第55話「宿へ」
残された僕たちは、顔を見合わせる。
「……大丈夫でしょうか?」
「ヒルデは、吸血鬼だし、朝時間よりは夜の方が元気だからね。問題ないと思うよ」
「そうですか……。……それにしても、凄かったですね! 伝説の存在であるあの魔神と互角に渡り合うなんて!」
リディアは、目を輝かせて興奮気味に話してきた。
「あはは。あれは、運が良かっただけだよ。たまたま上手くいっただけさ」
「でも、本当に格好良かったです!」
「それは光栄だね」
「あっ、ごめんなさい。つい熱くなってしまって……。あの、お怪我とかはありませんか?」
心配そうな表情を浮かべて尋ねてくるリディアを見て、僕は微笑みながら答えた。
「全然平気だよ。この通り、ピンピンしてる」
僕は、腕をグルングルン回したり、ジャンプをしたりして、自分の身体に異常がないことを示した。
「本当ですか?」
「うん。嘘はつかないよ」
「それならいいんですけど……」
「それよりさ。リディアこそ、大丈夫だったかい?」
「はい。私も、何ともありません。エルドリッヒちゃんも……」
僕は、ちらりと視線を横に動かす。
そこには、白髪の少女がいた。まるで人形のように無感情な瞳でこちらを見ている。
エルドリッヒは、口を開いた。
「…………問題ない」
「そっか。ならよかった」
「…………少し疲れたかも」
そう言うと、彼女はその場に座り込んでしまった。
そのまま地面に横になると、スヤスヤと眠り始める。
「えっ!?︎ おいおい、こんな所で寝たら風邪引くぞ?」
まさかこんなに早く眠るとは思ってなかった。
そうだ、まだ子供だからな。沢山歩き回ったし、疲れるのも無理はない。
「ど、どうします?」
「仕方ない。僕が運ぶよ」
とりあえず、宿に連れて帰るしかないだろう。
僕は、眠っているエルドリッヒを抱きかかえた。
軽い。そして柔らかい。
女の子というのは、どうしてこうも柔らかいんだ? いや、そういうものなのか?
僕は、なるべく揺らさないようにしながら、ゆっくりと歩く。
その様子を見て、リディアは言った。
「……なんか、そうしていると兄妹みたいですね」
「えっ? ……ああ、そうなのかな」
言われてみれば、そんな気もしてくる。こうして抱っこすると、エルドリッヒの見た目年齢が近いこともあって、なんとなく妹ができたような気分になる。
僕は、エルドリッヒの頭を優しく撫でた。
「可愛いね」
「はい。とても」
「…………むぅ」
眠っていたはずのエルドリッヒの口から声が漏れる。
起こしてしまったかと思ったが、すぐに寝息に変わった。
「ふふっ。可愛らしいですねぇ」
リディアが笑う。
僕は、それに釣られて笑った。
「そうだね」
そうして、しばらく歩いているうちに、目的地の宿に着いた。
『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』
下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。
お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!




