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第2話「美少女魔族と初対面」

 魔界の谷底は、魔物の巣窟だった。

 歩けば歩く程、大きく悍ましい形相の魔物と遭遇する。

 僕は、目を合わせるだけで襲ってくるそれらを次々と蹴散らしていった。

 はっきり言って敵ではないけど、しかし気になることはあった。

 谷底の奥に進んでいくほど、魔物が強いような気がする。

 そして、俺が奥に行けば行くほど、魔物達はより激しく俺に攻撃してくる。

 まるで、この奥に大切なものがあって、それを守るために動いているような。

 で、しばらく奥へ進んでいたら、遂に行き止まりに来てしまった。

 目の前には、壁。他に行けそうな道はない。

 ……ただ。

 谷底の最奥部。その一箇所に、奇妙な祠があった。


「何だこれ? 祠? 何で、そんなものがこんな場所に」


 気になって、祠を調べてみる。

 祠には戸があり、それを開いてみると、そこには青く綺麗な石が置いてあった。


「おー! これは、きっと宝物に違いない! ……でも、勝手に持ち帰ったら駄目だよなぁ」


 何せ、祠に置かれているのだ。神聖なものに違いない。

 この世に神様がいるのなら、そんな大事な物を盗ったりなんかしたら、僕に天罰を下してくるだろう。


「そもそも、僕は宝物を手に入れに来たんじゃないんだ。早くここから脱出を……。んっ?」


 その時だった。

 谷底の最奥部に、また魔物が現れた。

 しかも、今度の魔物は谷底で戦った他の相手よりも大きい。

 四足歩行で腕が六本、頭部は兜をかぶっているような無機質な形をしていた。

 わかる。

 この魔物は、今まで戦った奴らより間違いなく強い。


「なるほど。差し詰め、お前はここのボスって訳だ。……面白い、少し退屈していたところだ」

「ヒュオッッッッッ!!!!」


 鳴き声にも似た奇妙な音を発した魔物は、三本の腕を巧みに絡ませて、その中央部に魔力を込め始めた。

 凄まじいエネルギーの波動を感じる。

 直後、魔物の腕から魔力の塊が放射された。

 音速を上回る速度で放たれたそれを、僕はさっと横に回避する。

 結果、魔物が放った魔力の塊は、谷底の最奥部にあった祠に当たった。

 祠は容易く破壊され、その中に置かれていた青い石もパキッと砕けてしまう。

 ……次の瞬間。

 割れた青い石の中から、淡い光の粒子が噴き出した。


「およ?」


 僕は、その奇妙な現象を凝視する。

 美しい光の粒子……。これは、魔力が形になったものだというのは理解出来た。

 しかし、問題なのはその量と質。およそ、生物が保有し切れるようなものではない。

 まるで、魔界の魔王。

 あの強く美しい魔族が持っていた魔力のようだと、僕は思った。

 そして、声が聞こえてくる。


「……私の眠りを妨げたのは、誰だ?」


 と、同時に。青い石から出てきた光の粒子が一箇所に集まる。

 やがて粒子は、人の形を象り始め、あっという間に美しい少女の姿となった。

 少女がまぶたを開けると、そのつぶらな瞳で僕を見た。


「……おい、貴様」

「あ。僕ですか?」

「そうだ。この私に施されていた封印を解いたのは、貴様か?」

「いえ、違います。祠を壊して石を割ったのは、彼処にいる魔物です」


 そう言って、僕は魔物を指さした。

 少女は、銀色の長髪を鬱陶しげに払うと、魔物へ視線を向ける。


「魔物風情が、この私に楯突くとは愚かな。……死ね」


 直後、少女は魔法を放った。

 この世のものとは思えない漆黒の光線は、魔物の胴体を貫き、彼奴の上半身は一瞬にして爆ぜた。

 漆黒の光線は、そのまま谷底の奥へと直進。

 遠くの方で大きな地鳴りの音が聞こえてきた。


「むっ、やり過ぎた。長く封印からされていたせいか、加減を忘れているなあ」

「すげー」

「……それで、貴様は何者だ?」

「僕は、デント・アルフォート。訳あって谷底に落とされてここにいます」

「貴様、人間だな? 下界の下等生物が、何故魔界にいる?」

「それは、魔王を倒しにきたからですよ。僕、勇者パーティーの一員なので」


 刹那。

 俺に対して、先程と同じ漆黒の光線が放たれた。

 寸前で頭を動かして避ける。

 もし当たっていたら、タダでは済まなかっただろう。


「いきなり、何をするんだ」

「何をする? 今、貴様が言ったではないか。勇者の一員であると」

