第72話「会いに行こう」
「いやいや。元気になって良かったよ、ユミル」
「はは、世話になったな」
ここはラクルスにある病院。
僕は、ヒルデとリディアとエルドリッヒを連れて、昨日この病院に入院したユミルのお見舞いに来ていた。
魔物の毒に侵された彼女の身体は、一晩で完治したらしい。大事にならなくて一安心だ。
「……ありがとう、少年。話は聞いたよ、君が助けてくれたんだろう?」
「大したことはしてません。無事で何よりです」
「ふふっ。君は謙虚なんだな。……ますます好きになったよ」
「えっ?」
「あっ、すまない。なんでもないんだ。気にしないでくれ」
顔を赤くして俯いたユミル。
後ろの三人が首を傾げる。……すると、ヒルデが口を開いた。
「おい。見舞いも済ませたんだ、サッサと帰るぞ」
「えー、せっかちだなぁ。今きたばっかりじゃないか」
「昨日は結局、金を稼げていないのだぞ。こんなところで油を売っている場合ではない」
ヒルデは、不機嫌そうに言った。
「やれやれ。……という訳で、僕らはもう行くね」
「ああ。退院したら、今度ご飯でも食べに行こう。迷惑をかけたお詫びも兼ねて、私の奢りさ」
「良いですね!」
そんなやり取りをしながら、ユミルに別れを告げて、病室を出ようとしたその時だった。
突然部屋の扉が開かれ、一人の男が入ってきた。
「あ、あの……! ここに、デント・アルフォートさんはいらっしゃいますか!?」
「……僕だけど、何か用かな?」
「ッ! あなたが、あの有名な……」
男は僕の姿を見て驚いた後、緊張した様子で話し出した。
「わ、私は、ギルドの者です。……実は、勇者様があなたを探していまして……」
「……なんだって?」
「そ、その……。詳しいことは、私では分からないのですが……。どうやら、町外れの廃墟へ一人で来て欲しいとのことなのですが……」
「……分かった。すぐ向かうよ」
僕がそう答えると、男は慌ただしく部屋を出て行った。
「……という訳だから、僕はこれからランドと会ってくる。皆は先に帰っててくれるかい?」
「……いいのか?」
「うん。ようやく再会できるんだ。向こうが何を考えているのか知らないけど、二人っきりで話したいこともあるだろうしね」
そう言って、微笑む。
リディアは、少し迷った素振りを見せたけれど、やがてコクリと頷いた。
「デントさん。お気をつけて」
「うん。ありがとう、リディア」
すると、今度はエルドリッヒが無言のまま手を上げた。
「…………」
「どうしたんだい?」
「…………」
「ん? なに?」
「…………頑張れ」
それだけ言うと、エルドリッヒは部屋の外へ行ってしまった。
……うーん。よく分からなかったけど、とりあえず応援してくれたみたいだ。
「……ふっ。まあ、いいや」
なんにせよ、これで心置きなく勇者と会いに行ける。
僕は、ユミルと仲間たちに挨拶をして、病院を後にした。
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