第59話「勇者ランド・エルティネスの過去①」
ランド・エルティネス。
貴族の家に生まれ、人類の中でも選ばれた者しか使えない『光魔法』を使える天才として、多くの期待を寄せられて生きてきた俺は、15歳で王国騎士になり、18歳で勇者として認められた。
人類を脅かす魔王を打ち倒すため、国王から直々に使命を与えられたのだ。
「お任せください! 必ずや魔王を倒し、人類に希望をもたらしてみせます!」
あの日、国王の前で高らかにそう宣言したことは、今でも覚えている。
俺は、まず国中から選りすぐりの仲間を集め、パーティーを組んだ。
賢者ホワイトと聖女ミスティ。
王国でも五本の指に入る実力者であり、以前から面識があった二人は、俺にとっても信頼できる相手だった。
必死の説得で二人を仲間に迎え入れ、そして、俺たちの冒険が始まった。
当時、勇者パーティーには、二つの大きな目的があった。
魔界への移動手段に必要な秘宝の発見と、魔王を倒すための武器を手に入れること。
そのために、俺は仲間たちとともに、世界中を旅し続けた。
旅は、順調そのものとは言えなかった。
人間界に押し寄せた魔王の手先を倒したり、魔族が操る魔物と戦ったりと。……それでも、様々な困難を乗り越えながら、俺たちは着実に前へ進んでいった。
やがて、とある遺跡にて、伝説の剣が眠っているという情報を手に入れた。
魔王を倒せる数少ない武器。しかも、光魔法の使い手しか扱うことのできない特殊な剣だという。……それはまさに、俺のためにあるような剣だった。
そうして俺は、『聖剣イザナギ』を手に入れたのだ。
目的の一つを達成して、俺たちの士気はさらに高まった。
このまま行けば、魔王討伐も夢ではない。誰もがそう思っていた。
しかし、そんな矢先のことだった。
俺たちのパーティーは、全滅の危機を迎えることになる。
原因は、突如現れた謎の敵。
巨大な体躯に、漆黒の鎧。禍々しい魔力を放つその魔族こそ、魔王軍の四天王の一人、暗黒騎士ナイトロードだった。
「貴様が、勇者ランドか。……魔王様の命により、その生命、貰い受ける」
これまで戦ってきたどんな強敵よりも遥かに強い力を持ったその魔族は、圧倒的な力で、俺たちを蹂躙した。
ホワイトの魔力が尽き、ミスティの聖魔法が通じず、そして、俺の持つ聖剣の力すらも通用しなかった。
俺たちは、為す術もなく敗れた。
「こ、こんなところで……」
「終わりだ、勇者よ。……お前は、あまりにも弱すぎた」
そう言って、暗黒の騎士は、無慈悲にも漆黒の剣を振り下ろそうとする。……もうダメだと思った。
その時だった。
「おっ! もしかして、そこに居るのは勇者さん?」
それは、あまりにも能天気で場違いな声。
突然聞こえてきたその言葉に、思わず振り返ると、そこには子供が立っていた。
見窄らしいローブを着ていて、背丈は低く、年齢は12歳くらい。
この戦場で、最も似つかわしくない少年が、何故かニコニコしながら、こちらを見ていたのだ。
……そう。この少年こそが、デント・アルフォート。
おそらく、この世で最も強い男が、其処には居たのである。
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