第39話「油断大敵」
しばらく進むと、木漏れ日の差し込む開けた場所に出た。
そこでユミルが馬の歩みを止める。
そして、彼女は振り返ると、僕の方を見て言った。
「ここなら、安全に戦えるだろう」
「はい。……えっと、それじゃあ……」
僕は、馬から降りて辺りを見渡す。
討伐対象であるドードーは、何処にいるのだろう?
その時だった。
「……ん?」
目の前の草むらが、不自然に揺れた気がした。
そこから飛び出してきたのは……。
「きゅろっ!」
小さなトカゲだった。
茶色の毛並みに、赤い瞳。体長は五十センチくらいだろうか。
どうやら、害を与える生き物ではないようだ。
「……なんだ、ただのトカゲか」
ユミルが気の抜けた様子で構えていた細剣をしまう。
……と、次の瞬間。
トカゲの尻尾が、一瞬にして数十本もの針となって伸び、ユミルを襲った。
「なっ!?」
ユミルは、身体を回転させながら後方に跳ぶことでそれをかわす。
だが、その全てを回避し切れなかった。無数の棘に貫かれ、鮮血を散らしながら吹き飛ばされる。
それでもユミルは倒れずに体勢を立て直すと、手にしていた細剣を地面に突き立てた。
「ユミル!」
「くっ、油断した……」
ユミルは歯噛みすると、左手を前に突き出した。
「出でよ!!」
ユミルが叫ぶと同時に、地面を突き破って黒い触手が現れた。それらは瞬時に彼女の右手に巻きつくと、巨大な黒い鎌のような形になる。
ユミルは、出現した鎌を大きく振り回してから前方に放り投げた。
ブオンッ!! 空気を切り裂いて飛ぶ鎌は、見事にトカゲの魔物に命中して切断する。
「グギャアァー!!」
魔物は悲鳴を上げると、その場に崩れ落ちた。
僕たちは、ユミルの方に駆け寄る。彼女の脇腹からは、血が流れていた。
「ユミル! 大丈夫ですか?」
「ああ、平気さ。かすっただけだから」
ユミルは、苦笑いを浮かべて答える。
そうは言っているが、この怪我は結構深い傷だ。早く治療しないとマズイかもしれない。
「待ってください。今治療を……」
しかし、僕が回復魔法を使おうとしたその時。
突然、ユミルは顔を歪めた。
「ぐあっ!」
「ユミル!?」
「うぅ……こ、これは……」
ユミルは自分の腹部に手を当てると、何かに耐えているような表情をした。
やがて、彼女は口を開く。
「まさか、毒か……」
「ど、毒!?」
どうやら、あの魔物の尻尾には毒が仕込まれていたようだ。
……これは、まずいかもしれない。
俺の回復魔法は、聖女ミスティのような高い精度は無い。
元々、回復魔法なんて使う機会が少なかったからな。なので、毒まで治せるかは一度も試したことがない。
果たして、効果があるのかどうか……。
「で、デントさん!」
リディアが焦ったように声を出す。
すると、僕たちを取り囲むように多数の魔物が現れた。
魔物たちは、殺意を込めた眼差しでこちらを凝視している。
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