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第1話「魔界の谷底」

 僕の名前は、デント・アルフォート。


 年齢は、13歳。田舎の村出身のしがない冒険者さ。

 今日、僕達は世界を滅ぼそうとしていた悪しき魔王を討ち倒した。人類の存亡をを賭けた世紀の一戦。これに勝利することが出来たんだ。

 正直、何度も挫けそうになった。僕は、戦うことしか能のないポンコツだけど、そんな僕でも魔王と戦うのは嫌になるくらい、奴は本当に強かったんだ。

 それでも勝利することが出来たのは、ひとえに仲間のおかげ。


 世界を救いし勇者パーティー。


 勇者ランド・エルティネス。

 貴族生まれの天才剣士。僕らの頼れるリーダー。超人的な剣技と光魔法を駆使して戦う。パーティーの重要なアタッカーだ。


 賢者ホワイト・ハルマード。

 王国一の魔法大学を主席で卒業した才女。彼女が操る数々の魔法のおかげで、多くの場面で命を助けられた。


 聖女ミスティ。

 孤児院で育ち、貧しい環境に身を置かれていた幼い少女。そんな逆境を乗り越えるために絶え間ない努力して強くなった彼女の実力は、おそらくその様子を間近で見てきた僕が一番よく理解しているだろう。


 そして、デント・アルフォート。

 何処にでもあるような田舎で育っただけの男さ。主な役割は、勇者ランドの戦闘支援。敵の集団へ突っ込んでいくランドを陰ながらサポートをしてきた。


 この四人で過ごした冒険を、僕は今後一生忘れない。

 世界を救った後も、僕らの人生は続いていく。

 そこでどんな障害が待ち受けていようと、あの日々を思い出すだけで僕は頑張れるよ。


 ありがとう、みんな。


 ありがとう、人生。


 僕は、この世に生まれて、本当に幸せでした。


 *****


 目が覚めると僕は、真っ暗な場所にいた。

 やたら周囲はヌメヌメしていて、おまけに臭く湿気が凄い。

 そこでピンと来た。

 どうやら僕は、何かの腹の中にいるらしい。

 おそらく、僕が眠っている間に巨大な獣か何かが僕を食べたのだ。

 やれやれと思いつつ、僕はこの場から脱出するために行動を始める。


「えいっ」


 僕は、ヌメヌメの壁、即ち獣の腹部に自分の拳を思い切り叩きつける。

 獣の腹部は、いとも容易く破れた。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオォォォォォンッッ!?!?」


 直後、僕を食った獣は、腹に大きな穴を開けられた痛みでとてつもない絶叫を上げた。

 耳をつんざくような悲鳴である。


「ああ、やっぱり食べられてたんだな。それにしても、ここはどこだ?」


 僕は、辺りを見渡す。

 獣の腹の中から脱出しても、周りは相変わらず暗かった。どうも、光が届かない場所にいるらしい。

 そこで僕は、思い出す。


「そうだった。僕は、ランドに谷から落とされて、そのまま気絶してしまったんだ」


 盟友の裏切り。

 あの事件のことは、確かに覚えている。

 ということは、今俺がいるのは谷の底?

