表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/93

第29話「ユミル・パーネス」

 下卑た笑いが響く。

 僕は呆れてため息を吐いた。


「やれやれ。思ってたより治安が悪いんだね、この町。それに身の程知らずが多いときたもんだ」

「あ? なんだと?」

「折角の観光だってのに、お前たちみたいな連中に絡まれるなんて、ついてないよ。……あのさ、痛い目見ないうちに早く帰ってくれないかな?」

「ははははははは! 随分と威勢がいいじゃねぇか! ……面白え。たっぷり可愛がってやるぜ!」


 男が叫ぶと同時に、部下たちも一斉に動き出した。

 ……なんか、今日は事あるごとにトラブルに巻き込まれる日だな。

 アホくさ。

 時間が勿体無いし、さっさと終わらすか。


「おらぁ!! 死ねや!!」


 叫びながら突進してくる男。

 僕がそれを弾きかせそうとした、その瞬間。


「うぉ!?」


 突然、目前にいた男の体が吹き飛んだ。

 僕は何もしていない。

 僕が動こうとした直前、第三者の横槍が入って、男を吹き飛ばしたのだ。

 その人物は、僕より一回り年上の少女だった。

 肩にかかるくらいの長さの赤みを帯びた茶髪を、後ろで一つに纏めている。服装は、冒険者ギルドでよく見るような革鎧。腰には、細剣を差している。

 少女は、倒れた男には目もくれず、こちらに振り返って言った。


「大丈夫か? 少年」

「あ、うん。ありがとう」


 礼を言うと、彼女は微笑んでくれた。

 ……凄く可愛い。


「てめぇ! よくもやりやがったな!」


 そんなことを考えていると、彼女の背後にいた別の男が襲いかかってきた。

 男は、手に持ったナイフを彼女の背中に向けて突き出した。

 しかし、その刃が彼女に届くことはなかった。


「……ぐふぅっ!?」


 突如として現れた黒い触手のようなものが、その男の腕を絡め取る。

 そのまま、まるで万力のような力で締め上げていく。

 骨の軋む音が聞こえてきた。

 男は悲鳴を上げながら、地面に転がる。

 そして、数秒後、白目を剥いて気絶してしまった。


「……口程にもないな」


 そう言って少女は、細剣を抜き放つ。


「次は誰だ? 掛かってくるといい。全員まとめて相手をしてやる」


 自信満々な態度で、少女は言い放った。


「なんだよ、あいつ……」

「お、おい! あの人もしかして……」

「ああっ! 間違いねえ! 『黒鞭使い』のユミルさんだ!」


 周りから、ざわめきが広がる。

 どうやら、この町では有名な人らしい。


「……ちっ! 覚えてろよ、クソガキども! 次に会った時は容赦しねぇからな!!」

「ふん。負け犬の遠吠えにしか聞こえんがな」


 少女、ユミルがそう言うと、男たちは悔しそうに舌打ちをして去って行った。

 ユミルは、僕の方へと向き直る。

 そして、手を差し出してきた。


「危ない所だったね。怪我はないかい? 少年」

「あ、はい。助かりました。ありがとうございます。えっと……ユミル、さん?」

「ああ。私はユミル・パーネス。君の名前は?」

「僕は、デントです。よろしくお願いします」

「うん。よろしくね、デントくん」


 そう言って、ユミルが握手を求めてくる。

 僕はそれに応えた。


「それで、どうしてあんな奴らに絡まれていたんだ?」

「ああ。ここにいる二人がナンパされかけてまして。不快だったので、助けたんです」

「……なるほどね。あの連中は、この町でも特にガラの悪い連中の集まりだからね。私もよく目にするよ。……災難だったね」

「いえいえ。別に大したことありませんよ」

「はは。君は強いんだね」


 ユミルは、僕の手を握ったまま離さない。

 僕は苦笑いを浮かべながら、ユミルの手を握り返すのだった。

『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』


下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。


お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』 をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