第28話「ラクルス観光」
ラクルスの町を散策していると、気になる場所がいくつかあった。
例えば、湖に面した場所に建つ灯台。これは、海を渡る船が安全に航行するための目印だ。
他には、市場やお店。新鮮な魚介や野菜を売る露店がたくさん並んでいる。
町は、大きなお祭りが開催されているのもあり、とても賑わっているのが見てとれた。
しかし、やはり一番興味を引いたのは、町の中心部に建てられた神殿だろう。
「わぁ、大きいですねー!」
「うん。この神殿には、どんな神様が祀られているんだろう?」
「そこに立て札があるぞ。神殿の神とやらについて書かれてある」
ヒルデが指差す先には、確かに大きな立て札があった。
そこには、こう書かれていた。
【ラクルス祭り】
ラクルス祭りは、海の女神ワダツミを祀る大祭だ。
ワダツミ神は、慈愛に満ち、人々に安らぎを与える存在として、多くの人々に崇められている。また、海の幸を育てることに長けており、そんな彼女の加護により、ラクルスの人々は豊かな暮らしを送っているのだ。
今年も、年に一度の大祭が開かれる。是非とも皆も参加して欲しい。
……と、そのように書かれてあった。
なるほど。つまり、漁業が盛んな町であるラクルスは、女神の加護のおかげで豊漁に恵まれているということらしい。
「ふむ。ということは、あの神殿には漁業を司る神様が祀られてるってことになるのかな?」
「そうらしいな。真実かどうかは定かではないが」
ヒルデが興味無さそうに呟く。
僕は、少し考えたあと、提案をする。
「よし。せっかくだから、行ってみるかい? その、神殿に」
「まあ、この町の名所ならば足を運ぶのも一興だろう」
「決まりだね」
僕たちは、神殿に向かって歩き出す。
「わぁ~! 近くで見ると、もっと立派ですね!」
「うん。それに、凄い人出だな……」
神殿の入り口付近には、大勢の人が押し寄せていた。
そして、みんな一様に手を合わせて祈りを捧げている。
どうも、本当に信仰されているようだ。
「すみません。中に入るにはどうしたらいいですか?」
近くにいた女性に尋ねる。
すると、女性は笑顔で答えてくれた。
「ああ、ここは一般開放されてますから、向こうの出入り口から自由に入れますよ。ただ、今は満員で入れそうもないですけど」
「そうみたいですね。ありがとうございます」
そう言って、その場を離れようとした時だった。
「……ん? おい待て。そこのお前、ちょっと顔を見せろ?」
「え?」
振り向くと、一人の男性が立っていた。
歳の頃は40代くらいだろうか。細身だが、筋肉質な体つきをしている。ヨレヨレの簡素なシャツとズボンという格好だ。
「お前だよ。そっちの銀髪の」
そう言って、男性はヒルデの頭の天辺から爪先までを舐めるような視線で観察し始めた。
何だか気持ち悪い。
すると男性は、急に目を輝かせて、ヒルデの手を取った。
しかしその手を、ヒルデは不機嫌そうな表情を浮かべて振り払う。
「貴様っ! いきなり何のつもりだ!!」
「おっと。悪い悪い。良い女が近くに来たもんだから、つい興奮しちまったぜ」
悪びれる様子もなく、男は笑った。
そして、今度はリディアの方へと手を伸ばしてくる。
流石に看過しきれないので、僕はリディアの前に立ち塞がるようにして、男の動きを制した。
男は、眉間に皺を寄せる。
「あん? 何だ、ガキ。俺に文句でもあんのか?」
「文句ならありまくりだよ。僕の大切な人達に近付かないで欲しいんだけど?」
「あー……。なるほど。そういう感じか。…………おいっ、お前ら!!」
男が声を上げると、物陰からゾロゾロと柄の悪い男たちが現れた。
全部で10人ほどいる。全員が武器を持っていた。
「こいつらは、俺の部下どもだ。……おい、ガキ共。大人しく言うことを聞かないと、痛い目見るぞ?」
男は、沢山の部下を従えながらそう言うのだった。
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