 そう。

 僕は、『魔界の谷底』にいるんだ。


「グギャアアオオオオッ!!」

「フシャァァアアアブルルルルゥッ!!」


 見れば、谷底には魔物がうじゃうじゃ棲んでいるじゃないか。

 牙をむき出しにして唸り声を上げている恐ろしい魔物が、ざっと数えただけでも数十匹。

 先程まで僕を食っていた奴も、そのうちの一匹という訳か。

 そして魔物達は、僕に向かって一斉に襲いかかってきた。

 腹を空かせているからか。仲間を殺された復讐のためか。

 しかし、いずれにせよ攻撃を仕掛けてくるのなら、僕も抵抗するしかない。

 僕は、自分の腹に『扉』を作ると、そこに腕を差し込んだ。


 収納魔法。


 異空間を繋ぐ扉を開いて、そこに荷物をしまっておける便利な魔法だ。

 僕は、異空間から一振りの剣を取り出し、格好良く掲げてみせた。


「顕現せよ。魔剣イザナミ」


 なんて。まあ、『顕現』とは言ったけど、ただ取り出しただけなんだけどね。

 僕は、魔王を倒した勇者パーティーの一員。たかが魔物程度に遅れを取らない。

 襲い来る魔物達を、魔剣イザナミで次々と斬り伏せていった。

 ……ただ、魔界の魔物は人間界の魔物より強い。

 純粋なパワーやスピードだけでなく、高い知能、膨大な魔力保有量、優れた自然治癒力を持っている。

 数回斬っただけではあっという間に傷が治ってしまう。なかなか厄介な相手だった。


「仕方ない! ならば、風魔法テンペストだ!」


 僕を中心にして、周囲に猛風が吹き荒れる。

 エネルギーの濁流といっても差し支えないこの風を受けて、魔物達は堪らぬ絶叫を上げた。踏ん張るのが精々で、奴らは動くことが出来ない!


「畳み掛けるぞ! 炎魔法インフェルノレーザー!!」


 シュゥイイイイイイイン!

 怯んだ魔物達にとどめの一撃。

 僕は、目から爆熱の炎を放射した。摂氏数万℃の超高熱を薙ぐようにして横に一振り。


 瞬間、大爆発!!


 先程はなった魔法よりも更に強力な爆発力は、如何に魔界の魔物達でも耐えることが出来なかったらしい。

 奴らは、物言わぬ肉片になった。


「はっはっはっ! まあ僕が本気を出せば、こんなものだよ!」


 敵を一掃したので、俺はひとり自慢げになる。

 が、しばらくして笑っている場合じゃないことに気付いた。

 魔界の谷底に落ちたことも大事だけど、それよりももっと大事なのはランドのことだ。


「ランド。どうして」


 あれだけ苦楽を共にして、友情を深めあった仲なのに。

 ……あんなことをするなって。

 信じられない。

 信じたくない。

 貴族の中でも由緒ある名家の出身で、まさに人の上に立つために生まれたライド。しかも剣と魔法の才能は、王国随一と持て囃されていた。

 人々に称賛されるライドは、僕にとっては憧れの人。

 そのライドが、僕を谷に落とすなんて……。


「いや、ここで考えていても仕方ない。とにかく、この谷底から出ないと」


 見上げてみると、真上の遠くの方で微かに光が確認出来た。

 彼処まで登ることが出来れば、ここを離れられる。


「風魔法!! レッグブラスター!!」


 僕は、自分の脚に風邪の加護を付与させた。

 これにより、脚から突風を噴射させて上空に昇ろうという算段である。

 風が唸り出す。

 僕の体は、狙い通りに空へと飛んだ。

 頭上に見える微かな光を目指して全速力。ただ真っ直ぐに突き進む。

 しかし、崖を半分くらい上がったところで、突然何かに衝突した。


「痛い!」


 頭をぶつける。

 僕はバランスを崩して地面に落下してしまった。


「な、なんだ? 何もないのにぶつかったぞ?」


 再び頭上を見上げる。

 そこには、頭をぶつけてしまうような障害らしき物は一切になかった。

 或いは、透明なガラスのようなものが設置されているのかもしれない。

 ならば、破壊するまでだ。


「炎魔法! インフェルノキャノン!!」


 僕は、口を大きく開くと、そこからのインフェルノショットよりも強力な炎魔法を放った。

 刹那、爆音が轟く。

 崖の半分くらいのところで魔法が着弾。大爆発を起こした!

 ……しかし。

 谷底と地上を阻む『透明な壁』は、壊れなかった。

 魔界の魔物を一掃する技を受けても、ヒビすら入ってないことがここからでも窺えた。


「うーん、困ったな。どうやって上がればいいんだ?」


 何故か理由はわからないけど、空を飛んで脱出するのは駄目みたい。

 では、どうすれば? 

 僕は、こんなところにいつもでも居る訳にはいかないのに!


「とにかく、歩いてみるか」


 脱出の足掛かりを探すため、僕はこの谷底を移動することにした。

『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』


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