第43話「怪しい男」
「では、よろしくお願いします」
「はい、ありがとうございました」
病院の受付の女性に見送られ、僕たちは病院を出た。
時刻は既に夕方近くになっている。
「結局、ユミルの意識は戻らなかったな」
「ええ、そうですね」
僕がポツリと独り言のように呟くと、隣にいるリディアが同意する。
それから、僕たちは病院を出た後、近くの公園で休憩をしていた。
僕はともかく、陽の光が苦手なヒルデや人間の町に不慣れなリディア、子供のエルドリッヒはかなり体力が消耗されているだろう。ここで少し休んでいこうと思ったのだ。
「ユミルさんのことは残念でしたけど、仕方ありません。私も、もっと頑張らないといけませんね」
リディアは、真剣な顔でそう告げた。
今回の一件は、彼女の心に重くのしかかっているようだ。
「リディアって戦えるんだっけ?」
「一通りは戦闘訓練を受けていました。それでも、あまり自信はありませんが。魔法は、風魔法を幾つか」
「そうなんだ。……ヒルデが森の魔物に使っていたのも、風魔法だよね?」
「ああ。日中の時間帯では、あれくらいしか出せん」
「そっか……」
確かに、魔物の谷底で初めてヒルデと戦った時は、もっと強力な魔法を使っていた。今のヒルデは、本来の実力の半分……いや、五分の一も出せていないはずだ。
「そうだ。病院には輸血パックが置いてあるはず……。お金を払って売ってもらえないかな?」
「輸血パック……って、何ですか?」
「えっと、血の詰まった袋みたいなものかな。それをユミルに飲ませれば回復するかも」
「なんだ、そんな都合の良い物があるのではないか。よし、早速買いに行くぞ!」
「あ、ちょっと待って」
「どうした、デント。何か問題でもあるのか?」
「いや、その前に……」
僕は、周囲に視線を走らせる。
「誰かに見られてる気がしてさ」
「ふむ? どういうことだ?」
「僕たちが病院を出てきた頃から、かな? ずっとつけられていたみたいだ」
「ほう、それはまた面白いじゃないか。よし、相手になってやれ」
ヒルデが嬉しそうに言う。
……戦うのは、僕なんだよなぁ。まあ、いいか。
僕は、振り返りながら腹から魔剣を抜き放つ。
すると、木の陰から人影が現れた。
薄暗い夕闇の中で、その姿はよく見えないが、男だということだけは分かる。
その男は、僕たちに向かって話しかけてきた。
「落ち着いてくれ。危害を加える気は無い。剣をしまって欲しい」
「……」
僕は警戒を解かずに無言で応じる。
その男が発している気配からは、敵意のようなものを感じなかった。
とはいえ、完全に信用はしていない。いつでも動けるように心構えはしておく。
……それにしても、この男の服装は、かなり目立つ。というか、怪しさ満点である。
全身黒ずくめなのだ。
黒いマントを羽織っていて、フードを目深に被っている。顔は口元だけ見えていて、声や体格から男だとわかるが、それ以外は全く分からない。
(……まあ、敵ならこんな風に声を掛けてくるわけないか)
僕は、少し肩の力を抜いて、剣を収める。
「……それで、一体何の用事でしょうか?」
僕は、なるべく丁寧に尋ねる。
すると、男は素直に応じた。
「……デント・アルフォートだね? 私……いや、我々は君を迎えに来た」
「僕を?」
「そうだ。私は、海の女神ワダツミ様を信仰する教団『海神の使徒』の者だ」
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