第15話「野生の巨大熊」
すると、その時だった。
「グオオオォォッ!!」
突如として、雄叫びのような声が聞こえてきたのだ。
「んっ? 今の鳴き声って……熊かな」
「熊か。この辺りは熊が出るのか。……ふむ、興味深い。人間界の熊がどのような生態をしているのか見てみたいものだな」
ヒルデはそう言って、興味津々といった様子で立ち上がる。
好奇心旺盛なお姫様である。
そんなことを考えていると、再び先程の雄叫びが響き渡った。……今度は、僕達の方に向かっているような気がする。
そして、ガサガサという音と共に、目の前の茂みから巨大な影が現れた。
それは想像していた以上に、大きな熊だった。全長3メートルはあるだろうか。
しかし、もっと気になるのはその形相。目は血走っており、口元からはダラリと唾液が垂れている。
そして何よりも特徴的なのが、その右腕。肘から先が異常に大きく発達しており、まるで丸太のように太い腕をしていた。あれで殴られたらひとたまりもないだろう。
「……どう見ても普通の熊じゃないよね」
「ああ。恐らく、魔物化だろう」
魔物化。魔素を取り込み過ぎた動物が変異して、凶暴化する現象のことである。
通常の動物よりも遥かに強い力を持ち、厄介なことに魔法を使う個体もいる。
しかし、人間界で魔物が出現するとは珍しい。魔素の多い魔界ならまだしも、ここ人間界は大気中の魔素が殆どないはずなのに……。
なんてことを考えていると、リディアが慌てたように立ち上がった。
「こ、こっちに来ています!! 逃げましょう!!」
「いや、逃げる必要はないよ」
「どうしてですか!?」
「僕が戦うから」
僕は、そっと立ち上がる。
丁度いい機会だ。朝の運動代わりに、この熊も狩るとしよう。
「グオオッ!!」
僕の存在に気付いた巨大熊が襲ってくる。
瞬間、熊の異常に大きく膨れ上がった腕で殴りかかってきた。
僕はそれを片腕で受け止める。
そして、そのまま押し返した。
「グオオォ!?」
熊はよろめきながらも、すぐに体勢を立て直す。
しかし、僕の反撃の方が早かった。
魔剣イザナミを振り下ろし、熊の腕を切り落とす。
腕を失ったことでバランスを崩した熊は、その場に倒れ込んだ。
「す、凄い……」
リディアが唖然としながら呟く。
一方、ヒルデの方は、愉快そうな笑みを浮かべていた。
「ククッ、流石は我が家来だ。さあ、その調子でこの私を楽しませろ!」
僕は、見せ物か。ヒルデは相変わらずの上から目線だ。
まあいい。今は、この熊を倒すことに集中させてもらうとしよう。
「よし、そろそろ終わりにするか」
「グルルルル」
既に満身創痍な巨大熊だが、それでもまだ戦意を失っていないようだ。
僕は、魔剣イザナミを構える。そして、一気に駆け出した。
「グオオォォッ!」
「遅い」
振り下ろされた右腕を軽くかわすと、その勢いのまま袈裟斬りにする。
そして、最後は首を跳ね飛ばした。
「よし。熊肉ゲット。……んっ? どうかした?」
ふと見ると、リディアが驚いた表情でこちらを見つめていた。
「い、いえ。あの、まさか一人で倒してしまうなんて思わなかったもので」
「まあ、これくらいはね」
「でも、本当に驚きました。流石は、勇者と共に戦ってきた方ですね」
「まあね」
さて、早速この肉も朝食のメニューに加えるか。
しかし、その時だった。
「グワアアアアアアアアアアァァァッ!!」
突然、後ろから別の雄叫びが聞こえてきたのだ。
振り返るとそこには、先程倒した熊より倍以上大きい体躯をした熊の姿があった。
「……マジか。まだ焼いてもいないのに、もうお代わり?」
僕は、やれやれと溜め息を吐く。
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