「うん」

「魔族の宿敵である勇者の仲間と聞かされて、黙っているとでも思ったか。もし本気そう思ったのなら、筋金入りの馬鹿だな」


 少女は、再び漆黒の光線を放つ。

 同じ攻撃に翻弄される僕ではない。

 土魔法で障壁を張り、光線をガードする。魔力を帯びた土の壁は、そう簡単に壊れはしない。

 更に、壁を利用して視線を遮った僕は、少女との距離を一気に詰めた。


「ウララララララララッ!!」


 少女の体に渾身の連打を浴びせる。

 不意打ちを受けた少女は、僕の拳を回避出来ず真横に吹っ飛んだ。壁に叩きつけられ、ズルズルと下へ落ちていく。

 ……よし。

 少女の体はちゃんと原型を保っていた。

 本気で連打なんてしたら、一瞬でバラバラになってしまうからね。ほどほどに手加減するのが難しいんだよ。


「……くっ! な、何だ、このパワーは!?」


 少女は、ダメージを負いながらも立ち上がる。加減したとはいえ、なかなか頑丈なようだ。


「我が命に従い、現れよッ! 暴龍バハムート!!」


 少女が呪文を唱えると同時に、魔法陣が展開された。

 魔法陣の中央から黒い霧が立ち込め出したこと思うと、その直後全身黒色の巨大な龍が姿を露わにする。

 召喚魔法。

 契約した生物を呼び寄せる魔法。

 その力で、少女は伝承にのみその存在を記されてきた伝説の龍を召喚したのだ。


「ふふっ、驚いたか? バハムート、ドラゴンの中でも最強クラスと謳われた種族だ。如何に勇者の仲間といえば、貴様に勝つ術は無い」

「すげー」

「死ね。愚かな人間よ」


 少女が合図をした直後、バハムートが動き出す。

 巨大な龍は、口に灼熱の炎を溜め始めると、それを僕に目掛けて一気に吐き出した。強烈なブレスがこちらに押し寄せてくる。


「顕現せよ。魔剣イザナミ」


 腹から魔剣を取り出した。

 迫りくるブレスに対して、僕は剣を軽く振る。

 それだけで、炎は一瞬にして鎮火した。


「……は?」


 完全に決まると思っていた攻撃があっさり無力化され、少女は呆気にとられたような表情を浮かべる。

 だが、僕から言わせれば『舐められたもんだ』という話だ。


「生憎、こっちはドラゴンなんて腐るほど倒してきてるんだよね。伝説の龍だろうとなんだろうと、戦い慣れた相手なんか僕の敵じゃない」


 スパンッ! と、龍の首を刎ねる。

 バハムートは、自分が死んだことにも気付かず、奴の体をそのまま横に倒れていった。


「さて、そろそろ決着をつけようか」

「舐めるなっ!!」

「それは、こっちの台詞だよ」


 少女の指先から鋭利な爪が伸びた。

 少女は、その爪を武器として扱い、僕に斬りかかる。

 すかさず魔剣で応戦。その後、斬り合いの応酬が起こる。

 一度刃が重なるごとに、青白い火花が立った。

 最高級の切れ味を誇る魔剣をぶつけているにも関わらず、少女の爪は折れる気配がしない。余程、頑丈のようだ。

 ……なら、スピードを上げてみるか。


「ぐっ!!」


 少女の口から苦悶の声が漏れた。

 それもそのはず。僕が剣を振るスピードを上げた結果、少女はそれに対応し切れなかった。

 そして、魔剣の切れ味を知らしめるように、その刃で少女の腕を刎ね飛ばしたのだから。


「おっと、やり過ぎたかな?」


 しかし、僕がそう口にしたのも束の間。少女の斬られた腕の断面から、瞬く間に新しい腕が生えてきたのだ。

 腕は、すぐに形を作り出し、元の少女の腕の形へと戻った。


「……回復魔法? いや、再生したのか?」

「この程度の傷、怪我にも入らんっ! まだまd……


 少女が何かを言い終える前に、その両脚を斬り落とす。

 脚を失った少女は、なす術もなく地面に倒れ伏した。


「…………ッ!? ッッ!?!?」

「信じられない、って顔をしているけど。これが現実だよ。今の君じゃあ、僕には勝てない」


 現在進行形で新しい脚を生やしている少女に、僕は諭すようにそう言い放った。


「この、この私が手も足も出ない……だと!? 何者だ、貴様アァッ!!」

「さっき言ったよ。デント・アルフォート。そっちこそ、何者なのさ?」

「私は、ヒルデ・セン・マジョリータ! 魔界の王に、なるはずだった者!!」


 復活した少女は、自らをそう名乗るのだった。

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