第12話「リディアの願い」
「あー美味しかった。お腹いっぱい」
「お口に合って良かったです」
僕は、満足そうにお腹をさすった。
リディアが作ってくれた料理はどれも絶品だった。
特に、彼女が焼いてくれたこの獣の肉が最高に美味かった。
「あの。デントさん」
「はい?」
「その、お願いがあるのですが……」
リディアは恥ずかしそうにもじもじしながら言う。
「実は私、ずっとその世界に憧れてまして……。その、もし良ければ、私も一緒に連れていってもらえないでしょうか?」
「えっ」
「ダメでしょうか?」
上目遣いで僕を見つめるリディア。
こんな可愛い女の子に、そんなふうに見つめられたら断れるわけがない。
「いいですよ。是非、一緒に行きましょう」
僕は即答していた。
すると、リディアの顔がパァっと明るくなる。
「本当ですか!? 嬉しいです。ありがとうございます」
「いやいや。お安い御用だよ」
「おい貴様。勝手に妙な女を連れて行くんじゃない」
ヒルデは、呆れたように言った。
「いいじゃないか。僕らもノリと勢いで旅する間柄になっただけの二人だし、今更もう一人増えても全然問題ない」
「何と言う適当さ……。そもそもリディア。お前は本当にそれで良いのか?」
「はい。私は構いません」
「はぁ………………そうか。なら、好きにしろ」
また呆れた表情を見せるリディア。でも、同行を認めてくれた。
「よし! じゃあ、これからよろしくリディア」
「はい! では、早速旅の準備をしてきます! 実は私、こんな日が来るの夢見て旅道具を鞄に詰めていたんです!」
嬉しそうな様子で部屋を出ていくリディア。
それを見送ると、ヒルデが口を開いた。
「ふん。馬鹿なのか世間知らずなのか。会って間もないにも関わらず、あの信じようだ」
「ヒルデ。細かいことを気にしないのが長生きのコツらしいよ?」
「三百年以上生きる私に、長生きのコツを語られても困るのだがな。……ところで、デント」
「ん?」
「いや。私が気にするのも変な話なのだが、貴様が忘れているやもしれんからあえて言おう。……あのエルフ共はどうする?」
「あのエルフ?」
「貴様が氷漬けにした、あの無礼なエルフ共だ。あのまま放置していれば、遠からず奴らは凍死するぞ」
「ああ。それなら大丈夫。あの氷魔法は、しばらく経てば自動的に溶けるようにしておいたから」
「ほう。便利なものだ」
「まあね」
まあ、他に多種類の魔法を並行して発動するから、魔力消費はかなり多いけど、これくらい朝飯前だ。
「だが、あのエルフ共は我々を殺すと言っていた。あれを放っておくと面倒だ」
「そうだねぇ」
「ところで、あの魔法はいつ頃溶けるのだ?」
「うん。多分、そろそろ溶け終わっている頃だと思うよ?」
僕がそう言った直後。
バタンっ! と、外へ続く扉が開く音が聞こえた。
そして、誰かの足音と共にこちらへ向かってくる気配を感じる。
「むっ。なんだか外が騒々しいな」
すると、僕らがいるリビングに、二人の男女が現れた。
「なっ!? お、お前らは……!!」
「あ。里の入り口で出会った……フェル、だっけ? それと、そっちは族長の人」
僕は、現れた人物を見て驚いた。
それは、先ほど僕カチンコチンに凍らせたエルフの二人だったのだから。
フェルと族長は、僕らを見るや否やすぐさま臨戦態勢に入る。
「……何処までも侮辱してくる不快な連中だ。よもや、族長である俺の屋敷に土足で踏み込んで来るとは。もはや許せん!!」
「えっ。ここ、族長の屋敷だったの? ……じゃあ、フェルは?」
「フェルは、俺の娘だ!!」
ああ。そう言うことね。
……ん? ということは、リディアは……。
「お待たせしましたー。……って、お父様? フェル?」
その時、ちょうどよくリディアが戻ってきた。
彼女は、目の前の光景に目を丸くしている。
「リディア! この愚か者どもは……!! いや、そういうことか。貴様らっ!! 娘のリディアを脅して無理やり中に押し入ったんだな!? なんという卑劣な行為!」
「えっと……。ちょっと待ってください。何か勘違いをしているようですけど」
「黙れぇい!!!」
族長が怒鳴ると、その大声が衝撃波となって僕らを襲う。
魔法の類だろう。適当に、バ〜リア。
僕は、衝撃波を風の障壁で防いだ。
「なっ……!? き、貴様は……一体……」
「デント・アルフォート。勇者パーティーの一員さ」
「ゆ、勇者だと!?」
族長が目を丸くしていると、リディアが僕の隣に立った。
「お父様。彼は、私のお客人です。どうか怒りを鎮めてください」
「リディア……。しかし、こいつらは……!」
「……お父様。それに、フェル。大切なお話があります。私、リディアはこの家を……この里を出ます!」
「な、何ぃぃぃ!?」
驚愕する族長。
「ど、どういうことだ! なぜお前がそんなことを言い出す! どうして、よりにもよって人間なんかと一緒に行くなんていう話になる! お前は俺達の大事な娘なんだぞ!」
「私はもう、この里から解放されたいのです。私は、もっと自由に、世界を見てみたい……」
「リディアぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫し、頭を抱える族長。
そして、隣にいたフェルが口を開いた。
「……お姉様。本当に行ってしまうのですか?」
「ごめんなさいね。フェル。でも、あなたもいつかきっと分かるわ。自分がどれだけ狭い世界に囚われていたのかを」
「……分かりました」
「ありがとうございます」
族長が頭を掻きむしりながら立ち上がる。
「おい小僧!! 貴様、よくも娘を誑かしたな! 絶対に許さんぞ!!」
「えぇ? 僕何も悪くないじゃん」
「死ねぃ!!」
僕の話を聞かず、殴りかかってきた族長。
それを僕は、難なく避けた。
「もう相手をするのは飽きた。スーパーパーンチ!」
「ぐほぉ!?」
族長の顔面にパンチを叩き込む。
族長は、そのまま吹っ飛んでいった。
「よし。これで邪魔者はいなくなったね」
「すみません、デントさん。ご迷惑をお掛けして……」
「気にしないでさ。だって、僕らはもう仲間じゃないか」
「…………! は、はい! よろしくお願いします」
僕とリディアは、笑顔を交わし合った。
「さてと。ここに留まっていると、色々と面倒なことになりそうだし、サッサと撤退しようか」
「そうですね」
「……お姉様」
すると、フェルがリディアの元へ駆け寄った。
「お父様のことなら大丈夫よ。私が説得するわ」
「ありがとうフェル。……どうかお元気で」
「ええ。お姉様こそ、元気で」
「はい!」
二人は抱き合う。
その様子を見て、僕は微笑ましい気持ちになった。
美しき姉妹愛だ。
「では、行きましょうか」
「うん」
「はぁ。全くもって馬鹿な連中だ」
こうして、僕とヒルデとリディアは屋敷を後にしたのであった。
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