第54話「君と出会えて」
すると、横からヒルデが話しかけてくる。
「何をしている?」
「いや、何でもない」
僕は、ヒルデに笑って答えた。
「ふん。貴様はいつも余裕があるな」
「いやいや、そんなことはないよ」
「まあいい。それよりも、貴様には、これからやるべきことがあるだろう」
「……やることはいっぱいあるんだけどねぇ。いやー、流石に疲れたよ。今日は休んで明日に備えよう?」
「吸血鬼の私には、夜こそが活動時間帯だ。休む必要などない」
「寝ないの? 何なら、子守唄を歌ってもいいよ?」
「……」
無視されてしまった。冗談なのに……。
「じゃあ、僕ら人間とエルフは、宿で眠ることにするよ」
「待て」
ヒルデに呼び止められたので、振り返ると、彼女は僕に近づいてきた。
「ん? 何?」
「先程の戦闘で魔力を消費し過ぎた。貴様の血を寄越せ」
「えぇ〜、血ぃ〜? やだよ。痛いし」
「つべこべ言わずに寄越せ」
「……どうしても欲しいのか?」
「ああ」
「本当に?」
「しつこい」
「わかったわかった」
僕は渋々、こんな時のためにと思って、あらかじめ用意していたガラスの容器を取り出すと、自分の指先を噛んだ。
そして、傷口から流れ出た血液を、ガラスの器に溜める。
それを、ヒルデに手渡した。
「はいどうぞ」
「うむ」
彼女は、受け取った容器の中を覗くと、「ほぅ」と声を上げる。
「前にも言ったが、貴様の血はなかなか良い味をしている」
「そりゃ良かった」
「魔神を撃退する実力といい、やはり貴様は普通ではない。特別な何かをその身に宿しているな」
「そんな大したことじゃないよ」
僕は、苦笑しながら答える。
すると、ヒルデは「ふっ」と鼻で笑うような仕草をした。
「謙遜をするな。……だが、その力の秘密は是非知りたいものだな」
「うーん。そう言われても、特別なことはしてないよ? 小さい頃に師匠から剣を教わって、魔法は勇者パーティーにいた頃に習った。後は、実戦で戦い方を身に付けた感じかな?」
「なるほど。……しかし、それだけでは説明出来ないこともある」
「そうなの?」
「まあ、長話を今する必要もあるまい。貴様らは、明日に備えてサッサと寝ろ。私は、その辺で散歩をして時間を潰してくる」
そう言って、ヒルデは何処かへ行ってしまった。
その後ろ姿を僕は見る。外灯の光が、彼女の美しい銀髪に反射し、輝いていた。
綺麗だなと思う。
だけど、それと同時に、彼女が遠くに行ってしまうのではないかと不安になった。
このまま、彼女を見失ったら二度と会えない気がする。
そんな気持ちになり、思わず手を伸ばしそうになるが、寸前で手を戻した。
(……ヒルデに対して、こんな気持ちになる時が来るなんてなぁ)
僕は考える。
きっと、ヒルデはもう僕にとって大切な仲間になっているのだ。
だからこそ、彼女を見失いたくないと思った。
僕は、ヒルデの後ろ姿を見ながら、小さく呟いた。
それは、彼女に聞こえないように。だけど、僕の心にはしっかりと届くように。
「……ヒルデ。君と会えて良かったよ」
我儘で、傲慢で、素直じゃなくて。
でも、そんな君は僕の大切な人だ。具体的な理由なんてなくても僕はそう思っている。
だから、君との出会いに感謝をしよう。
君に出逢えたこと、そして共に戦えることに。
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