第31話「事件の匂い」
「それで、次はどこに行くんだ?」
「そうだなぁ……。どうやら神殿には入れそうにないし。とりあえず、この町で一番大きな市場に行ってみようと思うんだ。この機会に、色々な食材を買っておきたくてさ」
「なるほど。では、そちらに向かいましょう」
僕たちは、目的地に向かって歩いていく。
それにしても、この国の町並みは、とても綺麗だ。
道も石畳で舗装されているし、建物自体も白を基調としたものが多く使われている。
また、歩いている人たちの服装にも、どこか品があるように思えた。……生活が豊かな証拠だろう。
そんな事を考えつつ、僕たち三人は、大通りを進んでいく。
すると、遠くの方に大きな市場が見えてきた。
市場は、多くの人々で賑わっているようだ。出店も多く出ているようで、美味しそうな焼き魚の匂いが漂ってくる。
夕ご飯には少し早い時間だが、空腹を刺激する香りについつい食欲をそそられてしまう。
リディアも同じようで、小さく喉を鳴らしたのが聞こえた。
「うぅ……。お魚さん、すごく良い匂いです」
「そう言えば、エルフたちって魚は食べるの? 森の中での生活だから、あまり食べないイメージがあるんだけど」
「いえ、普通に食べられますよ。ただ、この町で流通しているお魚は、見たことがないものが多いですね」
「へぇ……。それじゃあ、色々と見て回らないとね」
「はい!」
リディアが嬉しそうに微笑む。可愛い。
そんな僕らの様子を見て、ヒルデが小さく鼻を鳴らす。
「ふん。……まるでデートだな」
「えっ!? いや、そういうわけじゃ……」
「照れることはない。私も、家来の色恋にいちいち口を出すつもりはない」
しかし、そう言っているヒルデは何故か不機嫌そうに顔をしかめていた。
……なんで怒ってるんだろ? リディアはといえば、相変わらずニコニコとしている。
「……まあ、いいか」
僕はそれ以上気にしないことにした。
そして、僕たちは市場に足を踏み入れる。
まず目に飛び込んできたのは、沢山の海産物だ。
新鮮な魚介類はもちろんのこと、干物や燻製などの加工食品も数多く並んでいる。
「あれ? 湖の港なのに、海の魚がいっぱい……」
「確か、さっきの立て札には、【海の女神】ワダツミがどうこう書いてあったな」
「ということは、あれは湖に見えて、実は海と繋がっているって事なのか」
だから海水魚がこんなに並んでいるのか。
僕たちは、更に奥へと進んで行く。……と、その時だった。
ドォンッ!! 突然、爆発音が響き渡った。
周囲の人々がざわめき出す。
僕は慌てて音のした方を見た。
そこには、巨大な火柱が立ち上っていた。
「え? 何が起こったの?」
「おい! 誰か、消火器を持ってこい! 早く!!」
周りの人が慌ただしく動き回る。
すると、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが駆けつけてきた。
「一体、何事だ!?」
「それが、先程火柱が上がりまして……」
「むう……。またか、これで四件目になるぞ」
少し離れた場所で、数人の男達が話している。
僕はその様子を遠目に見ていたのだが、気になったことがあった。
それは、あの火柱の原因についてだ。
あの炎の柱からは、凄まじい魔力を感じる。あんな魔法を使う人間なんて、この国にどれだけいるのだろうか。
僕は、隣にいるヒルデに話しかけた。
「ねぇ、ヒルデ。あそこにいる人達の中に、魔法使いっぽい人はいた?」
「……ふむ。確かに何人かいたが、その全員が普通の人間のようだったな」
「そっか。ありがとう」
僕たちの会話を聞いて、リディアが首を傾げる。
「えっと……。どういうことですか?」
「うん。今の事件を引き起こした犯人が隠れてないかと思ってさ。でも、よく分かんないや」
僕は、魔法は使えるけど、魔法のプロフェッショナルではない。正規の手順で学んだ訳ではないから、一般的な魔法使いよりは知識量が少ないのだ。
そのため、今見ただけでは、誰がどんな魔法を使ったのか、全く分からなかった。
「はぁーやれやれ。なんか今日は災難が続くなぁ。……今日はもう帰って、続きは明日にしようか?」
「……そうだな。日を改めるとするか」
僕の提案に、ヒルデが同意する。
しかし、リディアは違っていた。彼女は真っ直ぐ前を見つめている。
「いえ、このまま進みましょう。……私、ここで帰るのは嫌です」
「……リディアちゃん」
「それに、さっきの魔法で怪我人が出たかもしれませんし。もし本当に酷い被害が出ているようなら、すぐに助けないと!」
どこまでも他人思いなリディアの言葉に、僕は少し考える。
そして、結論を出した。
「分かったよ。行こう!」
「はい!」
僕たちは、火の手が上がった現場へと足を運ぶ。
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