第3話「討伐か観光か」
魔族ヒルデ・セン・マジョリータ。
僕の冒険者としての感が言っている。彼女は、強いと。
おそらく実力は、魔界トップクラス。
もし、本格的に対立することになれば、なかなかしんどい。
ただでさえ、魔王を討伐したばかりなんだ。正直、ここで意味もなく彼女と戦い合うのは避けたかった。
「話し合おう、ヒルデ。僕は、君と争いたい訳じゃないんだ」
「思い切り斬っておいて何を抜け抜けと……!」
「それは、ごめん。何でもするから許してください」
「……………………はぁ。まあいい、これ以上貴様とやり合うのは疲れそうだしなあ」
どうやら、ヒルデも同じことを考えていたらしい。
ヒルデは、気怠げな様子を見せつつ、近くにあった座りやすそうな石の上に腰掛けた。
「ところでデント。貴様今、何でもすると言ったよなあ」
「うん」
「では、ちょうどいい。貴様、この私の家来となれ」
「報酬は?」
「最初に出てくる台詞がそれか。ふむ、なかなかに愉快な奴のようだなあ」
そう言ってヒルデは、笑みを浮かべた。
可愛い。
「しかし報酬かあ。では、世界の半分を貴様にやるというのはどうだ?」
「大雑把過ぎて現実味がわかない」
「じゃあ、体で支払おう」
ヒルデがおもむろに服を脱ぎ出した。
彼女の未成熟な体があらわとなり、僕は慌てふためく。
「何してんですかっ!?」
「見てわからんのか? 裸になっている」
「そ、そういう意味じゃなくて! とにかく、服を着てください!」
なんて破廉恥なんだ!
こんな常識知らずなことをする人とは、会ったことがない!
「……よく見ると、貴様。まだ子供か」
「ヒルデに言われたくないよ。僕とそんなに変わらない年齢に見えるけど」
「戯け。私は、三百歳を超えている。人間からしてみれば、想像もつかない長寿だぞ?」
「すげー」
「まあ、そんな話はどうでもいい。とにかく、デントには私の家来になってもらう。貴様のその力は、私の野望を叶えるのに有用だ」
「野望って?」
「現代の魔王を倒す」
その言葉を聞いて、僕は思わずキョトンとした表情になった。
「……現代の魔王は、もう勇者が倒したよ?」
「何だと!? 既に死んでいるのか!」
「うん。今日倒した」
「今日!?」
ヒルデは、目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
「何ということだ。まさか魔王が死んだその日に封印を解かれるとはな」
「あれ? なんか不都合だった?」
「まあ、不都合と言えばそうなるな。私は、封印が解けたら魔王を殺してやろうとずっと思っていたからなあ。その目標がたった今潰えた」
「なるほど」
「ただ、そうなるとどうしたものか。せっかく解放されたのに、やることが無くなってしまったぞ」
「他にやりたいことはないの?」
「やりたいこと? ……観光とか?」
「結構庶民的だ!」
「ずっとこの暗く狭苦しい場所にいたのだ。今、この世界がどうなっているのか見てみたい」
「なるほど。そういうことなら僕も協力するよ!」
「本当か?」
「うん! 但し、先に人間界の観光をすることになるけど。僕は、一刻も早く人間界に戻らないといけないんだ」
ランド達は、魔王を倒したことを人間界の住民に伝えに行ったはずだ。だから、人間界に行けば会うことができるはずだ。
ランドの真意を確かめなければ。
あの時、ランドはああ言ったけど、もしかしたら何か裏があるかもしれない。そうだったら、僕は仲間としてランドを助けたい。
もし最悪、本当に僕を見捨てたとしても、特に問題はない。
だって、もう魔王は倒したし? 勇者パーティーの一員としての僕の役割は、済んでしまっているのだから。
……だから、どうせ暇だし。このヒルデと『観光』をするのも、正直悪くないと思った。
「人間界かあ。まあ、悪くないな」
「よし、じゃあ決まりだね!」
「……ところで、ここにいるのは貴様ひとりだけか? 勇者や他の仲間達はどうした?」
僕は、ヒルデにこれまで起きた経緯を説明した。
「勇者の光魔法で谷底に突き落とされただと? なるほど、合点がいった」
「どういう意味?」
「本来、この空間には侵入者を阻む強力な結界が張られて出入りが出来ない仕組となっている。これを突破出来るのは私か、光の魔法を操る者だけ。おそらく貴様は、勇者の光魔法を受けたことでここまで来れたのだろう」
「そうだったのか。だから、出ようと思っても出られなかったんだな」
「それにしても、仲間の裏切りとは貴様も難儀だな。私も、封印される前は似たような経験をしたから気持ちはわかるぞ?」
「まだ裏切られたと決まった訳じゃない。それを確かめるためにも、俺はランドに会わなきゃならないんだ」
「とにかく、こんな窮屈な場所に居ても始まらん。さっさと出るぞ」
ヒルデの意見に僕も賛同する。
こうして僕は、謎の少女ヒルデと共に行動することになったのである。
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