第64話「勇者ランド・エルティネスの過去⑥」
ゴーレムとは、強力な力を持つ機械人形だ。かつて、古代の人々が兵器として戦争に用いるために作ったと言われている。
俺も何度か戦ったことがあるが、かなり厄介な相手だ。
剣で斬りつけてもビクともしないし、魔術で攻撃してもあまり効果が見られない、非常に戦いにくい敵だ。
しかも、これだけの数。正直、正面から勝てる気がしなかった。
「……ホワイト。俺たちが時間を稼ぐ。お前は、装置を持って先に脱出してくれ」
「わかった。気をつけて」
「ああ」
俺は、仲間たちに目配せをする。
そして、一気に駆け出した。
「くそっ! やっぱり、硬いな!」
俺たちは、必死に応戦するが、全く歯が立たない。
こちらの攻撃が全く通用していないのだ。このままでは、すぐに全滅してしまうだろう。
「きゃっ!」
「ミスティ!?」
突如、背後から悲鳴が聞こえてきた。
俺は、急いで振り向くと、そこには倒れ込む少女の姿が見える。
聖女ミスティが、ゴーレムたちに囲まれていたのだ。
ミスティは立ち上がると、杖を構える。だが、その表情は怯えきっていた。
恐怖に震える彼女を、ゴーレムたちが容赦なく取り囲む。……そして、そのうちの一体が腕を振り上げた。
殴られた彼女は、そのまま地面に倒れる。
それを合図にしたかのように、他のゴーレムたちも一斉に襲いかかってきた。
俺は、慌てて走り出す。
しかし、間に合わない……。そう思った時だった。
「はいはい。危ないから退いてねー」
そんな声とともに、デントが倒れ込むミスティの前に出てきた。
そして、襲い掛かってくるゴーレムたちを軽々と殴り飛ばす。
まるで、豆腐でも殴っているかのような手応えだ。。……一瞬にして、全てのゴーレムが粉々になってしまった。
あまりの衝撃に、俺は言葉を失う。
その一方で、デントはなんて事のない表情で、ミスティに手を差し伸べていた。
「ほら。立てる?」
「えっ? あっ、はい」
「じゃあ、僕の後ろに隠れていてよ」
「……わかりました」
ミスティは、デントの後ろへと避難する。
「あの、ありがとうございました。助けてくれて」
「いいってことよ」
屈託のない笑顔で、デントはそう答えた。
その間も、彼は襲い掛かるゴーレムを片手間で作業するかのように易々と破壊していった。かつての人々は、これを殺戮兵器として恐れていたというが、今の目の前にいる少年にとっては、ただのガラクタ同然でしかない。
……本当に、謎の多い男だ。
「……よーし。終わった終わった」
気が付けば、殆どのゴーレムたちがデントだけの手で倒されてしまっていた。
俺は、ただ突っ立って、唖然としながらその様子を眺めていただけだ。
「ランド」
「あ、ああ。どうした?」
「いや。もうここには用事ないし、外へ出よう。ホワイトも待っているだろうしさ」
「そ、そうだな……」
俺は、多少返事に困りながら答える。
確かに、ここに長居は無用のようだ。さっさと戻るべきだろう。
「じゃあ帰ろう。はーぁ、今日のご飯何かなー?」
呑気に呟くと、デントはそのまま出口に向かって歩き始める。
俺とミスティもそれに続き、ダンジョンの外へと向かう。
「………」
「さあ、俺たちも帰ろう。……ミスティ?」
「か、格好いい……」
「えっ?」
振り返ると、ミスティは頬を赤く染め、瞳を輝かせていた。……その視線の先には、先へ行くデントの姿があった。
すると、デントが後ろを振り返る。
「どうしたの? 早く帰ろうよ」
「は、はい! 今行きます!」
デントに呼ばれたミスティが、慌てて駆け寄っていく。
俺は、その後ろ姿を眺めながら、複雑な気持ちになった。
なんだか、無性に腹立たしい気分だ。
(何だかな……)
俺は、ため息をつくと、仲間たちの後を追いかけていった。
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