第73話「勇者との再会」
町外れの廃墟。
そこは、かつて冒険者たちが拠点として使っていた場所だ。
今ではすっかり寂れている。……そして、そんな場所に勇者ランドはいた。
腰には、選ばれし光魔法の使い手のみが使える聖剣イザナギ。立派な防具とマントを身を包み、こちらに向かって歩いてくるランド。
……その顔は真剣そのもの。
彼は、僕を睨みつけるように見つめながら、口を開いた。
「久しぶり、だな。デント」
「ああ。そうだね」
と言っても、別れてからそんなに月日は経っていない。……なのに、随分と久しぶりに会ったような気がする。
僕が笑顔を浮かべると、ランドは苦々しい表情をした。
「……まさか、本当に来るとは思わなかったぜ」
「えっ、なんで? 仲間が呼んでるんだから、来るのは当たり前でしょう?」
「仲間……。お前は、自分がまだ俺の仲間だと思っているのか?」
僕は思わず眉をひそめた。
ランドが話を続ける。
「……なあ、デント。お前が居たおかげで、勇者の旅は順調に進んだよ。魔王は倒され、人類に平和がやってくる。多くの人々が、お前に感謝するだろうなぁ」
「…………」
「……でもな。俺は、不愉快だ。正直言って、お前が嫌いだ」
ランドは、吐き捨てるように言った。
僕は、彼の言葉を聞く。……ランドの言葉を一言一句聞き逃さないよう集中していた。
「昔からずっと、大っ嫌いだった。田舎育ちの平民野郎、世間知らずのガキの分際で、俺を見下してやがった。……今ならハッキリと言える。俺は、お前が憎い!」
「……どうしてだい?」
「……ッ! 決まってんだろ! 俺は選ばれた人間なんだ! この世界の希望であり、救世主なんだ! それを、よりにもよってテメェみたいな奴に……!」
「……」
「お前のせいで、今までどれだけ苦しい思いをしてきたか! どれだけ惨めな思いをしたか! 分かってんのか!?」
「……」
「……いや。分かんねえよなぁ、お前には。……お前には、きっと、俺の気持ちなんて一生分からないんだ」
ランドの口調が変わる。
先程までの激情が嘘のように、落ち着いた声音だった。
……僕は、ランドの目を見て言った。
「だから君は、僕を魔界の谷底に突き落としたのかい?」
「ああ、そうだ。お前が居なくなれば、もう二度とこんな思いをしなくて済むと思った。……だからやった」
ランドは、まるで悪びれずに言い切った。
「……そうか。君の本音が聞けて良かったよ。僕も君に対して、色々と思うところがあったんだ」
「へぇ……。それで? どうするつもりなんだ? まさか、俺の悪事を告発しようってんじゃないだろうな?」
「そんなことはしないさ」
僕は肩をすくめて答えた。
「……ねえ、ランド。僕はね、ただ君の役に立ちたかったんだ」
「なに?」
「小さい頃に読んだ御話に出てくる主人公、勇者。そんな憧れの存在の力になれたらどんなに良いだろうと思って、だからあの時、僕は君に会いに行った」
「…………」
ランドは無言のまま、僕の話を聞いていた。
僕はランドに歩み寄り、すぐ目の前まで来たところで立ち止まる。
「ランド。僕が嫌いだっていうなら、なんで君は僕をパーティーから追い出さなかったの?」
「……そんなの、言える訳がない。お前は、見ての通り子供だ。勇者が子供に嫉妬してただなんて、笑い話もいいとこだ」
「ふーん。なるほどね……」
勇者にもメンツがあるということか。
僕は、深く納得し、そして微笑んだ。
「じゃあ、安心して。……僕は今後、君の前に二度と姿を現さない」
「っ!!」
「もちろん、君が僕にしたことも言い触らさない。……それで勘弁してくれないかな?」
「……どうしてだ。お前は、魔王を倒した。それが世間に知られれば、お前は英雄になれる」
「魔王を倒したのは、勇者だよ。それに、英雄になるつもりもない。今は世界中を観光しようっていう目的があるからさ〜」
ヒルデと約束しちゃったからねぇ。
確かに、英雄って響きは悪くないけど……。ランドみたいに、勇者として色々忙しい生活を送るというならごめんこうむりたい。
僕が苦笑しながら答える。……すると、ランドの顔がみるみると歪んでいった。
彼は僕を睨みつける。
まるで、怨敵を見るかのような目つきだった。
「……なんだ、それ」
「ランド?」
「俺が……。俺が、人生を賭けて目指した夢を……。お前は、侮辱するのか!?」
激昂するランド。
僕は目を細めた。……何言ってるんだ?
「侮辱? そんなつもりはないよ? 僕は、英雄になるより、日々をのびのび暮らしていたいだけで……」
「ッ!! ……ふざけやがって!!」
ランドは聖剣を抜き、振り上げた。
僕は、咄嗟に回避する。
攻撃は終わらない。ランドが振り上げた聖剣イザナギを、勢いを殺すことなく返して、振り下ろした。
僕は、その一撃を掴んで受け止めた。
ランドが顔をしかめる。
「……デント。改めて、もう一度言おう」
「ランド」
「お前が、憎い!! 今この場で殺してやりたいくらい、憎い!!」
ランドが叫ぶ。
その慟哭は、ランドの感情の奔流となって、僕の心に深く突き刺さった。
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