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第36話「一方その頃、勇者ランド・エルティネス④」

「魔物の調査、ですか?」

「うむ、勇者ランド・エルティネスよ。其方の実力を見込んで頼みたいのだが……」


 ここは、王都にある城の一角。謁見の間だ。

 そこで俺は、国王様直々に呼び出されていた。

 なんでも、数日前からラクルスという町の近くに現れるという魔物を調査して欲しいのだという。

 冒険者ギルドからの報告によると、このところ頻繁に現れているらしく、既に何人もの犠牲者が出ているようだ。


「知っての通り。魔物は、普通の冒険者では討伐が困難な強敵だ。其方達ならば、問題なく対処できると思うのだよ」

「……」

「まあ、無理にとは言わん。魔王討伐から帰還したばかりだ。まだ旅の傷が癒えてないだろう?」


 確かに、俺の体は傷だらけだ。出来れば長い休暇を取って、溜まった疲労を回復すべく、今日は一日休養に充てようと思っていたんだ。

 だが、こう言われては仕方がない。

 俺は、セレスティナ姫との結婚を控えている身だ。国王の心象を悪くしてはマズい。

 それに、ラクルスと言えば王国でも一、二を争う大きな町。

 この国の未来を担う大勢の人達が危険に晒されているのだ。勇者として、それを見過ごす訳にはいかないだろう。

 幸いにも、今回の依頼は調査。つまりは戦闘がメインではない。

 だから、この程度の怪我であれば支障は無いはずだ。…………多分。


「分かりました。引き受けます」

「おお! そうか! 助かるぞ、勇者殿!」


 国王はそう言うと、安堵の表情を浮かべた。


「では、早速準備を整えてくれ」

「はい」


 ……こうして、俺は再び旅に出ることになった。


 *****


 城を離れた俺は、勇者パーティーのメンバー、ホワイトとミスティが待つ宿屋へと来ていた。


「……魔物の調査? ラクルスにですか?」

「ああ。国王直々の頼みだ。しばらく帰って来れないだろう」


 ミスティの問いに答える。

 すると、彼女は心配そうな顔でこちらを見た。


「そんな、まだ傷が完治していないのに……。私も付いて行きましょうか?」

「いや、それはダメだ。お前は聖女なんだからな。色々忙しいだろう」

「でも、それじゃあ……」

「大丈夫だ。必ず帰ってくる。それまで、この王都の事を頼む」


 そう言うと、彼女は少し迷った後、「はい。気をつけて下さいね」と言ってくれた。


「……それはそうと、ランド」

「どうした?」


 ホワイトが話しかけてきたので、そちらを見る。


「デントの捜索の話はどうなっているの? 国王に話を通しているのよね?」

「あ、ああ……もちろん」


 嘘だった。俺は、デントの一件を国王に話してはいない。

 デントを亡き者にしたい俺にとって、王国が彼奴の捜索活動されるのは不都合なんだ。

 時間が経てば経つほど、デントの生存は絶望的になる。……それが俺の狙いだった。


「デントは、そう。じきに捜索隊が組まれるという話だった。だから、もう少し待ってくれ」

「……怪しいわね」

「え?」

「貴方、何か隠してない?」

「そ、そんな事はないぞ」

「本当に? 思えば、デントが居なくなったあの日。貴方とデントは二人きりだったわね。その時、何かあったんじゃないの?」


 ちっ! 何て勘の良い奴なんだろうか……。賢者というのは、猜疑心が強くて厄介だ。

 俺は冷や汗を流しながら、必死に誤魔化す。


「な、何も無いさ! 俺だって彼奴とは仲間だった。本心では心配してるんだよっ!」

「ふーん。まあいいわ。でも、もしその捜索隊が組まれたらすぐに教えなさいよ。私も行くから」

「あ、私も行きます!」


 ホワイトとミスティは、そう言って俺を見つめる。

 そんな彼女達の瞳には、ここに居ないデントことしか映っていなかった。


「お、おう。分かったよ」


 俺はそう返事して、何とかその場を切り抜けた。

 どうやら二人は納得していない様子だったが、今はそんな事に構っている暇は無い。

 俺は急いで準備を整えると、宿の外へと向かった。

 ……それにしても。


「くそっ、何で彼奴ばかり……!」


 俺は怒りに任せて拳を握ると、そのまま壁に打ち付けた。

 ドンッという音が響き渡る。だが、それでも俺の怒りは収まらなかった。


「……くそっくそくそ! 何故だ!? どうしてあの二人は、勇者である俺よりデントの方ばかり! 俺の方がずっと長く一緒にいたはずなのに! あいつ等は、何も分かってないんだ! 俺こそが魔王討伐の旅に出て、世界を救って来た英雄だというのに!!」


 誰も居ない王都の路地裏で、俺は叫んだ。

 そう。勇者こそ、選ばれし者。この世界の主役。国民の誰もがそう認めている。

 それ以外の人間など、所詮は脇役に過ぎない。

 だからこそ、勇者たる俺は、誰よりも絶対的であらねばならないのだ。

 ……それなのに、彼奴は。デント・アルフォートは。

 そうだ。全ては、彼奴が悪いんだ。

 ただの田舎者のガキのくせに、俺よりも目立つから……。


「はぁ、はあっ、はあ……」


 息を整え、心を落ち着かせる。

 そして、冷静になった頭で考えた。


「……とりあえず、今は国王から受けた依頼に集中するか」


 勇者としてのプライドを保つ為にも、今はこの依頼を完遂するしかない。

 勇者として、国王の信頼に応える必要がある。それまでは、余計なことは考えずにいよう。

 俺は自分にそう言い聞かせると、再び王都の街を歩き出した。


 *****


 ラクルスへの移動手段として、俺は『ワイバーン』に乗っていた。

 ワイバーンというのは、竜種の下位種にあたる生き物だ。

 空を駆ける巨大なトカゲといった風貌をしており、その鱗は硬く、魔法耐性も高い。その上、ブレス攻撃を得意としており、並の冒険者では歯が立たないほどの強力な魔物である。

 一般人が気軽に利用できる代物ではなく、この国では王族などの限られた人間しか利用することができない。

 今回は、特別に国王が手配してくれたのだ。


(……にしても、乗り心地が悪い)


 俺は、ワイバーンに乗りながら考えていた。

 というのも、このワイバーンという生物は、空を飛ぶために翼を大きく広げているのだが、これがまた狭い。そして、何より背中が固い。

 これだと、長時間乗っていると腰を痛めてしまいそうだ。

 まぁ、贅沢は言ってられない。何せ、馬より遥かに速く移動できるのだから。


(歩いて三日はかかる道のりを、このワイバーンなら半日で着くらしいし。早く着けばその分だけ調査に時間を割けるから好都合だ)


 俺は、そんなことを考えつつ、目の前の景色に目を向けた。

 ……良い眺めだ。

 夜通しで空を飛び続けて、ようやく日の出が見えてくる時間となった。

 その風景がとても綺麗なので、ついつい見入ってしまう。


「……そろそろ見えてくる頃合いか」


 呟くように言う。

 俺の言葉通り、前方に町が見えて来た。

 あれが、港町ラクルスだ。

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