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第70話「勇者ランド・エルティネスの過去⑫」

勇者の過去編、終了です。


ここまでご高覧いただき誠にありがとうございます。

今後の励みになりますので、評価シートの☆☆☆☆☆をクリックして是非応援をお願いします!

「おーい、ランド。生きてるかーい?」


 頬をペチペチと叩かれる感覚がして、俺は目を覚ました。

 目の前には、心配そうな顔をしているデントがいる。

 どうやら、気を失っていたようだ……。


「大丈夫かい? かなり辛そうだったけど……」

「あ、ああっ……」


 まだ頭がクラクラするが、なんとか体を起こすことが出来た。


「そっか。良かったよ。ミスティから聖魔法を教わって正解だった」


 デントは嬉しそうに笑っている。

 見ると、先ほどまで感じていた疲労感が抜けている。それだけでなく、身体中に受けた怪我も治っていた。

 ……聖魔法など、いつの間に習得したんだ。あれは、聖女にしか使えないはずの魔法だと思っていたのだが。


「それにしても、無事で本当によかったよ」

「あ、ああっ……。それで、魔王は……?」

「そうそう。実は、その事でランドに頼みがあるんだよ」

「……?」

「これなんだよね」


 そう言って、デントは右手に持っているナニカを俺に見せてきた。


「…………!!?」


 それは、変わり果てた魔王の姿であった。

 全身血まみれで、ピクピクと痙攣していた。よくよく見れば、その体は上半身しかなく、失った下半身は何処にも見当たらない。


「……こ、殺したのか?」

「いや。まだ生きてるよ」


 そう言うと、魔王の頭を掴み、グシャリと握り潰した。

 ビチャッと血飛沫が上がり、魔王の頭部が地面へと落ちる。

 俺は、思わず絶句した。

 ……しかし、次の瞬間。潰れたはずの魔王の頭が、みるみるうちに治っていき、元の状態に戻った。


「これは……」

「本人が自慢そうに話してたんだけどさぁ、どうやら魔王は『不死』らしいんだ。だからね、僕は何度も殺そうとしたんだけどさ、直ぐに回復されちゃうからキリがない」


 確かにそうだ。いくら倒そうと、復活してしまうなら意味はない。

 魔王が不死という情報は、以前から知っていた。

 魔王を殺すには、聖剣の力が必要。それを手に入れるために、俺たちは長い旅をしてきたんだ。

 ……そう言えば、その情報をデントには伝えていなかったな。


「……魔王は、どんな攻撃でも再生する。俺じゃないと、殺せないんだ」

「うん。そうみたいだね〜。僕の魔法も全部効かなかったし……。だから、はい」


 デントは、笑顔のまま魔王を差し出してきた。


「え……?」

「その聖剣を使って、魔王を殺してくれないかな?」

「なん……だと……?」


 俺の声は震えていた。

 それに対して、デントは不思議そうに首を傾げる。


「ん? どうしたんだい? 早く殺さないと、また魔王が起き上がっちゃうよ〜」

「……魔王を、殺す?」

「そうだよ。ランドは勇者なんだ。君の手で魔王を退治しないと」


 ……そうだ。俺は、魔王を退治するために、今日まで長い苦労を重ねてきた。命懸けの旅を乗り越え、仲間と共に魔王の住処までやってきたのだ。


(なのに……なんだ、この空虚な気持ちは……?)


 まるで、実感が湧かない。

 ふと、魔王を見てみると、僅かに息があるのが分かる。……だが、既に屍のようだ。不死の肉体でなければ、とっくに死んでいる。

 ここまで魔王を追い詰めたのは……ここにいるデントだ。勇者である俺ではなく。


(今、ここで聖剣で貫いたとして……。それは、俺が魔王を倒したと言えるのか……?)


