 僕は、ランドに拳を叩き込んだ。ランドは吹き飛んでいく。


「がはっ!!」


 ランドは壁に激突した。だが、それだけでは終わらない。

 僕は、ランドに追撃する。ランドは聖剣で防御するが、衝撃を殺しきれず、壁に押しつけられた。


「うおぉおお!!」


 ランドは雄叫びを上げ、聖剣を強引に振り切る。僕は、それに合わせて後退した。

 ランドは大きく息を吐いて、呼吸を整える。


「はあ、はあ……。なんてパワーだよ」

「……炎魔法ワンバースト」


 指先から炎の魔力弾を放つ。

 ランドは聖剣イザナギを振るって、それをかき消した。


「舐めるな! この程度……」

「炎魔法インフェルノレーザー」


 目から灼熱の光線を放射した。摂氏数万℃の高温の一撃がランドを襲う。

 ランドは、聖剣イザナギを盾にして耐えようとしたが、直後の爆発によって彼は後方に吹き飛ばされた。

 ランドが地面に転がる。


「風魔法テンペスト」


 暴風がランドを襲う。

 ランドは聖剣を地に突き立てて踏ん張るが、風に煽られて宙を舞った。

 ……さあ、トドメだ。


「炎&風」

「ヤバ……」

「融合魔法ブラストバーン」


 炎と風が混ざり合い、巨大な渦となってランドを飲み込む。

 手も足も出ないランドは、防御も回避も出来ない。……そして、次の瞬間。

 ドォオオオオオン!! と、凄まじい爆音が鳴り響いた。

 廃墟一帯を消し飛ばす、融合魔法の直撃を受けたランドは、そのまま力無く、地面に叩き落ちた。

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