第66話「勇者ランド・エルティネスの過去⑧」
それからは、王都で療養中の間に聞かされた話である。
あの後、勇者パーティーは俺抜きで魔界の探索を続けた。……正直、かなり複雑な心境だ。
しかし、あの状況で、勇者である俺が抜けるということは、戦力的に大幅な低下を意味する。魔界の探索は、より困難なものになるはず……と、思っていた。
あの、デント・アルフォートが居なければ。
俺が抜けた後の勇者パーティーは、デント主力のもと、多くの敵と戦ったらしい。
特に、ミスティとのコンビは凄かったようだ。
二人は、まるで息を合わせるように協力し合い、次々と敵を倒していったのだという。
結果として、三人の旅は順調に進んだという。
「魔界探索は、順調のようだな。勇者よ」
「は、はい! 国王様!」
僕は、目の前の玉座に座っている国王に向かって、姿勢を正した。
「うむ。この調子なら魔王の城まで辿り着くのは時間の問題であろう」
「はい。必ずや魔王を倒してみせます」
「……勇者よ。其方の力が頼りだ。人類のために魔王を倒すのだ」
「はい!!」
僕は、力強く答えた。
そうだ。俺が魔王を倒せばいいのだ。
確かに今は、療養中で不甲斐ないところを見せてしまっているが、肝心なのは魔王討伐だ。
勇者であるこの俺が、魔王さえ倒せればいいのだ。……そうすれば、またみんなが俺を認める。俺の活躍を喜んでくれるはずだ。
だから、今は回復に専念しよう。そう考えて、俺は病室のベッドで横になる日々を過ごすのだった。
*****
あれから、長い療養期間を得て、ようやく俺の体調も万全となった。
そして、遂に三人が、魔王の城があるとされる場所を発見したのだ。
魔王城は、巨大な古城で、内部は薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。……早速、俺たちは魔王の城へと乗り込もうとした。
しかし、敵も一筋縄ではいかなかった。勇者パーティーが攻めてくるという情報を事前に察知していたのか、既に大勢の兵士とトラップが待ち構えていたのだ。
「大丈夫です! デントがいれば、絶対に勝てます!!」
そんなことを言いながら、ミスティがデントの腕に絡みつく。その瞳には、信頼の色が宿っているように見えた。
どうやら、彼女は本気で彼を信じているようだ。
……俺がパーティーを離れてから、二人の距離はより一層近づいように感じる。
「ふっふっふっ……。まあ、任せておいてよ!」
デントは、自信満々といった様子で言った。
まるで俺のことなど眼中にないと言わんばかりに、堂々としている。
それに対して、俺は苛立ちを覚えずにはいられなかった。
(この野郎……)
こいつのせいで、俺の立場はどんどん悪くなっていく一方だ。
俺が居なくても、勇者パーティーは何の問題もなく機能していた。むしろ、俺が抜けたことで、よりスムーズに攻略が進んでいった聞いている。
俺の中で、何かが崩れていくような感覚があった。
俺が勇者なのに、世界を救うのは俺なのに……何故だ? 何故、俺ではなくあいつが評価されている?
……いや、まだだ。
俺が魔王を倒しさえすれば、きっと俺が認められるはず。
「さあ、一緒に魔王を倒そう!」
「はい!」
ミスティは、嬉しそうに返事をする。
(くそっ……)
俺は、心の中で悪態をつきながらも、その後ろを黙って付いていくしかなかった。
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