今年も今日とて五色豆
今年もやって来ました節分話、頭を空っぽにしてどうぞー。
うふふ♡ 天のダッチャ様から、昨年の御礼だと素敵なお料理のレシピが届きました。
☆
とある村で鬼っ娘嫁が、頬をほんのり桜色に染め、贈り物により高鳴る胸の鼓動に合わせ、たわわな膨らみをより一層、膨らませウッキウキしておりました。
「おねえちゃん、どうしてウッキウキなの?」
彼女の甥、姪っ子達が聞いてきます。夫である桃太郎の年離れた弟と妹達です。
「ウフフ♡ それは今日は節分だからですよ」
「せつぶん?、豆まきがたのしみなの?」
「きょねんは、おうちがこわれちゃったよ」
「また、ヘンな鬼がくるの? おうちに?」
次々と聞いてくる、ちびっ子達。
「今年は多分、来ませんよ。ダッチャ族からお年賀状が、届きましたから。バッチリ婚礼衣装姿でしたわ♡ ああ! 桃様、今晩はお姉ちゃんと桃様とが仲良くする日なのです」
「いっつも、なかよしじゃん」
「うう~ん、ちょっと違うのです。今晩お布団の上で、とっても仲良くすると赤ちゃんが来るんですよ」
鬼嫁が頬染めながら話すと、ちびっ子達は興味津々。
「おふとんのうえで、とっても、なかよくすると赤ちゃん! 赤ちゃんほしいー!」
「うふふ、お姉ちゃんは鬼族ですからね。いっぱい仲良くすると、いっぱい赤ちゃん来るんですよ」
「いっぱい、赤ちゃん、ほしぃぃぃ!」
「んじゃぁ、桃様にそう言って下さいな。あ、そろそろおやつにしましょう。節分だから五色豆を用意してますよ」
「わーい! おにいちゃんに、赤ちゃんいっぱい、ほしいって、いってくるぅぅ!」
ドドドドッ! 甥姪達は囲炉裏端から庭先で巨大な体躯、艷やかな黒べこ『トモエ』を相手に、鍛錬を重ねる兄、桃太郎の元に駆け出して行きました。
「うふふ♡ いい子達ねぇ。桃様のお子は、もっとかわゆいに決まってます♡ 回数✕子宝ですもの。初めてといえど、性根入れて張り切ってもらわなくちゃ」
その為には先ずは栄養、滋養。鬼嫁は霊力が落ちぬ間に、ちょっと山に鹿を仕留めに行ってきましょうと、子らにおやつを用意すると、ダッチャ族からの封書を手にし、材料集めに裏山に出向いて行きました。
グツグツ。グツグツ。ゴリゴリゴリゴリ、クチャクチャネリネリ……。
(えと。先ずは山椒魚、ソレを黒焼きにしたものを、細かにすり潰す。それを山芋団子によく混ぜ込む。そして八ツ目鰻で出汁を取り、そこに根菜をたっぷり入れ、雄の鹿肉のぶつ切りと共に山芋団子を煮込む、味噌で味を整えて。これぞ! バツグンに精力をみなぎらせる『ダッチャ族、秘伝初夜の飯』)
グツグツ、グツグツ、グツグツ……。
「団子が黒い……」
「あらん。桃様。おかえりなさいませ」
夕暮れ時が迫り、鬼気が抜けつつある密かに愛してやまない未だ手つかずの妻から、そこはかとなく漂う乙女の色気に、早くも鼓動が高まる清らかなる身の夫、桃太郎。
鎌首をもたげ上げようとする煩悩を、気合い一発でなだめすかし、精神統一により大人しくさせた桃太郎は、ただいまと応えると、焼き鰯がお頭付きで乗る膳が用意された場にすとんと座る。
「……、……。そういや節分。ゴホン。昼間さ、おやつに五色豆だって、喜んでいたよ」
「うふふ。炒り豆より、お砂糖とニッキが使われている五色豆は、少々値の張るお菓子ですもの。ニッキには毛細血管を刺激する作用があり、毛細血管の血行が促進されて全身の皮膚・脳・内臓などが活性化し、冷え性の改善がありますの」
スラスラ効能を述べつつ、大振りな椀にたっぷりよそう、人間に近づく鬼嫁。盆を使わず、わざと大きく手を広げ椀を持ち、夫に差し出します。
「ふ……。熱いですわ。早く受け取って下さいな。人間に近づいてるせいで、手のひらが火傷しそうですわ」
その言葉に即座に反応をする桃太郎。愛しの妻が火傷等、とんでもないとばかりに椀に手を添えた。つっと。触れ合う妻の白魚の様な指先。
(いかん! 椀を跳ね飛ばし、ここで仲良くしそうになるではないか! ダメだ! 誰が来るかも知れぬのに!)
