第24話「素直じゃない吸血鬼」
僕はそっと振り返ると、二人の無事を確認する。
「ヒルデ。大丈夫だった?」
「ふんっ。誰に向かって物を言っている。たかが人間など恐るるに足らん」
ヒルデは、腕組みしながら偉そうに言った。
「ああ。でも、一応確認させてね。怪我はない?」
「……ああ。心配無用だ」
そう言って、そっぽを向くヒルデ。
僕は、苦笑を浮かべる。
それから、リディルの方を向き直る。
「リディルも大丈夫?」
「はい! ありがとうございます、デントさん」
嬉しそうな笑顔を浮かべたリディルは、僕に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと、リディル!?」
「……ちょっと怖かったんです……。でも、こうして助けていただいて、本当に嬉しいです」
「そっか……。うん。当然の事をしたまでだよ。気にしないで」
「……はい!」
満面の笑みを見せるリディル。
そんな彼女を見ていると、何だか恥ずかしくなる。
「あ、あのさ、そろそろ離れてくれないかな?」
「あっ! は、はいっ! すみません!!」
顔を赤くして離れるリディル。
そんな彼女を見て、ヒルデが不満そうな表情を浮かべている。
「……ほう? この私を差し置いて、随分と仲が良いではないか。ん~?」
「ち、ちがうよ!! 変な誤解をしないでよね!!」
「ふむ。……いいか、デント。有事の際は、まず私を優先しろ。で、私の事も守るのだ。良いな?」
「もちろんだよ。だってヒルデも、僕の大切な仲間だからね」
「……そ、そうか」
またプイッと視線を逸らすヒルデ。
彼女は、そっぽを向くと、何やらブツブツと小声で呟いた気がした。
「えっ。なんか言った?」
「何も言っていない! それより、早く村の中へ入るぞ。この愚かな人間共のせいで、時間が押してしまったからな!」
早歩きで先に進むヒルデ。
……あれっ。もしかして怒ってるのかな?
それから、僕はリディルの方を見ると、彼女は、微笑ましそうに僕たちを見つめていた。
「ふふふ。お二人は、本当に仲良しさんですよね」
「そ、そうかな……」
ヒルデと出会ってから、今日で二日目。未だに、彼女について分からないことは多い。
僕は、チラリと横目でヒルデを見る。
すると、彼女の長い銀髪が風に揺れ、陽光に照らされてキラキラと輝いていた。
美しい少女。それが、僕の抱く印象だ。
見た目は十代前半の少女に見えるけど、実際は数百年もの時を過ごしているという。
吸血鬼という種族の特性上、年齢を重ねてもその外見が変化しないのだろう。
まさに不老不死。……まあ、その辺りについては、あまり深く考えないようにしている。
僕は、ヒルデに声を掛ける。
「ねぇ、ヒルデ」
「なんだ?」
「あー、その。何というか……無理に強がらなくてもいいんだよ? 困ったことがあったら手くらい貸すからさ。なんていうか……。もっと素直になってくれてもいいと思うんだ」
「……」
黙り込むヒルデ。
それから、ゆっくりと口を開いた。
「……ふん。見縊るなよ、デント。先程は、たまたま調子が悪かっただけだ」
そう言うとヒルデは、倒れている兵士の一人に近寄り出した。
そして、彼の側で屈むと、その首筋に自信の口を近づけ、思い切り噛み付いたのである。
「ぎゃああああああ!!!!」
痛みで絶叫する男。
血を吸い上げるヒルデ。
十数秒後。ようやく吸血を終えたのか、満足げな表情で立ち上がった。
「……ふう。ご馳走様だ」
ヒルデは、ぺろりと唇についた血液を舐め取ると、こちらへ振り向いた。
「その人……」
「ああ、気にするな。何も致死量の血液まで吸っていない。気絶する程度に留めておいた」
「そっか……。なら、いっか」
ホッと胸を撫で下ろす。
どうやら命に関わるような事はしていないらしい。
「……デント」
「うん?」
「……貴様は、私の家来だ。が、貴様には、借りがあるからな。いつの日か、その借りは必ず返す。……それまでの間は、私が快適に暮らせるよう、精々励むといい」
「はは。分かったよ」
「ふん。……では、行くぞ」
そう言って、再び歩き出すヒルデ。
ヒルデ・セン・マジョリータ。魔界の魔王に、なるはずだった少女。
しかしこの時、傲慢不遜な彼女が少しだけ、僕に対して心を開いてくれたような気がした。
僕は、そんな彼女に笑みを浮かべると、慌てて追いかけたのだった。
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