第71話「一方その頃、勇者ランド・エルティネス⑦」
「んっ……」
町外れの原っぱで、俺は目を覚ました。
空を見上げると、まだ夜中。辺りは暗く、月明かりだけが俺を照らしていた。
(嫌な夢を見たな……。町で彼奴の名を聞いたせいか……)
ラクルスの神殿で、デントがいると聞いた時、俺は驚いてすぐに町を離れた。……まさか、こんな所にいるとは思わなかったからだ。
だが、考えてみれば当然だ。彼は最強の戦士だから、或いは生き残っている可能性も考えていなかった訳ではない。
それでも、人間界と魔界を繋ぐゲートは破壊したし、仮に生きていても、しばらく戻ってこれないと高を括っていたのだが……。
しかし、何故あの町に……。何か目的があるのか?
(いや、違うな……)
デント・アルフォートが、どうやって魔界の谷底を脱出して、人間界に戻ってきたかは知らない。……ただ、問題はそこじゃない。
今、問題なのは、デントがこの世界へ戻ってきたことそのもの。彼奴の存在が大衆に知れ渡る前に、一刻も早く始末したい。例え、どんな手段を使ったとしても……。
幸いなことに、俺は国王並びに、多くの貴族たちから信頼を得ている。つまり、多少の事件を起こしても裏で揉み消すことは可能だ。
デントさえ殺せば、彼の業績は、存在ごと誰も知ることなく消えるだろう。
(なら、もう迷うことはない。……殺してしまおう)
俺が、そう考えた直後。
「にゃははっ。勇者ともあろう者が、物騒だねぇ〜」
「ッ!?」
突如背後から声をかけられて、思わず振り向く。そこには、満面の笑みの少女が立っていた。
赤いローブを着たその少女は、黒い猫耳と尻尾が生えている。その顔立ちは幼げなのに、どこか妖艶な雰囲気を纏っている不思議な人物だ。
「……誰だ?」
「魔神バズズ。君が魔王を倒してくれたおかげで復活することが出来たんだぁ。感謝してるんだよ?」
「魔神……?」
「ああー。まあ、そういう反応になるよね〜。でも、今は細かい説明はしないよ。ボクも暇じゃないし」
「……」
「そんな怖い目で見ないでよ〜。別に、キミの邪魔をする気はないってば」
ヘラヘラとした態度で言う魔神を名乗る女。
俺は警戒しながら尋ねた。
「それで、何の用だ……?」
「うんうん。実はね、お願いがあってきたんだ。……勇者ランドくん」
彼女はニヤリと笑った。
その表情を見て、俺は背筋に冷たいものを感じながら思った。……こいつは、危険な相手だと。
そして、俺の直感は当たっていたようだ。
……この出会いが、俺の人生を大きく変えることになることを、この時の俺はまだ知らなかった。
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