「ご飯をよそいますわ。今日はトロロ汁も用意しましたの」
すり鉢の中のトロロ汁に気を取られていたのか、手渡すと次の行動に移した鬼嫁のおかげで、桃太郎の煩悩が満ち満ちた事により発生しそうになった暴走は、寸前で食い止められた。その時!
「ンモォォォォ!」
バキベキボキ!檜皮葺きの屋根をぶち破り、ピカピカ、ツヤッ艶の巨大な黒牛が、雄たけびと共に乱入して来た!
「何奴!こっちに来なさい」
「きやぁ! はい、桃様♡」
妻を抱き懐にしっかり入れ込むと、腰に下げている霊刀をするりと抜き、目の前の敵に付き出す桃太郎!
「ンモォォォォ! 迎えに来た! その女、鬼ヶ島の鬼と見た! 渡してもらおう」
「はあ? 我が妻に何を言う! 賊め、成敗してくれよう」
「ンモォォォォ! 何が我が妻だ! 先に婚約をしていたのは、こっちだ!返してもらおう! 我は牛鬼なり」
牛鬼のそれに、どういう事だと、問う桃太郎。
「亡き爺婆が勝手に決めた相手なのですの! 私は365日、1分1秒! マッチョなイケメン殿方にしか、興味はありません! 桃様こそ私の最愛の殿方、牛なんてまっぴら御免ですわ! きちんとその旨をお伝えし、婚約破棄をしたはず。爺婆も消えた今、無効でしてよ!」
ひしっと桃太郎の胸に身を寄せる鬼嫁!
「我も普段は人の姿であろう! ンモォォォォ!」
「節分の夜は牛のくせに、さっさとお引取りくださいませ」
ツンとそっぽを向く鬼嫁。
「と言う事だ。振られた女にしつこく言い寄りに来たとは。男としてどうかと思う」
ひしっと抱きしめ見せつける桃太郎。
「ンモォォォォ! くぅぅぅぅ。ようやく見つけたと思ったら、悔しい! 悔しいぞぉぉ! ん? 何やら飯の匂いが……」
奇跡的な偶然により、グツグツ煮えているままの鉄鍋に目をつけた牛鬼。
「なんだ? その黒い団子は……」
「あ! それはいけません。桃様の為に作った『ダッチャ族秘伝初夜の鍋』ですもの!」
「はい? なんだその妖しげな料理名は……」
「ですから、今日は節分ですもの。桃様のお子が欲しいのです」
「昼間、あの子達が言っていた事は……」
「回数✕子宝ですの。鬼族の女は多産ですのよ、桃様」
桃太郎の腕の中、薄紅色に頬を染め潤む視線で見上げて来る妻に、いやまて。一晩だぞ? なんだその『回数✕子宝』と、ツッコミを入れたい夫。
「フフン! そうはさせぬ。ンモォォォォ。ゴクゴクモグモグ……、ゴクン」
いちゃつく二人に業を煮やした牛鬼は、鍋に顔を突っ込むと、ひと息に中身を啜り上げ飲み干した!
「ああ! せっかくの秘伝鍋が!」
鬼嫁の嘆きの声。
「いや、良かった。ええ? おい! 牛がでっかくなるぞ!」
「ンモォォォォ! みなぎるウゥゥ!」
牛鬼から放たれる雄のオーラ!
「桃様! 怖い」
「大丈夫だ!」
ひしっと寄り添う夫婦!
「嫁を渡せぇぇえ! ンモォォォォ!」
雄たけびを上げた巨大な黒牛! 刀を突きつける桃太郎に襲いかかろうとしたその時!
「ンモォォォォ♡」
バキベキボキボキ! 縁側の板戸を破り、雄のオーラを察知した、黒べこ(お年頃の乙女)『トモエ』が乱入して来た!
「ああ! トモエ! なぜここに!」
「牛鬼のフェロモンに、引き寄せられたのですわ!」
「ンモ?」
♡ボーイ・ミーツ・ガール♡
「ンモン♡」
恥じらう黒べこトモエ。
「ンモォォォォ! ンモンモ!」
口説く牛鬼。
「なんて言ってるのだ?」
「かわいいお嬢さん、結婚してくれないかって、あら、トモエは初めて出逢った男に、肌は許さないと言ってましてよ」
妻に通訳をしてもらう夫。
そして。懸命に口説く牛鬼を眺めている内に、夜はしんしんと更けていき……。
「ンモ♡」
「ンモ♡」
破れ屋根の上が、ほのぼのと明けが来る頃、牛鬼は見事、トモエの心を射止めると。
「ンモォォォォ!」
雄たけびを上げると、ひしっとトモエに寄り添うと。夜が明けた事により霊力が戻った牛鬼は、転移の術を構築。ボワンと煙と共に姿を消した。
「ふう。お幸せに」
「トモエ。幸せにな」
今年も家が壊れてしまったな。と鬼に戻った愛しの妻と笑いながら、雀が舞い飛ぶ青い空を眺めた、桃太郎でございましたとさ。
おわり♡
何年続くのかしらねぇ(^O^)/