第13話「一方その頃、勇者ランド・エルティネス②」
魔界からゲートを潜り抜け、俺とホワイトとミスティは、人間界に戻ってきていた。
ゲートを抜ける直後、あらかじめゲートを破壊するよう細工を施しておいた。これで、万が一デントがあの谷を突破出来ても、人間界に戻ることは出来なくなった。
まあ、幾らあのデントでも、あの谷から脱出するには不可能だ。あの場所は、光魔法を使えない者は絶対に出入りが出来ない。今頃、谷底に潜む強大な魔物の群れに食い殺されているに違いない。
「……それで? これからどうするつもり?」
賢者ホワイトが訊ねる。
「とにかく、まずは国王に報告に行く。悪き魔王を打ち倒したことを、早く伝えに行くぞ」
普通なら、国王がいる王都まで相当な距離を移動しなければならないが、俺達は一瞬で移動出来る方法を持っていた。
それは、賢者ホワイトが設置した転移魔法装置だ。あれがあれば王都までの長い道のりを行かなくて済む。
その装置は、ここからそう遠くない街にある隠れ家にあった。
「よし。行くぞ」
俺は、ホワイトとミスティを連れて隠れ家に向かう。
皆ボロボロだった。ここに来るまで、激しい連戦を強いられてきた。回復薬も殆ど使い果たしている。
それでもホワイトとミスティは、魔王城陥落の後、仮眠を取ったはずなので多少は体力が戻っているだろうが……俺はあれから一睡もしていないので本当に疲れ切っていた。
そう。デントを連れ出し、谷底へ落とす計画を実行するために動いていたからだ。
お陰で足取りは重く、歩くのもおぼつかなかった。
「ランドさん。辛そうですけど、大丈夫ですか?」
「あ……ああ。少し疲れただけだ」
「そうですか。すみません、私の魔力が尽きてなければ……」
ミスティは、魔界での戦闘で受けた傷を治療するため、俺達よりずっと多くの魔力を消費していた。
特に魔王の配下を倒すために、多少無茶な戦い方をしたからな。……だけど、そのおかげでこうして無事、人間界に戻ることが出来た。
「ミスティが気にすることはない。あれは、ランドが悪い」
「な、何だと!?」
「敵の大群に真正面から突っ込んでいくなんて、自殺行為。デントならともかく、貴方がそんなことしたら死ぬ」
ホワイトが口を尖らせて言った。
……デント。
その名前を聞いた途端、心臓を鷲掴みされたような気分になった。
「くそっ……」
俺は誰にも聞こえない声量で呟いた。
何故こんなにも心乱されるのか分からない。
いや、分かっている。あのデントの存在だ。
勇者である俺より、遥かに強い力を持つ田舎者。
彼奴が居たせいで、俺は今まで積み上げて来たものを壊されてしまった。
……彼奴さえ。彼奴さえ居なければ俺は……。
「ランドさん?」
「ん? あぁ、すまない」
「いえ……」
ミスティの心配そうな声を聞いて、俺はハッと我に帰った。
……ああ。でも、もういいんだ。全て終わった。
魔王を倒し、デントは死んだ。
後は、勇者が魔王を倒したと国中に伝えれば、俺は英雄になれる。
この世界を救ったヒーローとして、皆に称賛されることだろう。
そして、その栄光の先に待っているものは、地位と金と名誉だ。
「……フッ」
思わず笑ってしまった。
「……ランド? どうかした?」
「いや、何でもない」
「そう。……でも、やっぱり疲れているみたい。街に着いたら、少し休んだ方がいい」
「そ、そうですね。デントを早く捜索したですけど、今は無事に帰ることの方が大事ですよね。ランドさん、是非そうしてください」
「……そうだな。じゃあ、そうするか」
確かに、体力が限界なのは事実だ。
ここで無理をして倒れては元も子もない。ここは二人の意見に従っておこう。
目的地までもう間もなくだ。
俺達は、街に向かって歩き続けた。
*****
「……………………キヒヒ。あれが勇者ランド・エルティネスか」
勇者一行は、気付かなかった。
彼らから遠く離れた場所から、『魔眼』を発動してその様子を眺める者が居たことに。
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