 勇者なのに……。俺は、これから魔王を倒すという手応えを感じない。むしろ、何かを失ったような喪失感を感じていた。

 そして、それは俺だけではなかった。

 魔王の方を見ると、彼もまた、同じような表情をしていた。

 魔王と目が合う。

 すると、彼は言った。


「……俺を、殺すか?」

「っ!!」

「……好きにしろ。……まるで歯が立たなかった。最早、抗う気力もない」


 魔王は諦めたように、笑った。

 その姿を見た瞬間、胸の奥底から筆舌にし難い感情が込み上げてくる。


「あ。もう再生してきたみたい。勇者、早く聖剣を」


 魔王の体が再び動き出し、欠損していた下半身が生え始める。

 しかし、そんな事はどうでもよかった。

 俺は、魔王に向かって聖剣を振り上げる。


「……終わりだ」


 聖剣が、魔王の心臓部分を貫く。

 その瞬間、魔王の体がボロボロと崩れ落ちた。

 ……倒した。ついに魔王を倒すことが出来た。

 これで世界は平和になるだろう。

 俺たちの冒険が終わった……。


「お疲れ様、ランド」

「ああ……」

「いやはや。何はともあれ、これにて一件落着だね! 勇者が魔王を倒した、これは国のみんなも大盛り上がり間違いなしだよ!」

「……」

「どうしたんだい? 浮かない顔してるけど」

「……なあ、デント」

「うん? なんだい?」

「お前は……魔王と戦って、どうだった?」

「どうって……。まあ、強かったよ。流石は魔界の王を名乗るだけはあると思ったね〜。だって、10分だよ? 僕が全力を出して10分も持ち堪えた相手なんて初めてだもん」

「……」


 10分。10分だ。

 それが彼にとってどれ程のものなのか、俺には分からなかった。

 ただ、これだけは言える……。

 半身を失った死に体の魔王に対して、デントは怪我どころか疲労すら感じた様子は無い。……つまり、魔王ですら敵ではなかったのだ。

 これが、デント・アルフォートの力。

 俺が、才能と家柄と必死に努力して手に入れた力を、彼は軽々と凌駕しているのだ。


「……」


 言葉が出ない。

 圧倒的な実力差にショックを受けている訳ではないと思う。多分だけど、もっと別の理由だ。

 俺には、分からない。

 ……分からないが、一つだけハッキリしていることがある。


(……そうだ。……俺は、こいつが嫌いだ)


 デントと出会ってから、今日までずっと思っていた事があったんだ。

 圧倒的な力を持ちながら、こいつは何処までも子供だったこと。軽薄で無責任で、残酷なまでに理不尽……。

 しかし、今日まで彼を見てきて思い知らされた。

 俺なんかじゃ足元にも及ばないほど、こいつは強い。

 魔王相手に傷一つ負わず、息を切らすこともなく勝利出来るほどの実力者だ。

 俺には分かる。……この男に、俺の気持ちなど理解出来ないと。


「さあ、皆のところへ帰ろう?」

「……ああ」


 ……だから、俺は決めた。

 こいつを、デント・アルフォートを人間界に帰さない。

 勇者よりも優れた人間を野放しにしてはおけない。……こいつがいる限り、俺は永遠に無力感に苛まれることになる。

 それに、このままでは俺ではなくデントが、魔王を倒した英雄として祭り上げられてしまう。そうなれば、俺は一生世界を救った勇者として扱われないだろう。

 ……勇者として旅を続け、魔王を倒し、凱旋する。そして、民の前でこう言うんだ。

『勇者ランドは、最強の魔王を倒すことが出来ました……』、と。

 そう。それこそが正しい筋書きなのだ。


(デント。人々に賞賛されるのは、お前ではない……。この、俺だ……!)


 そう決意した俺は、このデントを、生涯に渡る『敵』として、強く強く認識することにしたのだ。

 デントの背中を睨みつける。

『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』


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― 新着の感想 ―
[気になる点] こりゃ殺意持たれて当然ですわ。勇者が成長できる機会奪われて歪んで拗らせてる。 ちょい強い少年野球チームに高校生入ってリーグ戦で一人で無双してるようなもん。 [一言] 客観視や他作品のリ…
2022/04/03 08:31 退会済み
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