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第4話「一方その頃、勇者ランド・エルティネス①」

ここまでご高覧いただき誠にありがとうございます。

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「デントが居なくなった!? 私達が眠っている間にですか!?」


 勇者パーティーの回復役。聖女ミスティが驚きの声を上げた。


「ああ。俺も慌てて周りを探してみたんだが、何処にも見当たらないんだ。あの野郎、いったい何処へ行ったのやら」


 俺は、事前に考えていた嘘をミスティに伝える。

 当然、俺はデントを探してなどいない。そもそも俺が谷底に落としたんだからな。


「どうするの? キャンプ地を護るのに必要な『魔物除けの結界』はまだ保つけど、人間界と魔界を繋ぐゲートは長く維持出来ない。急いで帰らないと、私達は魔界に取り残されることになる」


 そう言ったのは、賢者ホワイトだ。

 魔法の専門家であり、このパーティーの頭脳である彼女は、仲間が行方不明だと知っても尚冷静な態度を取っている。


「ああ。残念だが、出発の時間だ。デントの件は一度後回しにして、俺達は先に人間界へ戻ろう」

「そ、そんな! デントを見捨てるんですか!?」

「ミスティ、気持ちは分かる。でも、今俺達が戻らなくて誰が人間界のみんなに魔王討伐の報告が出来る?」

「それは……」

「人々は、ずっと魔王の脅威が消えることを願っていた。みんなを安心させるためにも、俺達には無事に帰るという義務があるんだ。そうは思わないか?」


 俺の説得に、ミスティは黙りこくる。


「見捨てる訳じゃない。一旦戻るだけだ。すぐに準備を整えて、それからデントを捜索しに来ればいいんだ」


 もちろん、捜索などさせるつもりはない。

 あの手この手で妨害して、魔界へ行くこと出来なくしてやる。

 デント・アルフォートは、魔界で死んだ。

 そういう展開にするのが、俺にとって一番都合がいいんだよ!


「ホワイト。ゲートは、後どれくらい保ちそうだ?」

「今日の日没まで」

「分かった。すぐにゲートの場所まで移動しよう。ミスティも、それでいいな?」

「……はい」


 ミスティは、渋々ながらも俺の意見に同意してくれたらしい。

 計画通りだ。

 魔界を離れてしまえば、後はこっちのもの。デントの存在を永久消滅出来る!

 と、その時。

 遠くの方から、複数の視線がこちらに向けられていることに俺は気付く。

 気配を察知したのは、ミスティとホワイトも同じだったようだ。彼女達は、すぐに装備を構えて臨戦態勢に入る。


「どうやら、簡単には帰してくれなさそうね。……おそらく、魔王の配下よ。魔王が死んだことを察して、ここへ攻め込んできたみたい」

「雑兵共じゃあ俺達の相手にならないさ」

「どうするの?」

「いつも通りだ。俺が先陣を切り、敵の陣形を崩す。二人は、俺のことを支援してくれたらいい」


「……大丈夫でしょうか? デントが居ないのに」


 ミスティが放った何気ない一言に、俺の心は一瞬ざわつく。


「大丈夫に決まっているだろう? 俺は、勇者。勇者ランド・エルティネス。魔王を屠った男だ」


 そうこうしている内に、魔族の群れが押し寄せてきた。

 数はそれなりだが、この程度ならこれまでに何度も倒してきた。問題ない。

 俺は、聖剣イザナギを鞘から引き抜き、真正面から相手に対峙する。


「ハァッ!!」


 聖剣を一振りし、先頭にいた魔族を両断。

 続いて二体、三体と順に斬り伏せて、敵の数を着実に減らしていく。


(先制を取った! この勢いで殲滅する!)


 俺は、次の敵を斬り伏せようと剣を構える。

 しかし、俺が剣を振ろうとした直後、脇腹に冷たい感触が走った。

 魔族が鋭利な爪で俺を切ったのだ。

 一瞬、激しい痛みを感じたが、剣を振り腕だけは止めない。正面の敵、そして切ってきた魔族も同時に斬り落とした。


「聖魔法ヒール!」


 透かさず、ミスティが回復魔法を発動して俺を癒す。

 受けた傷は瞬く間に治っていき、ものの数秒で完治した。


「ランドさん、大丈夫ですか!?」

「ランド。今は、デントの支援が無い。あまり前に出過ぎないで」

「かすり傷だ!」


 俺は、無心で敵を斬り続ける。

 俺の剣は、魔族を容易く倒せた。

 だが、相手の攻撃がどうしても捌き切れない。相手の動きが想定以上に素早く、防御に回している余裕がない。

 今までだったら、邪魔な奴はデントが対応してきたが……クソッ!


「オラァアアアア!!」


 余計な考えが頭を過ぎる。

 その雑念ごと払うように、俺は敵を斬る。

 斬って斬って斬りまくった。


「はぁ……はぁ……」


 そして、どれだけ剣を振るっただろう。

 気付けば、俺の周りには血まみれの死骸だけが転がっていた。

 俺は、敵の襲撃を見事蹴散らすことが出来たのだ。


「ランドさん!」

「随分、無茶したわね」

「ああ、二人共。どうだ、彼奴が居なくても勝てただろう?」

「傷だらけの体で何を言ってるんですか! とにかく治療を……」


 ミスティに言われて、改めて自分の体を確認する。

 戦いに集中して気付かなかったが、確かに身体中に怪我を負っていた。側から見れば、痛々しく思われるだろう姿だ。


(人間界に帰る時は、この怪我は隠さないとな)


 俺は、勇者。

 人類の希望。期待と尊敬を向けられる正義の象徴だ。

 そんな俺が、みんなの前で傷ましい姿を見せる訳にはいかない。


「そう、ここからだ。ここから、俺の新しい人生が始まる」


 魔王を倒した。人類を救った。

 これで俺の名は、世界中に広まる。誰もが俺を褒め称えるようになるんだ!

 勇者ランド・エルティネスは、歴史に名を残す英雄になる!


「ふっ。ふふふふふっ」

「ど、どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 思わず笑みが溢れてしまった。

 まずいまずい。笑うのは、まだ後だ。

 人間界に戻り、魔王討伐の報告をする。

 気持ち良く笑い声を上げるのは、その時まで取っておこう。

 俺は、人知れずそう思った。

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