第26話「一方その頃、勇者ランド・エルティネス③」
「おお、よくぞ戻ったぞ。勇者ランド・エルティネス」
国王陛下の言葉に、俺は恭しく頭を下げる。
ここは、王城にある謁見の間。転移装置で王都まで移動し、今、俺と国王陛下は向かい合って立っている。
「此度の魔王討伐、大儀であった。これで人類は救われたも同然だ」
「ありがたきお言葉」
「褒美を与えようと思うが、何か欲しいものはあるか?」
国王は、そう尋ねてきた。
さて、何と答えるべきなのか。
正直なところ、金は腐るほど持っているし、魔王を倒した勇者となれば、名声や地位は後から付いてくるだろう。
特に、困っている事も無いのだが……。
「そうですね……」
……いや、一つだけあった。
それは、この王国で最も美しいと言われる姫君の存在だった。
彼女を手に入れれば、世界を手に入れたも同然。そんな噂すら聞くほどの絶世の美女。
折角だ。頼んでみるのも悪くないか。
「それでは、私の妻となる方を頂きたく存じます」
「ほう。……妻か」
「はい。魔王を倒す程の力を持つ私は、いずれこの国の王に成り代わりましょう。ですので国王陛下。私の妻と成る方として、是非とも、あなたの娘を」
「……」
すると、それまで笑顔を浮かべていた国王の顔から、表情が消えた。
ま、まずい。流石に欲張りすぎたか……。
「貴様。我が娘を欲するか?」
「ええ」
「……よかろう。おい、誰か居らぬか」
国王の呼び掛けに反応して、一人の女騎士が現れた。
彼女は、こちらを見ると優雅な動作で一礼する。
「お呼びでしょうか」
「セレスティナを呼んでこい。至急だ」
「かしこまりました」
再び、一礼して去る女騎士。
それからしばらくして、謁見の間に一人の少女が現れる。
少女の名は、セレスティナ・フォン・ウィルソン。この王国で、最も美しいと評判の姫である。
「お父様。私をお呼びと聞きまして参りました」
「うむ」
「それで、用件とは?」
「お前の婚約者が決まった」
「……えっ!?」
驚きの声を上げるセレスティナ。
「ど、どういうことですか? まだ、お見合いの話すら来ていないはず……」
「ああ。その通りだ。だが、決まったのだ」
「……どうして」
「勇者殿が望んでいるからだ」
「そ、そんな!」
狼煙のような声を上げて、顔を青ざめるセレスティナ。
「わ、私は嫌です! こんなの絶対におかしいですよ!」
「黙れ。これは決定事項だ」
「なっ!?」
「勇者殿の妻になるということは、この国で最も高貴な存在になるということだ。文句があるのか?」
「うぅ……。分かり、ました」
そう言うと、セレスティナは俯いたまま、謁見の間を出ていったのだった。
「……娘のことはくれぐれも頼むぞ。ランド・エルティネス」
そう言って微笑む国王に、俺は深く頭を下げたのだった。
……やった。遂にやったぞ。
これで俺は、王族だ。この王国の未来の国王だ。これまでの苦労が、全て報われる時が来た。
この俺こそが、この世界の王に相応しい男なんだ。
そう考えると、自然と笑みがこぼれてくる。
「お任せください。必ずやご期待に応えて見せますよ」
「ふっ、頼もしいな」
そう言って、互いに笑い合う。
そして、俺は踵を返すと、意気揚々と歩き出した。
*****
謁見の間を離れた後、セレスティナは自室へと戻ると、ベッドの上に寝転んだ。
「はぁ……。まさか、私が勇者の嫁にされるなんて」
天井を見つめながら呟く。
すると、突然、部屋の扉が開かれた。
「失礼します」
入ってきたのは、メイド服を着た女性だった。
セレスティナは、慌ててベッドから飛び起きる。
「あ、あの。ノックくらいしてください」
「申し訳ありません。しかし、緊急の要件でしたので」
「え?」
「実は先程、王城に不審な人物が現れたと通達がありまして」
「なんですって?」
「はい。どうも、セレスティナ様のことをお探ししているようでした」
「……」
セレスティナは、黙り込む。
「セレスティナ様に、心当たりはございますか?」
「いえ……。私には、特に」
「そうですか。………………まっ、その不審者ってアタシなんだけどね♪」
直後、メイド服の女は、一瞬にして姿を変えた。
黒いローブに身を包む小柄な少女の姿へ。
「なっ!?」
「さてさて。それじゃあ、貴女の身体……このアタシがいただいちゃおうかな」
そう言い放つと、ローブの少女はセレスティナに手を伸ばす。
次の瞬間、ローブの少女の手がセレスティナの身体を貫通し、中へと入っていった。
「ひっ!?」
「うーん。やっぱり、良い魔力を持ってるねぇ。流石は、この国の姫様だ」
「な、何をする気ですか!?」
その言葉と同時に、セレスティナの全身に激痛が走る。
それは、まるで自分の肉体を内側から食い破られているような感覚だった。
あまりの痛みに耐えかねて、セレスティナは悲鳴を上げる。
そして、しばらく悶えていたセレスティナは、何事も無かったかのようにスッと立ち上がる。
「………………キヒヒッ!」
いや、違う。
その少女は、セレスティナではなかった。
セレスティナの体をした少女の瞳が、赤く染まる。
「これでこの体は、私の物。さあ、思う存分、好き勝手してやるぞー! キヒ、キヒヒヒヒヒヒッ!!」
そう言って、少女は邪悪な笑みを浮かべたのだった。
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