表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/93

第73話「勇者との再会」

 町外れの廃墟。

 そこは、かつて冒険者たちが拠点として使っていた場所だ。

 今ではすっかり寂れている。……そして、そんな場所に勇者ランドはいた。

 腰には、選ばれし光魔法の使い手のみが使える聖剣イザナギ。立派な防具とマントを身を包み、こちらに向かって歩いてくるランド。

 ……その顔は真剣そのもの。

 彼は、僕を睨みつけるように見つめながら、口を開いた。


「久しぶり、だな。デント」

「ああ。そうだね」


 と言っても、別れてからそんなに月日は経っていない。……なのに、随分と久しぶりに会ったような気がする。

 僕が笑顔を浮かべると、ランドは苦々しい表情をした。


「……まさか、本当に来るとは思わなかったぜ」

「えっ、なんで? 仲間が呼んでるんだから、来るのは当たり前でしょう?」

「仲間……。お前は、自分がまだ俺の仲間だと思っているのか?」


 僕は思わず眉をひそめた。

 ランドが話を続ける。


「……なあ、デント。お前が居たおかげで、勇者の旅は順調に進んだよ。魔王は倒され、人類に平和がやってくる。多くの人々が、お前に感謝するだろうなぁ」

「…………」

「……でもな。俺は、不愉快だ。正直言って、お前が嫌いだ」


 ランドは、吐き捨てるように言った。

 僕は、彼の言葉を聞く。……ランドの言葉を一言一句聞き逃さないよう集中していた。


「昔からずっと、大っ嫌いだった。田舎育ちの平民野郎、世間知らずのガキの分際で、俺を見下してやがった。……今ならハッキリと言える。俺は、お前が憎い!」

「……どうしてだい?」

「……ッ! 決まってんだろ! 俺は選ばれた人間なんだ! この世界の希望であり、救世主なんだ! それを、よりにもよってテメェみたいな奴に……!」

「……」

「お前のせいで、今までどれだけ苦しい思いをしてきたか! どれだけ惨めな思いをしたか! 分かってんのか!?」

「……」

「……いや。分かんねえよなぁ、お前には。……お前には、きっと、俺の気持ちなんて一生分からないんだ」


 ランドの口調が変わる。

 先程までの激情が嘘のように、落ち着いた声音だった。

 ……僕は、ランドの目を見て言った。


「だから君は、僕を魔界の谷底に突き落としたのかい?」

「ああ、そうだ。お前が居なくなれば、もう二度とこんな思いをしなくて済むと思った。……だからやった」


 ランドは、まるで悪びれずに言い切った。


「……そうか。君の本音が聞けて良かったよ。僕も君に対して、色々と思うところがあったんだ」

「へぇ……。それで? どうするつもりなんだ? まさか、俺の悪事を告発しようってんじゃないだろうな?」

「そんなことはしないさ」


 僕は肩をすくめて答えた。


「……ねえ、ランド。僕はね、ただ君の役に立ちたかったんだ」

「なに?」

「小さい頃に読んだ御話に出てくる主人公、勇者。そんな憧れの存在の力になれたらどんなに良いだろうと思って、だからあの時、僕は君に会いに行った」

「…………」


 ランドは無言のまま、僕の話を聞いていた。

 僕はランドに歩み寄り、すぐ目の前まで来たところで立ち止まる。


「ランド。僕が嫌いだっていうなら、なんで君は僕をパーティーから追い出さなかったの?」

「……そんなの、言える訳がない。お前は、見ての通り子供だ。勇者が子供に嫉妬してただなんて、笑い話もいいとこだ」

「ふーん。なるほどね……」


 勇者にもメンツがあるということか。

 僕は、深く納得し、そして微笑んだ。


「じゃあ、安心して。……僕は今後、君の前に二度と姿を現さない」

「っ!!」

「もちろん、君が僕にしたことも言い触らさない。……それで勘弁してくれないかな?」

「……どうしてだ。お前は、魔王を倒した。それが世間に知られれば、お前は英雄になれる」

「魔王を倒したのは、勇者だよ。それに、英雄になるつもりもない。今は世界中を観光しようっていう目的があるからさ〜」


 ヒルデと約束しちゃったからねぇ。

 確かに、英雄って響きは悪くないけど……。ランドみたいに、勇者として色々忙しい生活を送るというならごめんこうむりたい。

 僕が苦笑しながら答える。……すると、ランドの顔がみるみると歪んでいった。

 彼は僕を睨みつける。

 まるで、怨敵を見るかのような目つきだった。


「……なんだ、それ」

「ランド?」

「俺が……。俺が、人生を賭けて目指した夢を……。お前は、侮辱するのか!?」


 激昂するランド。

 僕は目を細めた。……何言ってるんだ?


「侮辱? そんなつもりはないよ? 僕は、英雄になるより、日々をのびのび暮らしていたいだけで……」

「ッ!! ……ふざけやがって!!」


 ランドは聖剣を抜き、振り上げた。

 僕は、咄嗟に回避する。

 攻撃は終わらない。ランドが振り上げた聖剣イザナギを、勢いを殺すことなく返して、振り下ろした。

 僕は、その一撃を掴んで受け止めた。

 ランドが顔をしかめる。


「……デント。改めて、もう一度言おう」

「ランド」

「お前が、憎い!! 今この場で殺してやりたいくらい、憎い!!」


 ランドが叫ぶ。

 その慟哭は、ランドの感情の奔流となって、僕の心に深く突き刺さった。

『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』


下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。


お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』 をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